オレたちの作る音楽は青すぎたから。~ドS学生作曲家の歌姫ズ育成譚~
@rusb
第1話 ドレスの中に入って支えるなんて!最後にスカート取り去る演出あるんだった!
「こんなところで終われないのに……!」
せいかは頭上へ今まさに降り注がんとする照明器具をスローモーションのように見上げる。
おそらくは、緩まったネジに由来する惨劇の始まる直前。
「顔だけは、守らなきゃ。顔以外は、どこが潰されたっていいから」
瞬時にそう判断し、うずくまる姿勢を取りたいのに、重い照明器具の落下速度に比べてせいかの動作はあまりに遅かった。
「だめかぁ。
文化祭ミスコンのファイナリストは顔面血まみれって、それはカースト下位に一目散だわ」
走馬灯さえもよぎらない絶望にすくむせいかは、目にも止まらぬ早さで飛び出してきた男に思い切り突き飛ばされた。
せいかはロングドレスであったため、裾に絡んだ男ごと通路に倒れ込む。
元いた場所にものすごい音を立て、照明器具が落ちた。
「無事か?」
せいかの耳元に爽やかなテノールが囁かれる。
反射的にひどく心地良い声だと、せいかの感性が告げる。
そのことに驚いたせいかは自分を抱きすくめるような態勢になっていた男を突き飛ばし、立ち上がろうとする。
だが、左足首に激痛が走り、また崩れ落ちてしまう。
男はためらいなく左足首にふにふにと触れてきた。
「ふむ。ねんざか。
惨事にそぐわぬ軽傷ですんでよかったな」
その時になって、せいかは恐る恐る男を見上げた。
男と目があって思わず呟く。
「魔法でもここまでにはなれないでしょ……」
男は色素のやや薄いアシンメトリーな髪をなびかせる。
左側のみを刈り上げ、逆に右目は後頭部から持ってきた長めの前髪であまり見えない。
たれ目がちで、まぶたの薄い一重の奥から覗く瞳は、野望に満ちたブルーとイエローのオッドアイ。
紛うことなきイケメンであった。
男は自分の容姿が他人に与える感情になどまるで介さないといった様子でたんたんと告げた。
「オレが偶然通りかかって良かったな。
もうすぐ聞きつけた助けも来るんじゃねーか。
ミスコンでの歌唱は今回は無理だろうが、ミスコンなんてしょせん狭いカテゴリーの話だ。
くだらねー」
「ほんとに、くだらないよ。
だけど、このまま歌唱へ出て行かなかったら、他のファイナリストに負けたことになる」
「は?どうでも、いいだろ」
「どうでもいいことにさえ一生懸命になれなかったら、いつか見つける大切なことになんかゼッタイ一生懸命になれないよ」
「お前……」
男は整った眉をしかめた。
「歪んだ負けず嫌いだな。
だが、悪くない。しかし立って歌うことはできんぞ。
めちゃくちゃ骨ぐみの組まれたロングドレスだからな」
「ねんざしたことをバレることはできない。運に見放された少女なんて、ごめんなの」
「よし、助ける。助けてやろう。
バレず、かつ勝ちたかったら、オレの言うことを一つ聞け……」
せいかは屈辱に震えた。
「まさか、ドレスの中に入って支えるなんて!」
震えながらも平常心を装って歌っていく。
歌が大サビ前間奏に差し掛かり、せいかは本日二度目の絶望に包まれる。
「最後にスカート取り去る演出があるんだった!」
スカートの中で男が笑った気配がした。するとスモークがもくもくと焚かれ、せいかの下半身部分が程よく隠された。
その隙に男は離れ、無事スカートを取りされたせいか。
ショートパンツ姿になり、観客が湧く。
歓声の中、せいかはスカートの重みもないため、何とか右足を軸に立ったまま歌い終わることができたのだった。
「グランプリ、つまりミス・青錆高に決定したのは、何と一年!流せいかだーー!」
順当にグランプリの座を射止めたせいかは壇上からにこやかに手を振る。
囃し立てる観客である生徒たちにキャライメージに合う安全なコメントをする。
「なんにもない私なんかに投票してくれて、本当にありがとうございますっ」
「そしてミスター・青錆高に決定したのは、またまた一年!夜陣疾風だーー!」
「お前らの遺伝子、オレの曲で揺らがしてやるよ」
せいかの後ろから軽快なテノールボイスが響いた。
反射的にせいかが振り返ると立っていたのは先ほどの美形というにはあまりに美しすぎる男だった。
小脇にノートパソコンを携え、口角の上がった表情は外見に負けないくらいの自信を湛えている。
「このミスターコンは序章だ。
来年から始動するDTMへのな」
それを受けて観客たちは熱狂的に騒いだ。
「夜陣さま、かっこいい――‼」
「夜陣さまの遺伝子欲しい――‼」
「DTMって一体何だァ――!」
文化祭が幕を閉じ、夕暮れの中、せいかと夜陣は対峙していた。
「あの……ありがとう。助けてくれて。夜陣くん、だっけ。同じ学年だったのね」
「礼はいいからオレの命令をひとつ聞け。命令は……オレの曲を歌うこと」
「歌を……?
一曲なら……」
「ああ」
せいかは肩の力を抜いて言った。
「スカートの中で良からぬことを思って命令されるんじゃないかなって心配だったから、簡単な要求でよかったよ」
「は?このオレが道具に発情するかよ」
「え?」
「お前は道具だ。
オレの曲をオレの指示通りに声帯を震わせ甲高く出力する、さしずめ金管楽器って名のな」
せいかはあっけにとられて立ち尽くす。
「あんた一体何様なの?!」
「ヤジンハヤテ様。コンポーザーだ」
「あのねー、男の子は皆、私と一言喋れたら一生の思い出にするって言うくらいなのよ?
そういう、超ハイクオリティな女の子と今話せてるって、分かってる?」
「お前は別に見た目とかもだいたいフツウだが、一つだけ世界で通用する替えの効かない才能を持ってる。だから声をかけた」
「それって一体何なの?!」
「『声の高さ』だ」
「高さ……?!
確かに声は高いと思うけどだからって才能って言えるほどじゃ……。
ポップスの曲でも高くて歌えない曲たまにあるし」
「それは気にしなくていい。
歌手がファルセットで歌うところをチェストボイスで歌おうとするなんて、歩兵が重装騎兵に立ち向かうようなものだからな」
「チェ……チェスト……?」
「とにかく! 俺調べでこの高校で最も高い声を持つ人物は『流せいか』、お前だ。
まあ一人だけどうしても喋ってるところを聞けなくて比較調査できなかったやつがいたが、よりによってそいつが伏兵なんてことありえんだろうからな」
「それは嫌」
「は?」
「そのノーデータの子ともちゃんと比較して私を一番って言って欲しい。
私に妥協しないでほしい」
普通の女の子なら、恥ずかしくなってしまうようなセリフをせいかはまっすぐ夜陣の目を見て言い切った。
苦笑する夜陣。
「負けん気の強い道具だな……。そこまで言うならお前がそいつのボイスを入手してこい」
「……うまく乗せられた気がするけど誰なの」
「同じ学年の『出蔵レーレ』だ」
「ああ……『寡黙の才女』って言われてる出蔵レーレさんね」
せいかはノーデータの人物に心当たりがあったようだ。
翌日登校してくる出蔵レーレを待ち構えていたせいか。
いわゆるちんまりロリの容姿をしたレーレが早足で歩いてくる。
せいかの足首には、包帯。
これは実際に怪我しているからであるが、せいかはレーレとのすれ違いざまに捻挫が傷んでよろけたふりをしてバケツの水をレーレに思いっきりかけた。
バッシャーン!
しかもその水をせいかは氷を溶かしてキンキンに冷えさせていた。
普通なら真夏でも凍えてしまうほどの衝撃。
しかし叫び声一つあげないレーレにせいかは「ああ、そう……」とがっかりした。
「ごめんねっ、私ったらよろけちゃって。これ、使って!」
適当にハンカチを渡しながら立ち去ろうとするせいかが、レーレから完全に背を向けた瞬間。
「てめえ、わざとだろ」
あまりに低く自分の聴力で聞き取れる範囲の限界ギリギリの重低音をせいかの耳はキャッチした。
「重機音?!
いや、男の声……?!」
周りを見渡すがそばにはうつむいたレーレしかいない。
レーレの伏せた口が開く。
「わざとだよな包帯まで巻いて演技したみたいだが私はごまかされないぜ。認めるのか?
認めんのか?
その棒立ちだと認める気なさそうだな。
そりゃあ、そうだ。
誰だっていじめる悪意は隠したいもんだ。
ただ、いじめにタゲんなら相手が悪かったな。
人選ミスなのだぜ。
私の歯はハサミの刃みたいなもんで、口を開けば他人を傷つける。そう言われて育った。
だからわざとやった事実を認めないと知らん間にはさみの刃でお前の短いスカートの後ろズタボロに咲いてやるかもしれんのぜ?
おいおい何を放心してる……。
そんな権利ありゃしねーだろに。
あー、いじめられたのはこっちなのに何で私がドン引きされるんだよ……。
おかしいな。
おかしすぎるだろ。
だから今まで一切口を開かないで穏便にきたってのにみんなの平和、正義、真理ふっ飛ばした責任とれよっ!」
「……何て低くてまるで広い鍾乳洞に一滴だけ水が落ちて反響した、みたいのな地を這う重低音……」
「しょ……鍾乳洞?!
どうやって言い訳してやり過ごすかと思えば、ポエムんなし!
いじめを看破されたこの状況……優等生キャラやってるお前にとってヤバイって分からんのか?」
「やばいのはあなたよ。
今の声『録音』したわ。
今この廊下には誰もいないけど、はさみの刃であることをバラされたくなかったら、明日の放課後音楽室に来て。
ある男が私たちを待ってる」
レーレは顔を真っ赤にした。
「行くわけねーだろ!
音楽室で男と何するつもりだよっ!」
「いいえ来るわ、あなたは来る。
本当のひくーい声色……学校中にばらまかれたくはないでしょう?」
「お前っ、それで人間かぁー?!
私なんかよりよっぽどひどすぎる!」
「うんあの男の言う通りにやったんだけどやっぱり怒らせちゃったか。
ごめんね。私は今、きっと、道具なのよ」
せいかはニコッと微笑んだが、レーレには悪魔の笑みに映った。
「ちなみにレーレちゃんは才女なのよね。
だからちょっとした宿題も出させてもらうね」
「もう好きにしてくれ!」
次の日の放課後。
カギのかかった音楽室では高等学校においては決して許されないような、怪しげな光景が繰り広げられていた。
「さあ……跪け……跪けよ!
そして……歌え!」
教卓にふんぞり返って、見下ろし、命じるは、夜陣。頬を真っ赤に染め、目に涙を浮かべて、膝を付き、歌うは、せいかとレーレ。
およそ女子高生が使うにふさわしくない卑猥な歌詞の歌を歌わされていた。
「こんな屈辱、聞いてないっ!」
切れているせいか。
包帯はどうやら取れたようである。
どうってことない、という顔をしている夜陣。
それを諦めたように見て呟くレーレ。
「流ってクレバーなやつかと思ったが、めちゃバカなんじゃあ……」
一通り歌わされて、やっと開放される!
と思うふたりに夜陣は悪魔のごとく、今度は全校生徒の前で、つまり新歓部活紹介でこれを披露してもらう……!
と宣言する。
「これ……部活なのか?!」
「いったい……いつの間に何部に私たちは入部させられているの……?」
「当ててみろ。
不正解のほうはワンモアシング」
せいかの答えは
「ドS部」。
レーレの答えは
「ハーレム部」。
夜陣はつまらなそうな顔だ。
「……文化祭で伏線張ったんだかな。
正解は『DTM部』だ」
「ディーティーエム?って何」
「ドSと戯れるMたち」
「私、当たってるじゃない!」
「……冗談だ。正解はデスクトップ・ミュージック部。
パソコンで曲を作って歌っていく部だ。
伝説の『DTMer』を生んだこの高校でやることに意義がある」」
「まともね。でもっ、活動内容が異常よ!
人前で跪いてこんなエロソング歌えるわけないでしょ!
即退場させられるわ!
部活も解散じゃない?
ただ弱みを握られて入部させられた私たちは入るのを認めてもいないからいいけど!」
はっと自分のかん高い声にせいかは驚いた。
「安心しろ……。
跪かせたのははっきりとした意味がある……。
本番は立って歌わせるし、エロ歌詞だったのはオレの趣味……
ではなく羞恥心を取っ払うため」
「趣味だろ」
つっこむレーレを無視して、夜陣は手を高くかざした。
「これが本番用の曲と詞だ!」
別々に配られたそれを、それぞれ試聴するふたり。
「え……すごくいいんじゃ……曲も……詞も!」
「ボーカルがなくて、まだよく分からないけれど……」
夜陣はにやりと笑って言った。
「覚えとけよ! 次は本番の新歓でな!」
レーレが叫んだ。
「待て!お前はやると言ったらやるやつだ。
だから、私が歌わせられることはもう止められないんだろう。
だが、私は学校では一言もしゃべったことない……。
さすがに顔を晒しては歌えない!
舞台袖から歌うか、せめて仮面をつけて歌わせてくれ!」
「ふむ…………仮面で」
夜陣はやや満足そうに帰って行った。
残されたふたりは屈辱に震える。
「信じらんねー、あいつー」
「ねぇ、本番であいつの本性カミングアウトしてやろっ」
「大サビの盛り上がりのとこでぶちまけてやるぜ」
そして、一週間後の新歓本番。
一応覚えてきたふたりを夜陣は舞台袖へと導いた。
「せいかからだ。噛むなよ」
「はいはい。」
せいかは慣れた様子で舞台へ出て行く。
「聞いてくださーい、『オーシャン・アパート』。」
『あの夏の日のこと繰り返し反芻している
浜辺に浮かぶのは陽炎か蜃気楼かそれとも……
意識が飛んだ僕が起きて見たのは極寒のアイスブルー
芯から凍えるような不快な冷たさではなかった
むしろほてる身体に染み渡って心地良かった
遅れて心配そうに覗き込む
少女の目だと気付く』
ややだるそうに歌っていたせいかは観客の異様なようすに気付く。
興奮と熱中を目に宿して誰しもが聞き入っているのだ。
そして、自身の変化にも気付いた。
いつもよりさらに高く、芯があってどこまでも澄み渡る自身の歌声にせいかは酔いそうになっていた。
『そこは浜辺からは死角の奥まった洞穴
ばっくり冷えたのは目ではなく場所によるものだろう
少女がまるで人魚みたいなんてロマンチストにも過ぎるな
海がふたりを繋ぐ 降り注ぐはずの紫外線も感じさせない程に
少女の肌は透き通って
水滴を反射しきらきら
「あげる」と真珠を受け取る――』
間奏に入り、せいかは小声で呟く。
「無理……。私にはこの観客の期待……壊せない!
こんなに、こんなに注目されるなんて、ミスコンでもなかった!
もう……大サビなのに……」
夜陣は舞台袖のレーレに解説していた。
「普通、人間はニ〜三種類の声色を保つ。
低い地声チェストボイス。
高い裏声ファルセット。
これはほぼ誰しもが出る。
間をつなぐミックスボイス。
これは始めから出せたり、訓練しだいで出せたりするものだが、流はミスコンで歌ったときも、どんな高い音域も地声のみで歌っていた!
生まれ持った圧倒的声帯の短さ……声帯が短ければ短いほど、そいつの声は高くなる。
流せいかは地声以外の存在さえ、知らなかったのだろう……今日までは!
ミックスボイスという封印が解かれた時、流の高音域は常人の倍を超えるとオレは見積もった!」
『芯から凍えるような不快な冷たさではなかった
むしろほてる身体に染み渡って心地良かった
日没を迎える頃少女は僕を浜辺まで送る
陸がふたりを分かつ けれど僕は決して忘れない
真珠は 肌に映えるネックレスに加工したんだ
も一度赴くつもりさ
どうしても褪せてくれないから――』
ついに正しく歌い終えてしまった。
今日一番といえる大喝采が起こる。
「後光が見える……」
「もはや、カナリヤのさえずりとはいえない……力強い……!
そう、例えるなら『聖女』の吟唱!」
「心が洗われるぅー」
せいかはひとり噛み締めた。
「私にはこの雰囲気、壊せなかった――……」
舞台袖では仮面を付けたレーレが不満そうにしていた。
「せいかちゃん、ばかじゃねーの?」
そんなレーレの肩を夜陣がぽんと叩く。
「頑張れよ、レーレ」
「も……もう、仕方ねーな」
『世界が生まれ変わる 自分を手放すほど惹き合った
出逢いの化学反応 望み 憂いも生む』
「こわっ、誰だ?あの仮面の」
「仮面はサビでとる演出だろ、きっと」
「あんなに、小さいのに恐ろしく低音響くな」
『キミは笑って言った遠くても近くても
いつだって一緒にいると』
せいかの時と異なり、固まってしまっている観客に、レーレは不安を感じながらも歌う。
観客はレーレが妖艶過ぎて固まっていた。
『夢を信じ抜き追う姿見守るの
何にも揺らぐことはないんだろう』
夜陣は戻って来たせいかには何のねぎらいもせず、ひとりでレーレを分析していた。
「女子としては、いや人間としてもアリエナイ程の低音域の厚みとロングトーンが両立してやがる。
フフ、そうさせたのはオレだが……。
跪かせて上を向かせる&怒らせることで、がっつり喉仏を下げさせた。
さらに極限まで酸欠にすることで肺活を鍛えた……。
その効果、短期間でもはっきり現れたようだな」
『この宙を見上げて馳せる 七色の橋は夜でもきらり
溢れる想いを繋ぐ 同じ空の下見てると信じられるから
今なら分かる気がするんだ あの時笑っていたキミのこと
あの星を見上げて語る 今日より心躍る明日を』
レーレも滞りなく、歌い終えてしまった。
今まで張り詰めていた空気が弛緩し、喝采の渦が沸き起こる。
「かなり、背が低い……よな?
なのに、あの地を這うようなエロい声……!」
「どこか男心をくすぐる温かみもあって……!」
「例えるなら男を引き摺り込む『魔女』のようだ!」
「顔が見たいっ!」
「おーい、仮面、取れー!」
一人の生徒が叫んだ。
「そーだ、取ってくれー」
取れとれコールが始まりそうなのを察したレーレは、これからでも暴露しようかとレーレが迷っていると、夜陣がせいかを連れてのらりと舞台に現れた。
とたんに再度沸く観客である新入生たち。
「前年度ミスターの夜陣だ!」
「かっこいいー!」
夜陣はにやりとした。
「遺伝子揺らがせふたり分完了……」
夜陣はDTM部の簡単な説明をした。
「このように歌ったり、作曲したりするのがDTM部の活動です。入部お待ちしてます!
この看板歌い手ズ、カナリヤ改め、『聖女』と『魔女』もいますんで!」
そう言うと、初めて邪気なくせいかとレーレに微笑んだ。
毒気のない夜陣に何となく赤面する二人。
レーレは他人には聞こえないようにつぶやく。
「二つ名つけんな、中2過ぎだろ……。
恥っず。
恥ずすぎ。
だけど……。
まさか、地を這うこの低音が、受け入れられるどころか、歓迎されるなんて……。
この男がどハマリな曲を作ったおかげ、なんだよな……」
せいかもぼんやり考える。
「確かに私の遺伝子は昨日とはもう違う……。
昨日までだったらいくら声質が可愛くても、歌い手になりたい、なんて、とても思えなかった……。
でも、学校のミスで収まるふんわり安全なポジションは壊された……。
この男によって。
私、私……!」
せいかは思わず叫んだ。
「DTM部をよろしくお願いしまーす!
一緒に音楽やりましょー!」
そして生徒からの質問タイムに移る。ブルーのとげとげ頭がさわやかな一年生が質問する。
「二曲とも知らない曲でしたが、オリジナル楽曲ですか?」
「作曲はうちの自慢のコンポーザー、夜陣くんよ!」
思わずせいかは返事してしまう。
「んで、作詞はこいつらふたりな!」
「え……」
固まるせいかとレーレ。
「お前らの書いてたポエムに曲を付けて、交換して歌わせた」
「そうなの?!
緊張でお互いの歌詞までは覚えてないけど、確かに言われてみれば私の書いたフレーズ、レーレちゃん歌ってたような」
せいかが戸惑いがちに理解を示すと、レーレが口を開いた。
「私も宿題とか言って詞を書かされたが……。
何で交換なんかしたんだよ?」
熱い拍手の中、舞台袖に戻った夜陣は言った。
「分かっただろ?
お前らのポエムと声は恥じて隠すべきもんじゃなく、武器だ。
オレと一緒に世界で戦える作詞能力と声質っつうな!
分かったら、オレに着いて来い。
オレは神に等しいコンポーザーになって、世界一の音楽家の証であるグラミー賞を獲る。お前らにはその楽曲を歌ってもらう。
ただのいち歌い手から、世界に通用する歌姫にしてやる……!」
ふたりは思わず、同時に返事していた。
「乗ったわ」
ふたりと別れた後、夜陣がつぶやいていたのは別の話。
「正直、ふたりともを……っていうのは難しいかも知れんがな。
連れていくのは、ひとりで十分。
まあ、保険をかけるために、今はふたり同時進行……悪くない」
せいかはにこにこしていた。
「歌姫になりたい!」
レーレは慌てていた。
「何だ歌姫って?!
ノリで返事しちまったが、私はごめんだせ?!」
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