第3話 ジョジョの奇妙な予告

I:……それに、荒木飛呂彦あらきひろひこ先生の『ジョジョの奇妙な冒険』だって、最初の頃は、ディオの……、


みにくくってズル賢くって母に苦労をかけて死なせ最低の父親だったぜ! 一番の金持ちになれだと? ああ! なってやるとも! おまえの「遺産」、受けとるぜ! ひとりでも生きられるが、利用できるものはなんでも利用してやる! だからこのジョースターとかいう貴族を利用してだれにも負けない男になるッ!


…………っていう、わりと小ヂンマリとした野望だったのが、


おれは人間をやめるぞ! ジョジョ――ッ‼


から、


UREEYYYウリリイイイイイイ


っとなって、


「不死身」「不老不死」おれはこの世を支配できるッ


……ってな感じになったら、それに対抗する主人公のジョナサンも、それまでの線の細い少年キャラから一変して、武論尊ぶろんそん先生&原哲夫先生の『北斗の拳』の主人公・ケンシロウのような外見の、筋肉ムキムキの屈強な青年キャラに激変していたではないですか?

W:……マア、そうですな。

I:でも、だからといって、誰も文句をいったりしないのが、ジャンプ読者のたしなみってものなのですよ。

W:左様で御座いましたか……。ジョジョにつきましては私奴わたくしめなどは、ディオが石仮面をかぶってからの……、波紋法という名のにより、体を流れる血液の流れをコントロールして血液に波紋を起こし、の波と同じ波長の生命エネルギーを生み出す! ナゾといったような、鬼滅に通ずる超展開には正直、驚きを禁じ得ませんでしたが……。

I:そんなことぐらいで驚いていたら、ジャンプ本誌に1986年に掲載されていたという『ジョジョの奇妙な冒険』の新連載予告の惹句キャッチコピーなんて、若林教授が目にされた日には失神モノですよ!

W:……ジョジョの新連載予告?

I:ええ。その当時の、少年ジャンプ誌上の新年連載予告に曰く……、


新年1・2号より お待たせ‼ 荒木ファン待望の超異色作がココに‼ 驚異のジョジョとは、いったいどんな男⁉ ジョジョの奇妙な冒険 荒木飛呂彦


…………だったのですから!

W:………………………………………………。

 

 だったのでしょうなあ、当初予定されていたジョジョ像とは? あの不朽ふきゅうの名作も、当初はマッタクの見切り発車だったという訳ですかあ……。週刊少年ジャンプらしいといえばそれまでで、マア身もふたもないハナシなのですが……。マッタクすごいですな、集英社は。

I:僕は、荒木飛呂彦先生の作品については、〝きれいなディオ〟が登場していた感のある『魔少年ビーティー』や、個人的には若林教授によく似た印象を持つ〝かすみの目博士〟が登場してくる『バオー来訪者』を読んで以来ファンになりましたからね。以来、荒木先生について過去の作品関連のデータを洗い直して、作画や作風の変化について調査をしておりましたから、ジョジョの新連載予告の惹句じゃっくについてのデータも見逃したりはしませんよ。

W:怖ろしい読者、ですな……。

I:僕の推理では、おそらく荒木飛呂彦先生は、当初はジョナサン・ジョースターとディオ・ブランドーを、『ジキルとハイド』のような〝同一人物の肉体に宿る別人格のたましい〟にするつもりだったのだと思います。だから、作品タイトルを『ジョジョの奇妙な冒険』と命名していたのですよ。このタイトルの中の「」というフレーズは、スチブンソンの名作『ジキルとハイド』の原題である『The Strange Case of Dr. Jekyll and Mr. Hyde(ジキル博士とハイド氏の事件)』からもじって付けられたのだろうというのが僕の推理です。でも、そんな読者のありきたりの予測をアッサリ裏切って、ジキル役のジョナサンとハイド役のディオを別々の人物として描き直し、そして第1部の完結間際で……、


肉体ボディ… …きたか…


……とディオがジョナサンに語り掛ける訳ですよ、教授。

 それからディオはこう続けるのです。


なぜこんな姿をあえて見せるのか………

それはジョジョ あれほどあなどっていたおまえを今 おれは尊敬しているからだ… 勇気を! おまえの魂を! 力を! 尊敬している…それに気づいたからだ…

おれたちはこの世において ふたりでひとり! つまり…

おれは この世で ただひとり尊敬する人間のボディ(肉体)を手に入れ 絢爛けんらんたる永遠を生きる! それが このディオの運命なのだ!


 そして、この言葉を耳にした瀕死ひんしのジョナサンが……、


ディオ…君の言うように ぼくらはやはり ふたりでひとりだったのかもしれないな 奇妙な友情すら感じるよ… そして 今 二人の運命は完全にひとつになった…


……と、その真情を独白する場面で二人を乗せた大型客船が爆沈し、第1部が完結となるのです。

それから第2部を挟んで第3部では、ハイド役・ディオの吸血鬼としての能力と、ジキル役・ジョナサンの幽波紋スタンドの能力が合体して、新キャラクター・DIOディオが誕生し……、


不死身ッ!! 不老不死ッ! スタンドパワーッ!


…………と、まあ、こうなる訳です。

W:ああ! う…美しすぎます! その推理‼ 流石さすがは正木先生に「超脳髄式の青年名探偵アンポンタン・ポカン博士」とめちぎられた推理眼で御座いますなあ、貴方あな た 様は……。わたくし、感服致しましたゾ。

I:ご理解頂ければそれで良いのです、教授。『ジョジョの冒険』と『ジキル博士とハイド氏の事件』の標題タイトルの類似性や、ジョジョ第4部でのラスボス・吉良吉影きらよしかげが爪切りで切った自分の「爪」をビンの中に大量にため込んでいた描写が夢野久作の短編『けむりを吐かぬ煙突』の美貌の連続殺人犯シリアルキラー・南堂伯爵未亡人が顔立ちのいい少年をあやめるたびに爪を蒐集しゅうしゅうしていたプロットと似通っていた点、さらには吉良吉影のスタンドである「キラークイーン」の第三の爆弾・バイツァ・ダストが爆破と同時に時間を1時間ほど巻き戻してループする設定が『ドグラ・マグラ』の、いわゆる〝円環構造なるもの〟と似かよっている点などについてはチョット分かりづらいかも知れ

ませんが、若林教授じゃなくても熱烈な週刊少年ジャンプのファンならば…………


鬼舞辻󠄀無惨きぶつじむざんの血を与えられて鬼化!」と「ディオの血を与えられてゾンビ化!」、

「全集中の呼吸」と「波紋法の呼吸」、

血鬼術けっきじゅつ」と「幽波紋スタンド」、

「青い彼岸花」と「エイジャの赤石せきせき」、

「鬼殺隊」と「護廷十三隊」、

日輪刀にちりんとう」と「斬魄刀ざんぱくとう」、

竈門炭治郎かまどたんじろうの鬼化」と「うずまきナルトの尾獣びじゅう化」、


……など、キャラクターや技の設定が、どことなく似通っていることぐらいは気付いているに違いないのですから、鬼の首を取ったかようにハシャイだりしては駄目なんですよ。令和の読者さんは皆、吾峠先生のことが大好きなのですから、悲しい匂いがするようなことをいっては駄目なのです!

 きっとワニ先生も、鬼滅のネタをハンティングする際には、涙を流しながら咀嚼そしゃくしておられたに相違ないのでしょうからネ。

W:ハア……。咀嚼する「ワニの目にも涙」という訳で御座いますか……。

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