第56話 お見舞い

ユキちゃん視点


ぷにちゃん?


なんでこんな所に?タクトさんの所にいるんじゃないの?

もしかして逃げ出しちゃった?


もしそうだとしたら、捕まえて保護しなければ。

うまく捕まえればタクトさんにも喜ばれるはずだし!


でもどうしよう。捕まえられるかな、私に。


「ほ、ほら、ぷにちゃん。良い子だからこっちにおいで」


私がそう言うとぷにちゃんは、「ぷー」っと声を出し、じっとしている。

スライムだし顔がないから本当に何を考えているのか分からない。

どうにかしてこっちに来てもらわなきゃ。

なんか買ったもので良いのあったかな


私はぷにちゃんをこっちに誘き寄せるようなものがないか、バスケットの中を探った。

バスケットの中には青果店で買った果物等の普通の食材も入っている。


バスケットをゴソゴソしていると興味深そうにぷにちゃんが近寄ってきた。

これはラッキー!


捕まえようと思ったのだが、自分から私のバスケットの中に入り込んでくれた。


「やった!」


そう思ったのも束の間。ぷにちゃんはバッグに入っていたものをいくつか体に取り込むとバスケットを飛び出し、凄い速さでぴょんぴょんと飛んでいってしまったのだ。


「あ、こら!待て!」


逃げるぷにちゃんを追いかける。

追いかけるが、とてもじゃないが追いつけない。


さすがタクトさんが育てたスライム。

必死に走るがすぐにぷにちゃんを見失ってしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ。まあ……あれだけ速ければ捕まったりはしないでしょう」


それよりぷにちゃんに盗られた物がちょっと気になる。


「何取られちゃったんだろう」


私はバスケットを確認する。


「え、うそ……」


盗られていたのはドラゴンの肝とマンドラゴラと、シールドタートルの生き血……。


あー嘘でしょ!メイン全部盗られたー……。



エマ視点


ジェイドの部屋を大会運営に聞いたら特別だと言って教えてくれた。

本当は教えちゃ駄目らしいけど、私たちの試合に感動したとか何とか……。


「お見舞いに行きたい気持ちが痛いほど分かる!」


そう言ってくれた。

そうは言っても、ジェイドは寝ているはずなのでノックしてもドアを開けてくれる可能性は低い。

私は駄目元でジェイドが泊まっている部屋のドアを叩いた。


「トントン」


「ジェ、ジェイド?わ、私、エマ……どうしてもさっきのお礼が言いたくて、あとジェイドの事が心配で、も、もし起きてたら開けてほしい」


しばらく待ってみたが、ドアは開かない。

諦めて帰ろうとしたその時だった。


「ガチャ」


ドアが開いた。


「ジェ、ジェイド?」


私が開いたドアから恐る恐る部屋に入ると、私を迎えたのはジェイドではなく小さな可愛らしいスライムだった。


「ぷっ?」


「ぷにちゃん!?あなたが開けてくれたの?」


「ぷー!」


そう言ってぷにちゃんは私の身体にくっついてきた。


スライムが身体を擦り合わせるのは親愛行動の一つ。

良かった。私はぷにちゃんに嫌われてはいないようだ。


少しくすぐったいがひんやりして気持ちがいい。あれ?でもなんか変な……感じが……。


ぷにちゃんが身体にくっつくと、くっつかれた部分が何だか熱い。


「ぷっ、ぷにちゃんなんか変なもの食べたりした?ちょ、ちょっとこれおかしい」


何だか幼い頃、お母さんが駄目だって言うのに内緒でこっそり一口食べてしまったマンドラゴラ入りの料理を食べてしまった時の感じに似ている。……いやあの時以上の感じ。

体が熱くなって元気になるというかなんというか……よく分からないが変な感じだ。


ぷにちゃんは私の静止などお構いなしに親愛行動を続ける。


「だ、駄目!ぷにちゃん!そんなとこ……」


ぷにちゃんは私の身体の至る所を這い回り、やっと開放してくれた。


「ぷー」


ぷにちゃんは何事もなかったかの様に、私を部屋の奥に案内する。


「ま、待ってぷにちゃん。ちょっと足が……」


風邪を引いたみたいに身体が熱い、そして足がガクガクする。


私が何とか歩いていくと、ジェイドがベッドに寝ているのを見つけた。

ジェイド……何だかジェイドの顔を見つめるとお腹の辺りがキュンとしてくる。

変な感じだ。

しばらくボーッとジェイドの事を見つめてしまった私。


「ジェイド……あれ?でもぷにちゃんは?」


「ぷっ?」


ぷにちゃんがジェイドのズボンからスルッと顔を出す。


「だ、駄目だよぷにちゃん。そんなとこ入っちゃ」


きっとジェイドに擦り付いていたのだろう。

ぷにちゃんは私に注意されてジェイドのズボンから出てくる。

あれ、ぷにちゃんが擦り付いていたって事はジェイドも私みたいに。


「ぐっ!うっ!」


ジェイドが突然とても苦しそうな声をあげる。


「ジェ、ジェイド、大丈夫?」


返事はない。目を覚まさないまま、たくさん汗をかき唸っているだけだ。


「ど、どうしよう。お医者さん呼んできた方がいいの?」


私がオロオロしているとぷにちゃんが私を落ち着かせる様に声をかけてくれた。


「ぷっぷぷ。ぷっぷぷ!」


「そこを見ればいいの?えっ?何これ!すっごく腫れてる!」


下半身の一部が不自然に腫れ上がっていく。

魔物意外とほとんど関わりを持ってこなかった私は人間社会に疎いのもあるが、人間の体がこんなにもパンパンに膨れ上がる所を私は見た事がない。

きっととんでもない怪我や病気に違いない。


「ぷーぷーぷぷ!」


ぷにちゃんは私にジェイドの介抱の仕方を教えてくれる。

私はスライムの言っている事も何となく理解できるのだ。


「これが腫れてるから苦しいのね!分かった!まず服を脱がせて……うわっ!何これ!凄く大きい……でもなんか魔物みたいで可愛い……」


初めてみた。なんなんだろ、これ。私にはないけど。

それに見てるとなんだか胸がドキドキする。


「ぷっぷっぷっぷっぷー!」


「優しく撫でてあげると腫れが治る?でも大丈夫かな、お医者さんじゃなくて私がやって」


実はちょっと触ってみたかったのだが、やっぱり勝手な事をしてジェイドが傷ついてしまうのが恐い。


「ぷーぷーぷーぷーぷぷ」


「急がないと危ない?それにこれは舐めても大丈夫なくらい安全?」


そうなの?ならちょっとだけ舐めたりしてみようかな?


それで治るなら、ジェイドはゴロタの恩人だし……。


「ぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ、ぷーぷーぷーぷーぷぷ」


「ぷにちゃんの言うとおりにすればジェイドの苦しいのが全部治るんだね。まず魔力を通い合わせるのに服が邪魔だから裸になるんだね。分かった!」


ジェイドを助けるためなら……私頑張る!





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