『町作り』スキルで兄妹で生活していたらスキルが進化して町が発展していきました。え? 戦うんですか? 俺のスキルは『町作り』ですよ?
スカイレイク
第1話「スキル『町作り』」
「お兄ちゃん! 起きてください! 今日はスキルがもらえる日なんですよ! 何を寝坊しているんですか!」
妹のやかましい声が俺の部屋に響き渡る。元気そうで何よりだ。
「分かってるよ……でも『今日は』じゃなくて『今日から』だろ? 急ぐことはないんだって」
今日は全人類が平等にスキルをもらえる十五歳の誕生日。もっとも、十五歳以上なら誰でももらえるのでありがたみもないし、都合が悪ければ別の日にすることも可能だ。
「私が気になるんですよ! お兄ちゃんのスキルですよ、どんな神スキルがもらえるか気になるじゃないですか!」
「はいはい、俺が悪かったよ。起きるからもう少し静かにしてくれ」
「まったくもう、父さんと母さんが今の状況を見たら泣きますよ?」
「シャーリー、二人とも出稼ぎに行ってるのは知ってるだろ。心配は無いんだよ」
しかし妹は納得がいかない様子だ。
「二人の仕送りがいつまで続くかも分からないんですからね、お兄ちゃん、稼げるスキルをお願いしますよ?」
「それは神のみぞ知るってところだな」
与えられる奇跡は完全に運任せ、当たりを引ければ良かったねという世界だ。そんな不確定なものをあてにはしたくないのだがな。
朝食はシャーリーが気合いを入れて作ったらしく、シチューとパン、それにサラダとうちの家計事情からすれば結構がんばっている内容だ。こういうのを験を担ぐというのだろうか?
「お兄ちゃん、頼むからレアスキルをお願いしますよ! クラフト系なら『万物の創造者』とか戦闘系なら『剣神』あたりを希望しておきます」
「選べるもんじゃないだろうが……無茶を言うな」
「だってー……私がスキルをもらえるのは来年じゃないですか、お兄ちゃんがいいスキルだと私も希望が持てますし」
「わがままな奴だな……」
そうこう言い合ってから俺は念入りに見送られながら家を出た。教会でスキルを授かるわけだが、正直ハズレを引くのじゃないかと恐れていたりもする。あまり期待はしないようにしているんだ。期待するから外れたときに絶望する。過剰な期待は禁物だ。
さて、教会に行きますかね……
「あっ……お兄ちゃん!」
頬に柔らかいものが触れる、遅れてそれが抱きついてきた妹の唇だと気づく。
「いってらっしゃい……幸運を祈っています」
「ん……行ってくる」
最近妹のスキンシップが過剰な気がする。父親代わりってやつなのだろうか、お風呂に一緒に入ろうとしてきたのを断るのには苦労した。いや、小さい頃だったらそれもあり得たかもしれないが……この前見た妹の肢体を思い出した。発育の良いやつだな。
何なら妹関連のスキルが俺に与えられるのではないかとさえ思えてくる。そのくらいシャーリーは俺にベッタリだった。
町に活気はそれほど無いのだが俺に対する注目はそれなりにあった。レアスキルがもらえると戦闘職なら国のために戦うことになって、英雄を輩出した町として有名になる。生産職なら町の名産品を作れる。俺のもらうスキルに町の将来がかかっていると言えば言い過ぎだが、多少の期待をされていることは確かだ。
教会のドアを開けると司祭様が仰々しく俺を迎えてくれた。
「やあアポロくん、君もついに大人の仲間だね、おめでとう」
「そうですね、思えば長かったような気もします」
「それでは早速だが君の儀式を始めようか」
「はい」
俺は彫像の前に跪いて祈る。これだけで信仰心があろうが無かろうがスキルをもらえる便利な世界だ。
『町作り:Lv1を習得しました』
「……? 町作り?」
「スキルはもらえたかね?」
「え、ええ……一応」
「問題無ければ私に何を授かったのか教えてもらえるかな?」
俺は正直に言っていいのだろうかと悩んでから答えた。
「『町作り』だそうです」
「ほう……町作りとな……? 前例が無いスキルじゃな……」
「レアスキルなんですか?」
司祭様は気まずそうにしていた。
「レアスキルではあるのじゃと思う……ただ……レアだからといって有用とは限らんのじゃがな……」
「ハズれっぽいってことですか?」
「うぅむ……全く知らんスキルじゃからの……表に出て使ってみるといい。ワシには分からんのう」
はぐらかされたような気分で教会を出た。町作りってなんだ?
家に帰るとシャーリーが抱きついてくる。ご丁寧に体の線が出る薄着なのが狙ってやっているのだとしたらあざとすぎる。
「あ! お兄ちゃん! スキルはなんでしたか?」
俺に抱きついて質問してくる、いや、質問するのに抱きつく必要はまるで無いと思うのだが、シャーリーには重要な意味でもあるのだろうか?
「待ってたのかよ……『町作り』だそうだ」
「ほう、聞いたことの無いスキルですね」
「当たりなのか外れなのかもさっぱり分からん」
「とりあえず使ってみればいいじゃないですか?」
『現在、『道』を設置可能です』
「ちょっと町外れまで行ってみようか」
「ここで使うには都合が悪いんですか?」
「ちょっとな……」
何が出来るか分からないが、道を家の中で作るのは問題があるだろう。町外れにはちょうど荒れ地があったはずだ。
町を歩いて行くとやはり好奇の目で見られていた。もうしょうがないと諦めて町外れまで急いだ。
「さて、この荒れ地だが……」
「こんなところで何をやるんですか?」
「まあちょっと見ててくれ」
『道を設置』
「え? 道?」
目の前の百歩分くらいの区画が雑草を刈られ、綺麗に整地され、表面に石畳が敷かれた立派な道が出来た。
「なるほど、確かに町作りですね……」
「ショボくね?」
我ながら外れスキルだと思う。こんなものを引くとは思わなかった。道なんか作れたからなんだっていうんだ。
「これしか作れないんですか?」
「今のところは……」
「道の舗装でもしますかね」
失望を隠していない妹に申し訳ないような気がした。確かに道の舗装が出来るだけというのは少し虚しいスキルだ。
「まあ残念会って事で家に帰りましょう! 放っておけばいい使い道が思い浮かぶかもしれませんし、お兄ちゃんくらい私が養ってあげますよ!」
「いや、妹に養われる兄というのは……」
「フヒヒ……私の言いなりになるお兄ちゃんですか、想像力をかき立てますねえ……」
「おーい、帰るんじゃないのか?」
「ハッ! 私としたことが、本物のお兄ちゃんがいるのに妄想のお兄ちゃんに興奮するとは!」
「はいはい、いいから帰るぞ」
「しょうがないですね……お兄ちゃんのスキルの詳細は気になりますが、今はアレが限度みたいですね」
「そうだな、こんな事だって十分あり得たんだからしょうがないな」
そうして帰宅すると、朝のメニューに肉を焼いたものが増えていた。
「本当はお祝いとして作ったものですけど……お兄ちゃん、元気出してくださいね?」
「分かったよ、シャーリーの気持ちはよく伝わった。ありがとう」
「お兄ちゃんは素直ですね、フフフ、じゃあ食べましょうか!
「カニバリズムの趣味は無いかなあ……」
「まったく……分かっているくせにはぐらかしますね……」
「俺には荷が重いようなことを言う方が悪い」
そうして食事をして俺は寝ることにした。せっかく人生で一回きりのチャンスだったのになぁ……妹には言えないような悲しさが今さらになって心を満たしてきた。
「外れスキル……か」
思い通りにはいかないものだな……どうしても納得がいかないのだが、これから折り合いをつけて生きていかなければならないのだろう。
『スキル使用により、建築可能物に『井戸』が追加されました』
これは……夢? 起床と就寝のあいだに見る白昼夢だろうか? とにかくそんな声が頭の中に響いたのだった。
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