第71話 決勝①
腐食騎士が取り出した大剣は身の丈程もあった。
真っ黒で分厚いその大剣は、まるで鉄の塊。
当たったらひとたまりも無いが大剣での攻撃は情報を基にちゃんと研究ずみ。
重い武器のせいで攻撃のスピードはそれほどでもないというのが事前の情報で分かっていた。
これならエマ&ゴロタと戦った時みたいに魔力を大幅に消費する大技を使わなくても避けれる。
できれば魔力は温存したい。
この試合、腐食騎士の鎧を破壊してからが本番なのだ。
だから俺の作戦は、腐食騎士の攻撃を避けて避けて、隙を見てまず鎧を破壊する!
「行くぞ」
腐食騎士はそう言ったかと思うと一瞬で俺の懐に飛び込んできた。
「はやっ!」
あれ?聞いてた話と違うじゃん!強化したゴロタのスピードに負けず劣らずの早技!
俺は慌てて後ろに飛び退いて一撃をかわす。
「腐食騎士さん?聞いてたよりずっと速いじゃんか」
「今までは本気で剣を振る必要がなかったからな」
準決勝ですら手を抜いてたってことですか。
腐食騎士は攻撃の手を休めることなく大剣を振るってくる。
「そんな大剣持って、よくそんな動きできますね!」
「お前も、よくおしゃべりしてる余裕があるな」
「幸いこっちは手ぶらなんでね」
腐食騎士の猛攻に会場のボルテージは一気に上がっていく。
「おっと、腐食騎士のとんでもない攻撃!どう思いますか電電さん」
「このまま攻撃が続けばジェイド様が不利ですが、腐食騎士はあんな大きな武器を振り回しているわけです。あれ程ハードな無酸素運動長くは続けられないでしょう。ラッシュが止んだ時がチャンスです!いけー!ジェイド様ー!!!」
実況の言うとおり、腐食騎士のラッシュの最後の一撃が「ドーン」と闘技場に叩きつけられ、腐食騎士の動きが一旦止まった。
なんとか全て避け切ったからいいものであるが、最後の一撃なんかはとんでもなかった。
腐食攻撃以前に魔力でガードしてもあれ喰らったら終わりだろう。
「見て下さい電電さん!闘技場にヒビが入っております!今までどんな激しい戦いでも傷一つ付かなかった闘技場にヒビが!」
「はい、あの闘技場は鋼を凌ぐ硬さのミスリルで仕上げたものです。あれにヒビが入ると言うのはこの御前試合でも前代未聞ですね。それよりジェイド様の攻撃が来ますよ!皆さん瞬(マバタ)きしないで!」
あれだけの攻撃だ、しばらく動けまい。
剣を振った後の背中がガラ空きだぜ!
鎧を破壊するために、魔力を込めた掌底(ショウテイ)を鎧に向けて打ちこむ。
いくら鎧が硬くても魔力を流し込んで内側から破壊すれば脆い!
つまり、鎧に触れさえすれば!
あと数十センチで俺の掌底が命中する。
その瞬間、俺はゾクリと悪寒がした。
腐食騎士は鎧の隙間から禍々しいオーラを放つ触手を出してきた!
俺は悪寒がした時点で攻撃を中止し、逃げに転じていたためなんとかそれをかわす。
「ふぅー。やばいやばい。隙を見せたのはわざとか?それが腐食の力?」
「腐食の力は最近じゃ私も制御が効かなくてな。身の危険が迫るとオートで発動する。そのうち腐食の力は近付く者全てを傷つけるようになるかもしれん。だからこそ治療の為に、あの石がいる」
「あの石?」
「さあおしゃべりは終わりだ!」
腐食騎士は再び激しいラッシュを放ってくる。
「もしかして『賢者の石』か?だとしたらあれはお前が考えているような代物じゃないぞ?」
「戯言を……世界に一つしかない『賢者の石』についてなぜ貴様がそんな事を言える」
鷹の爪で働いてた時に俺が偶然見つけたものだなんて話は……まぁ信じてもらえないわな。
さっきと同じようにラッシュを避けるが、あれ?ちょっとやばい!?ラッシュのスピードが上がってないか?
「電電さん。私はなんだかジェイド選手が圧されているような気がするんですが気のせいですか?」
「気のせいじゃありません。ラッシュのスピードが上がっています!」
「な、なぜスピードが?」
「おそらく、戦闘開始後に分泌されるアドレナリンが、腐食騎士の身体能力を上げているんでしょう。簡単に言えば、尻上がり!腐食騎士は戦いが長引けば長引くほど、強くなるタイプかもしれません!」
「なんと!ただでさえ強いのに!」
このままじゃ避け切るのはきつい!
仕方ない、1発避けるんじゃなくて受け流して隙を作る!
俺はダガーに魔力を纏わせ重い一撃を受けようとするが、腐食騎士は大剣から腐食の触手を出して攻撃してくる。
「げげ!?そんなのあり?」
受けたら触手喰らって詰み!
受けなくても大剣が避けきれず詰み!
なら第3の手!
「爆裂火球(エクスプロージョン)!」
俺は咄嗟に爆発魔法を自分の目の前で発動させた。
爆破の衝撃で俺も腐食騎士も吹き飛ばされる。
「なるほど、爆発の衝撃で自分自身を吹き飛ばし避けるとは。咄嗟の判断に優れているな。だが自分の魔法でだいぶダメージを喰らったみたいだな、その体で次は避けられるか?」
おっしゃる通り、俺は魔法障壁が間に合わず、自分の爆破魔法でかなりのダメージを受けた。
口からツーッと血が垂れるのを感じる。
対する腐食騎士は無傷。
「参ったね、これは」
「どうだ?実力差を知って棄権する気になったか?」
「今更棄権?まさか!そんな情けない事したら、セシリアに殺される」
「セシリア?誰だそれは」
「お前よりもっとおっかない女だよ!」
魔力温存とか、正体がバレないようにとか、ぬるい事言ってる場合じゃないよな……。
俺は片目に意識を集中させる。
……やっぱりこのスキルはとてつもない力を秘めている。
体中に膨大な魔の力が集まっていく。
俺の力の変化に腐食騎士はすぐに気がついたようだ。
「!?なんだ貴様!その力は!」
俺の魔力が増大していくのを感じ、腐食騎士がこの試合、初めて狼狽える。
「魔眼……解放!」
さぁ……反撃開始だ!
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