第4話 シュメール学者と仲間たち(おまけ)
人は太陽が消えるとも知らず、眠れば次に夜明けが来ることを当たり前のように思う。
森の奥で道に迷った旅人たちも、いまだ当たり前のように夜明けを待っていた。少しイザリースの話をしよう。
「イザリースって国はどの辺りだ?」
無精髭の商人は、ベルトから剣を取り外して焚火の傍に投げ出した。ハイカラなシャツ。さらに首元を開けて火に当たる商人の姿はこの時代からすれば滑稽だが、だからこそ新しい世界を渇望してやまないのがこの商人だ。
「イザリースが国りや?」
「エデンだとかユグドラシルの上にあるとか、そんな噂がある。もしかして、空の上とか?」
「あれは国の名前ではなかりや」
商人の今夜の連れは、旅をする学者だった。背丈は商人の腰ぐらいまでだろうか。柔らかな金髪を結った活動的な恰好の女子ではあるが、傍目には妖精だ。
妖精は何をしでかすかわからない。
「あ、流れ星りやり」といきなり目を輝かせることもある。
「流れ星?」
「われが思うに、賢者の石の輝きもこれに似てり?」
焚火をしながら丸くなった小さな学者は、肘をついて見上げる角度で頭を固定していた。
その日はにぎやかだった。
商人の連れが数人。それと学者の連れが数人ほど。同じ焚火を囲んでいた。
「そういえば、賢者の石の話をしていたんだったな。俺が思うに、そいつはイザリースという国に行けば何かしらの情報が掴めるんじゃないか?」
「だからイザリースは国ではなかりや。アマのゾーンの中心にある。アマの国の都をイザリースといいやり。アースガルドもヴァナヘイムもエルフの国もドワーフの国も一年に一度はイザリースへ集まるのがしきたりりや」
「よく知ってるな」
「イザリースには、賢者の石の情報なんてなかりけり。われも何回かイザリースにはいってりや」
「そうか。それで今度はシュメールってわけか」
「あそこから文明の匂いがしやり」
「よっ、シュメールル通だねぇ。その賢者の石とやらがあれば、大もうけできそうだ。錬金という魔術に使えるんだろう。そこら辺の石を金や鉄にできる。そんなことができれば、鉄の相場はこちらの思い通りだ」
商人は腕を組んで考える。「もしその賢者の石が手に入ったら、俺にもその情報を教えてくれないか?」という提案は、商売柄だった。
「教えりもなにも、一緒に探しにいけりや」
学者は大きなカバンを膝に抱えて、「持つべき者は友なりや?」と甘えてみるが、
「俺はそろそろ自分の店に帰るつもりだ。キリーズで俺の名前を言えば、すぐに俺の店はわかるだろう。キリーズって街はヒルデダイトを南下してからミツライムに行く海上ルートの途中にある大きな島の拠点だ。航路の中継地点だからそりゃもういろんな国の特産物であふれている。年々競争もきびしくなってきた。そんなわけで、俺の店にもそろそろ新しい商品を並べなくちゃならないんだ」
商人は得意げに自分の手荷物を振り返った。
それが今回の旅の戦利品。
「ヒルデダイトとミツライムは最近戦争をしてりや? そんな噂を聞いてり」
という声も今は古い。
「平和条約を結んで、みんな仲良しさ」
商人は笑って答えた。
「そんなもんなり?」
「キリーズに来てみればわかる」
「ほむ」
「おっと、その時は賢者の石ってやつの情報をよろしくな。もちろんただでとは言わない」
商人はそれこそ、「あんたは友だからな。報酬ははずむ」と胸を張った。
「報酬があるのはいいやりが、それ以前に、われはこのまま旅を続けられりや?」
学者はカバンを逆さにしてみた。もうカバンには食料も金も入っていないとアピールだった。
それはイザリースへ道が続いていた時のこと。
旅人たちは至る所でイザリースを語っていた。
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