百物語

一葉迷亭

階段

 エレベーターがある。ちんっと複合的な音が鳴り、扉が開いた。私は、遅れてやってきたらしい。誰も気にせず、もっと言うのなら誰ひとり、気にできず。「月はあったか」と、妙に語りかけ、はじめの爺さんは、ぼんやりして、ぽつぽつ喋る爺さんの声だけが響き出した。


 35、6になった元来から怒りっぽい性質を持った男がいた。父は先に死んで、老いてふやけた、昔は綺麗そうな今では蛆でも湧きそうな、結構な女。男は、どこの施設も入れれず昔は、好きであった母も老いれば汚らしく醜くなるものだから、男は、こんな奴の排泄まで、やらにゃあならんとは、老いれば人ではないらしい。恥ずかしい奴だ。そういいながらも我慢して、耐えに耐えた。

 それについては、男の方にできた歳の若い女が、世話をしてくれるからにある。だが、女が出ていき男は、自分で自分の母親の世話をすることになる。だが、直ぐに限界が来た。どこかに捨てようにも人間だと面倒で仕方ない。新たに介護する女が欲しいのだが、顔も悪い男にはどだい無理な話で、チクショウ、チクショウと言いながら、前の、女に媚びに媚びて女もその気になり戻って来た。

 はじめはとにかくごきげん取りに夢中になったが、女が一切家事をやらず母の下世話もやらず、傲慢ちっくになっていた。これでは何だ?金がかかるアレが増えただけではないか?

 女は元来そういった質ではなかったが、男の気の触れた狂気にあてられてか、逃げ出すようになるが帰ってきて母の世話をやりだしたが女が教会に入ったばかりの頃から、女との関係が悪くなって来た。    

 いつの日か、寝言があったとかなかったとかで口論になり、男は元来の質が盛り上がり、あの日のときのように耐えてたぶん更にひどくなって、女をぶった。口が裂け、歯が一本折れたらしい。訴えてやるという女を、気が動転して抑えつけ、叫ぼうとする女の喉を圧っし、時計の長い方がぐるんと2周するころにはぐったりした。女を殺めてしまった。

 どうしようもなく落ち着くことにつめて、山に穴を掘りに向かう前に通った境内に女の視線を感じた。顔をあげると母が見ていた。大丈夫だ、呆けてる、耳だって遠いに決まってる。指に土の感触がやけに残ってる。震える口で、私は水を飲んだ。

 大丈夫!大丈夫!!口が動いた。水、とでも呟いたのかもしれないが、はっきりと母の声で、「知ってるよ。殺したんだろ?私も、殺すのかい?」男は、狂気が盛り上がり殴り殺した。女を殴ってる時より、痛みが少なく、これは、いいとなった。

 夜に、山へ捨てに行った。藪が深いところには、青白い光が水のなかで透かして、その中穴を掘り返し、そこに捨てた。もう、女は腐って蛆が湧いていた。母のようだった。

 母をそこに投げ捨てると月明かりで若返るらしい。母は、昔のときの嫌それよりもっと若く、美しく月光の蛆が、母を若くしていた。

 恋を男は、その時にした。急いで駆け寄ると持ち上げ、ぼろぼろと肉体は雨でも病んだか馬鹿されたか、元の蛆でも生えてそうな女になった。

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