第58話 夢を見たことは覚えていても内容は覚えていない事が多いってマジですか?

タクト、20数年前


幼い俺が1人で泣いている。

覚えている、これはいつのことだったっけ?


「また泣いていたのかい、タクト」


そう言って現れたのは母さんだ。俺も幼いが母さんもまだ若い。


「先生、なんで僕にはお父さんもお母さんもいないの」


ああそうか、この頃はまだ母さんの事を先生と呼んでいたのか。

俺も酷いことを聞くものだ。たぶんこれは俺が両親に捨てられて1、2年くらいの記憶だ。

母さんはとても困った顔をしている。


「父さん母さんはいなくても、タクトには家族がいっぱいいるだろ?」


「孤児院のみんなは家族じゃないよ。それに僕は孤児院で一番弱いし頭も悪いから、皆んなに嫌われてる」


あの頃は世界中のみんなが俺の事を嫌っている、そんな風に思ってしまっていたっけ。


「何馬鹿な事言っているの。セシリアなんかはいつも私にあなたの話ばっかりしているわよ。セシリアだけじゃない、私も皆んなもタクトの事を大切に思っているのよ」


「セシリアが?いっつも僕に弱虫って言ってくるセシリアがそんなはずないよ」


「本当よ。あなたが来る前の日、年の近い男の子が来るって言ったらセシリアは飛び上がって喜んで、早く寝なさいって叱っても一日中起きてたんだから。あら、これ言ったらセシリア怒るかしら?」


そういえば俺が孤児院に来た日、セシリアは目つきが悪くて不機嫌そうだった。

あれはもしかしたら寝不足だったのかもしれない。


「……家族がいない事だけじゃないんだ。僕って何をやっても駄目だから、この前のテストだって……」


「いいじゃない、テストの点が何点だって、あなたが毎日努力しているのを私は知っているわ。さぁみんなの所に戻りましょう」


そう言って手を引かれていく俺。




「えい!えい!えい!」


いつの間にか場面が変わっている。これは、俺の自作した稽古場だな。剣の稽古中。

俺もだいぶ成長している。


ふっと、俺の後ろに男の子が立っているのに気がついて俺は振り向く。

髪の青い天然パーマの男の子だ。


「世界最弱だったのに、よくそこまで成長できたね」


なんだこいつ。失礼なやつだ。


「世界最弱って、俺は街で剣も魔法も座学も一番なんだぞ」


「そうみたいだね、数年前は全部のステータスが1の人間族で最弱の存在だったのに、正直驚きだ」


意味の分からない事を言うやつだ。


「お前どっから来たの、親は?」


「ずっと遠くから来た。親はいない」


「……じゃあ俺の家に来いよ!母さんも絶対歓迎してくれるから」


「……いい。住む場所ならあるから。それより私と遊ぼう」


「遊び?なんの遊びだ?」


「それ」


男の子は俺が手に持っている木剣を指差す。

チャンバラか。


「よし、いいぞ。ほれ、お前の分」


俺は男の子に木剣を投げて渡す。

たぶん自分より年下の子だったから手加減しようと思っていた。


しかし、俺は一瞬で打ちのめされた。


「ふぅー。……やっぱり成長したと言ってもこの程度か」


「も、もう一回だ!」


俺はそれから何十回と戦ったが、一回も相手から1本を取れなかった。


「ふー、そろそろ私帰るね」


ボロボロの俺とは対照的に、息一つ切れていない男の子。何者だろう。


「あ、明日も来いよ!また、遊ぼう」


俺がそう言うと、相手はチラリとこっちを見て、


「さぁ、来ないかも」


そう言った。しかしちゃんと男の子は次の日も来た。

それから俺たちは、雨の日も風の日も一緒に遊んだ。

あれ、あいつの名前なんだっけ?なんでだろう?ノイズが入ったみたいに、あいつの名前や顔が正確に思い出せない。


「俺は将来伝説の勇者になって、そんでもって大勢の美人と付き合ってハーレムを作るんだ!タクトハーレム!アリサは孤児院でいつも泣いているから俺の妹にしてやった。アリサは最強の兄を持つ妹になるんだ!」


「ふーん。なんか面白そう。私は将来の事何も決まってないや」


「前から思ってたんだけど、『私』っての変だぞ、『僕』か『俺』にしろよ」


「『僕』?じゃあこれからは僕って言うよ」


「そうそう。その方がかっこいいぞ」


「……僕特にやりたい事ないから、将来はタクトのハーレムに入れてもらおうかな」


「えっ?駄目だよ、男はハーレムには入れないよ!」


「……僕、女だよ?」


「えっ?」


『  』はジト目で俺を見つめている。


「そ、そうか!じゃあ『  』は特別にタクトハーレムの一番目のお嫁さんにしてあげよう!そ、それと喋り方はもう僕じゃなくていいぞ」


「嫌だ、これからもずっと僕って言うから」


「ご、ごめんって『  』許してくれ」


「はははは」


そう言って『  』が楽しそうに笑った所で目が覚めた。



「……ここは」


そうか、俺準決勝で倒れて。

なんだかとても頭も体もスッキリしている。

調子がいい。

もしかしたら準決勝の激しい戦いで少し成長したのかもしれない。俺は魔眼を出してステータスを確認する事にした。


「お、聖槍のスキルレベルが上がってるじゃん!」


スキルレベルが3になっている。

やはり聖槍は戦闘を重ねると上がるのだろうか。


「ん!?」


俺はステータスにとんでもない項目が追加されているのを見て驚愕し固まってしまう。



『召喚士』スキルレベル1

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