第86話 意外な来客ってマジですか?

タクト視点


ゴチンコのギルドに人があまりいないというのは好都合だった。

リナの話では何日か向こうで仕事をしてくるので、しばらくウランちゃん達は帰ってこないらしい。


そうと決まれば!

1人になった俺がやることといえば一つ。

もちろん風俗に行くことだ。


勘違いしないでいただきたいが、決して俺が風俗に行きたい訳ではない。

あくまでロンギヌスの槍のスキルレベルを上げるためであり、最終的にはノエルのためなのだ。


俺はそんな旗印を掲げて、風俗街に繰り出した。


聖槍のスキルレベルは現在3。

なるべく違うスキルを持つ女の子との方がいいだろうから、今回桃源郷は無しだ。

あそこは幻術スキルの娘しかいないはず。


1店目『神の舌』

1人目、戦士スキルを持つ『レイナ』。

聖槍のスキルレベルは変わらない


2店目『ユニークスキル生感』

2人目、風魔法スキルを持つ『イライザ』。

やはり聖槍のスキルは変化なし。


3店舗目、3人目索敵スキル。

変化なし。


4人目、5人目、6、7…………。


「なんでだ!どうしてスキルレベルが変わらない?こんなに頑張ってるのに!」


俺はゴチンコのギルドに戻ってきて頭を抱えた。


「タクトさん。何を頑張ってるか知りませんけどあまり思い詰めないで」


そう言って淹れたてのコーヒーを差し入れてくれる優しいローラさん。

「風俗通い頑張ってます!!」なんて口が裂けても言えない。


「ローラさん。ありがとうございます。ちょっと落ち着きます」


「それがいいですね。あら、なんだか騒がしいですね?誰か来たのでしょうか?ちょっと表の方見てきますね」


そう言ってローラさんは行ってしまった。

やっぱり癒されるな、ローラさんは。おかげでちょっと頭も冷えた。

もう一度聖槍のスキルについて考えてみよう。


ただスキルを増やすだけではレベルは上がらないのか?何か他にも条件がある?


ブツブツ独り言をしながら考えていると、ローラさんが慌てた様子で俺の所に駆け込んできた。


「た、た、た、た、タクトさん」


あのローラさんがあんなに慌てふためいている。

理由はすぐに分かった。

ローラさんの後ろにいる彼女のせいだ。


「またお会いできて光栄です、タクト様。申し訳ありませんが2人だけで少しお話がしたいのですが」


そう改まって言ってきたのは俺の事を魔族と言ったこの国のお姫様、ルイズ姫であった。

しかし今は本当に改まった態度であり、何か深刻な面持ちをしている。


また魔族だなんだとヒステリックに叫ぶのであれば、隙を見て逃げ出したのだが、これでは従うしかなさそうだ。


俺はゴチンコのギルドを出た。

ギルドの前には姫が乗ってきた立派な馬車があった。


ルイズ姫と一緒に馬車に乗る。

2人だけでとの事だったので、俺は自分の泊まっている宿はどうかと言った。

すると、


「その方が私にとっても都合がいいのでそれで」


と言ってあっさり了承された。

その後姫は宿に着くまでの間、深刻な面持ちで一言も話さなかった。

なんだか嫌な空気だ。


10分程で、宿には到着した。

姫は、


「この先はいい」


そう言って、護衛の兵士すら外に下げさせた。


2階の角部屋。

結構気に入っている。


部屋に入ると俺は姫様に椅子をすすめ、早速話を始めた。

あんまり長く姫と2人でいるのもアレだしね。


「えっと、なんの用でしょう。この部屋魔法で防音にしてありますので、外からの音は聞こえません。ドアも強化してあって、中から開けない限り絶対に開きません。人には言えない話でも大丈夫ですよ」


俺がそう言うと、安心したのかルイズ姫はほんの少しだけ表情を和らげ話し始めた。


「お父様に聞きました。あなたは魔物ではなくロンギヌスの槍のスキル保持者だと」


思い詰めた表情をしている。


「はぁ。誤解が解けたなら良かったです。別にこの通り怪我も何もしていませんのであまりお気になさらずに」


「気にしないなんて無理です!私はあなた様になんて失礼な事を。城での非礼はもちろん、魔王の領域での事も謝ります。本当にごめんさい」


騎士がするように深々と頭を下げる一国の姫。


「や、やめてください」


「謝罪だけじゃありません。あなたは私の命を救ってくれました。その時のお礼も言っていませんでした。実は今日はお礼をしにきたのです。それが一番の目的です」


お礼の話をした時は、姫の顔にも少し明るい表情が戻った。

お礼をする事で何か罪悪感が薄れるみたいなことがあるのかもしれない。


なんか領地とか爵位とか莫大な金とか。そんなとんでもないものだったら断るけど、ちょっとした物なら受け取ってもいいかもしれない。

それが姫様のためになるなら。


「そんなお礼だなんて。お金とかも賞金あるので全然大丈夫ですし」


一応軽く断っておく。


「そんな大した物じゃないので全く気になさらずとも結構です。私が個人で用意した物ですから」


それなら安心だ。王様が関わってないなら大金や爵位領地はありえない。


「わかりました。でもその前にちょっと一息入れましょう。お茶も出さずにすいませんでした」


「いえ、お構いなく」


「すぐにお茶入れますので!」


俺は家にある一番高級な紅茶をゆっくり淹れた。


でも良かった、誤解とけて。

ルイズ姫、年下だろうけどしっかりしているな。

本当はあんなに常識的な人なんだな、ルイズ姫。

まぁ今後深く関わる事はないだろうけど、あんな方ならうまくやれそうだ。

そんな事を考えていると、紅茶が淹れ終わったので部屋に戻る。


「紅茶です。口に合うかな?」


すると部屋には服を脱いで大胆な下着一枚だけになっているルイズ姫の姿があった。


「はっ!?」


あまりの事に、熱々のお茶をこぼす。


「あっちぃ、あっちぃ!ルイズ様!?ルイズ様!?なんで裸!?ふ、服着て服」


ルイズ姫は何故か俺を見て、はぁはぁ荒く息をしている。


「なんでって、お礼に決まっているじゃないですか。タクト様は魔王の領域で私の体をいやらしい目つきで見てましたよね。非礼のお詫びとお礼です。さぁ、私の体を好きに使って下さい」


「いや!無理だから!何そのとんでも理論!そんなお礼受け取れないから!」


「本当に何もお気になさらず。ほんの小娘のただの処女をもらうだけですから」


「いや重い!金や領地の何倍も重い!それ下手したら爵位通り越して王子になるやつだから!」


ルイズ様の目が据わっている。


「というか、非礼とかお礼とかも関係ない!見て下さい、これ!」


ルイズ姫はお腹にあるノエルが作ったハート型の瘴気を吸い取るための呪印を見せた。


「あなたの事を考えるとこれが疼いて止まらないんですよ!もう耐えられない!これは姫の命令です。裸になってベッドに寝なさい!」


そう言って最後の一枚の下着を脱ぎながらゆっくりと近づくルイズ姫。

何、この突然のピンチ。


万事休すかと思われたが、天は我に味方した。


ドンドン、ドンドン


突然入口ドアがノックされる。


「ほ、ほら!なんかお客さん来たみたいだから!」


「お客なんて気にしなくていいでしょ!早く!1回じゃ多分疼きは収まらないから、今日は最低10回……」


ドンドン、ドンドン


「ほ、ほら集中できないから!俺静かに電気消してやりたいタイプで」


「……ちっ!じゃあすぐに帰して下さい!私部屋で隠れてますから!」


やった!なんとかこの場を回避したぞ!

知り合いなら助けてくれるはず!

この状況を打破する来客こい来客こい!


「はい今開けます」


ガチャ


俺はドアの前に立つ人物を見て絶望した。


「タクト様来ちゃいました♪あなたのペットです♡」


姫様らしからぬ露出度の高い服装。


ああ、俺の望まぬ奴隷、エリザ姫だ。


「ファッ!?」


よりにもよってエリザ姫。ルイズ姫の姉?

考え得る限り、最悪の人間が来客してしまったのだった。

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