第101話 しばらくはお泊まりってマジですか?

「危な!」


上に逃げていたら死んでたな。

火柱が空に向かい5メートル程も伸び上がっている。

物凄い爆裂魔法だ。


普通爆発というのは爆発の中心から四方八方に伸びていくものだ。

それをあえて上方向だけに伸びる様細工をするのはかなり面倒だし難しい。

おそらく俺以外に被害を出さないためそんな面倒なことをしたのだろう。

どちらにせよ、高難易度の爆裂魔法でこの威力、この応用。相当の手練れだ。


すぐさま周囲を見渡すと、黒いローブを着た3人組が野次馬から遠ざかっていくのが目についた。


「あれだ!」


俺は身体強化を使って追いかけるが向こうも気がついたのかスピードを上げる。

なるほど、身体強化も中々のレベルだ。


いつの間にか俺は王都の中でも治安の悪い方にどんどん進まされていった。


「誘導されてるな」


人なんてほとんど寄り付かないであろう、だだっ広い空き地の様な場所で3人組はついに足を止めた。

3人は俺に向き直る。


「止まったって事は、ここがお前らの案内したかった終点ってことかな」


「へっへっへっ、気づいていたか。さすがジェイドだ」


3人組の一人がフードを外してこちらに顔を見せる。


金髪で至る所にピアスをしているが、顔には幼さもまだ残っている。

おそらく15、16歳くらいだろう。


「なぜ俺を狙った?」


そう言うともう一人がフードをとる。


「なぜって、ババ様に言われたから」


驚いた。こっちも15歳くらい。

しかも女の子だ。

栗色の髪の毛の女の子は眠そうに目を擦っている。


「おいばか、正直に答えるんじゃねぇ!」


金髪が女の子を一喝する。


「ふぇ?だって聞かれたから」


「本当にアサはバカだな!」


アサ、女の子の名前か?

アサと言われた女の子はムッと口を曲げた。


二人が喧嘩になりうそうな空気を悟ったのか、ずっと黙っていた3人の中でも一番背の高いやつが口を出す。


「アサもヒルも喧嘩するな。それよりも任務だ」


眼鏡をかけたその男は3人の中では一番年上に見えるが、やはりまだ子供に見える。

3人組の子供の殺し屋?


「ちっ!分かってるよ」


ヒルと呼ばれた金髪の男が、つまらなそうに舌打ちする。


わからない事だらけだ。

とりあえず3人とも捕まえて話を聞かせてもらう!


俺はこっそりと糸をとり出して、3人を縛り上げるようそっと操作した。


しかし、


「切り刻め!かまいたち!!」


ヒルがそういうと、周囲に真空の刃が発生し、数十本もある糸がひとつ残らず斬撃で斬られてしまった。


「結構せこい真似するんだね、ジェイドさん!」


金髪がそう言って舌を出して俺に中指を立てて見せる。


単純な風魔法じゃない。特殊なユニークスキル?

糸は通じないと言うことか。


ならば土魔法で壁を作って閉じ込める!


俺が魔力を練り上げていると、


「!“#$%&‘()0≠」


もの凄い早口で背の高い男が何か詠唱した。

すると練り上げていたはずの魔力がふっと消えてしまう。


「魔法をキャンセル!?」


「おいおいおい、俺たちでジェイドの攻撃全部防ぎきっちまったぞ、これはいけるんじゃねぇのか?やっちまうか?この場で、いや、やっちまおうぜ!」


「駄目だ。想定外の事態が起きたからここに来たんだ。それにアサが爆裂魔法を使ったせいで眠そうだ。一旦退くぞ」


「うん。私もう寝そう」


ヒルはもう一度つまらなそうにチッと舌打ちする。


「へいへい、ヨルの言うとおりですよ。すぐに撤退、次の作戦を組み直します」


「そう言うことだ、帰るぞ」


そうはいかん、逃すかよ!


「待て。逃すと思うか!」


「残念、もう逃げ終わってるんだよ」


そう言ってヒルが中指を立てると、3人の足元に魔法陣が浮かび上がった。


「事前に転送用の魔法陣を書いていたか……」


どうすることもできない俺は、魔法陣の光を棒立ちで見つめた。

3人組は煙の様に、一瞬で姿を消してしまったのだった。



「っと言うわけなんだ」


3人を逃し、仕方なく帰ってきた俺は、ゴチンコのギルドのみんなにさっきあった全ての事を話した。


ウランちゃんが話を聞き、すぐに話し出す。


「まずはジェイドを狙ったのかタクトさんを狙ったのか、そこが重要ですね。ジェイドを狙ったのならジェイドの姿にならなければとりあえず安全ですが、ジェイドの正体がタクトさんと分かって狙ったのなら、タクトさんはしばらく外に出れませんね」


「えっ?外出れないの?」


「それはそうですよ。また不意打ちで狙われるかもしれないんですよ。何かわかるまでは家にいてください」


「いや、俺も3人が何者か捜査したいし」


「それは私たちだけでやります」


ゴチンコのギルドの面々はうなづいている。


ローラさんが首を傾げながら話し出す。


「いったい何の組織が狙ったんでしょうか?ジェイドを狙ったのだとしたら鷹の爪が、御前試合優勝できなかった腹いせにとか?」


ローラの言葉にアリスがこたえる。


「その可能性は薄いわね。話方、見た目、使った技、3人組、アサ、ヒル、ヨル、というコードネーム。この条件で鷹の爪の裏の仕事屋に該当する者は見たことがないわ」


「アリスさん、なんで鷹の爪の裏事情をそんなに詳しく知ってるんですか?」


「……ウフ❤︎秘密」


「だとするとどこの組織か全く絞れない。まずは相手の正体を知らなければ不利ですね」


「じゃあ俺を餌にもう一度相手を誘き寄せるとか……」


「「「「「絶対にだめ!」」」」」


「は、はい」


「自宅も危ないかもしれませんね。なんか誰も近寄らない様な安全な場所ってないんでしょうか」


安全な場所と言われ、すぐに頭に浮かんだ場所がある。


「あー、実は心当たりが一つあるかも」


「どこですか?」


「えっと……それは……」



と言うわけで、俺は皆んなが俺を狙ったやつの正体を突き止めるしばらくの間、魔王の領域、つまりノエルの城で暮らすことになったのであった。

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