第19話「ゴブリンを一掃する兵器」

 町の北に着いた俺たちは軍事施設の制作を始めることになった。町の外には町作りスキルでは作れないので町の外側ギリギリに設置することにした。


『トーチカを作成します』

『固定砲台を作成します』

『対物ライフルを作成します』


 ガンガンと軍備を整えていく。頭に響く言葉だけではそれが何なのかはよく分からないが、生産されていくにつれて武装が銃火器メインであることが分かった。銃火器は近年発明されめざましい進化をしているが、火薬の生産に手こずっているとの話だ。


 その銃火器が弾薬を大量に備え大量に配備されていく。


「な……な……何だこれは!?」


 町の防衛ラインを守っている自警団の皆が口をあんぐりと開けている。とんでもないものを見たかのような顔をしている。実際とんでもないものなのかもしれないな。


『防衛設備を稼働させます』


 ガコンと固定砲台が動き始めた。トーチカも備え付けの銃火器が自動で動き始める。対物ライフルははるか遠くの方向に狙いを定めている。


「なあアポロ……もしかしてお前のスキルはレアスキルなのか?」


 自警団の一人がそう尋ねてきた。そうだな……レアといえばレアなのだろう、それは否定しない。


「珍しいという意味ではレアスキルでしょうね。実用的かどうかはまた別問題としてですが」


 司祭様も知らない謎のスキル、しかしそれは役に立つものであるかどうかを決定しない。場合によっては誰も持っていないようなゴミスキルを押しつけてくることもあるのが神というものだ。


 銃火器達は絶えず動き、索敵をしている。ゴブリンが大量発生したそうだがこの装備の前に出てくる運命を持ったことを気の毒にさえ思えた。


「ゴブリンの到達はあとどのくらいかかるんですか?」


「大量発生を確認したのが三日前だからあと一日ってところだろうな……正直自警団なんて入らなきゃよかったと思っているよ。スキルが武道家だったからって安易に自警団に就職するべきじゃなかったんだ……」


「別にいいんじゃないか? スキルを生かして生きていくって恵まれた生活だと思うぞ」


「お兄ちゃんみたいな超レアスキルをもらった人の意見は当てになりませんよ……」


 はて? 俺のスキルが珍しいことは確かだが恵まれているとは思わないのだがな。需要に限りのある商売だからな。町が豊かになって全家庭に井戸を作るだけの金があったとしたら、それ以上井戸を作って稼ぐことはできない。他の商材だって同じ事だ。限りある需要をじわじわ食っているのが俺たち兄妹の現状だ。こういう魔物の大量発生などという稼げそうなイベントが都合よく起きるはずもない。現実はいつだって優しくないのだ。


「これでゴブリンどもを追い払えるのか?」


「ええ、多分……」


 保証は出来ないが、これだけの銃火器が揃っていればゴブリンごときなら消し飛ぶだろう。ただ、全部俺が見たこともないようなものなのでどの程度の威力があるのか分からない、そこが不安点だ。


「大丈夫だよな? 俺が戦う必要は無いよな?」


 この人自警団に入ったんじゃないのか……やる気が微塵も感じられない。確かにこの町は長い間平和だったけれど、命を賭けて町を守る役目に覚悟も無しに就いたのかよ。


「任せてください! お兄ちゃんの作るものは完璧ですから!」


「ああ、信じるよ、ありがとう」


 お前が戦うんだよと言いたい。自警団という言葉の意味を説教してやりたい、そんなことを言っても仕方がないので、索敵を続ける防衛設備をそのままにしておいて俺たちは帰宅した。


「お兄ちゃん、アレで町が守れると思いますか?」


 シャーリーの疑問も当然だ。初めて見たものばかりなのであれらがどんな威力を持っているのか分からない。ならばそれを不安に思うのだろう。しかし俺からすればあの装備が一体どのような威力を持つかは大体分かっていた。


「ゴブリンの群れくらいなら一掃出来るだろう。ただ、使い終わったらしっかり破棄しておいた方が良いだろうな……」


「なんでですか? そこまで強いなら常設した方が便利なのでは?」


「領主に『反抗の意思あり』と見られかねないからだ」


 シャーリーは何かに恐怖するように怯えながら俺に問いかける。


「あれ、随分大きいですけどそこまでヤバい威力をしているんですか?」


「ああ、私兵隊くらいなら追い払える程度には強いぞ」


 そう、砲台ともなると攻城兵器にも用いられるくらいの破壊力がある。それを何機も用意しているなど襲いかかってくる方からは恐怖でしかないだろう。本来ああいったものには発射するために火薬が必要だが、そこはスキルで無限に弾薬が出ることはボウガンに矢が自動装填されていたことから予想している。


 無限に発射出来る砲台などという物騒なものを揃えていると知られたら面倒なことになるのは確定なので使い終わったら処分しておかなければな。


「しかしもったいないですねえ……そこまで便利なものを使い捨てちゃうんですか?」


「まあスキルで何度でも作れるからな、破棄すること自体はそんなに気にするようなことでもないだろ」


「ゴブリンごときにはやりすぎじゃないですか?」


「しょうがないだろ、丁度いいくらいのものがアレしかなかったんだよ。家庭用でゴブリンを一掃するのはキツいだろ? 自警団の練度に至ってはアレだぜ? 多少強すぎるくらいの方が良いんだよ」


 死者を出さないために多少のリスクを取ることはしょうがない。たとえゴブリン相手でも大群になれば人間が死ぬことは十分あり得る。死者蘇生のスキルを授かる奴もいると聞いたことがあるがそんな者がこんな辺境の町で燻っているはずもない。つまりは俺たちでなんとかするしかないということだ。


「ゴブリン達も哀れですね、世界の隅っこみたいな町に攻め込んだらとんでもない兵器が待ち構えてるとは思ってないでしょうね」


「ゴブリンに知恵があるかは議論の余地があるが確かに弱い相手を狙う傾向はあるらしいな」


 トカゲの尻尾をもぎ取ろうとしたら相手が巨大なドラゴンだった、ゴブリンからすればそんな驚きを与えられることになるだろう。一匹たりとも生きて帰すつもりはないし、ゴブリン達は存分に絶望するがいいさ。


「お兄ちゃん、お風呂に入ってきますね。今日はお兄ちゃんに夜這いには行きません……万全の状態でゴブリンを追い払ってくださいね」


「うん、ゴブリンの排除はもちろんするが、まるで善行を積むみたいに言っているが兄に夜這いをかけるのは当たり前のことではないからな?」


 シャーリーが部屋を出て風呂に向かったのを見送ってから、スキルに解説が欲しいところだと神様に愚痴りたくなってしまったのはしょうがないことだろうと思う。

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