第39話 負け方にも美学があるってマジですか?

ローラ視点 


やった!アリスさんがスネッグを倒した!


そう私が喜んだ瞬間、アリスさんは糸が切れた凧(タコ)の様にその場にへたり込んだ。


「アリスさん!」


アリスさんは最後の気力を振り絞る様にカードの様な刃物を投げ、私を縛っているロープを切ってくれた。


自由になった私は慌ててアリスさんに駆け寄る。


「アリスさん!手当!手当しないと!」


アリスさんは私を見ると素気なく言った。


「ただの魔力切れよ。心配しすぎ」


「じゃ、じゃあすぐにマジックポーションを!」


「少し休めば大丈夫。そんな事よりあなたはすぐにジェイド様の所に行きなさい」


「でも」


「いい事?あなたのせいでジェイド様が負けたなんて言ったら、私あなたを一生許さないから」


そう言ったアリスさんの目は真剣そのものだ。


「……分かりました。でもジェイドさんに無事を伝えたらすぐに戻ってきます」


アリスさんはもう話すのもごめんと言った様子で、ヒラヒラと手だけ振ってみせた。


急がなきゃ!



ローラが立ち去った後


アリス視点


あー、まずいかしら、これ。もう指一本動かせない。


……人質に取られるってことは、あの娘がきっとジェイド様の、つまりそう言うことよね

あーあ、私って男運ないのかしら?


なんで助けちゃったのかしら?


「私って……ホント……馬鹿な女……」


そう言ってアリスは深い深い眠りについた。



タクト視点


試合が始まってしまった。


俺はすぐに観客席を見渡す。


ゴチンコさんはいる、でもローラさんはいない。


ゴチンコさんウランちゃんに何か言っている。


読唇術で何を言っているか読み取る。


「ローラのやつ見なかったか?後で来るって言ってたんだが?


「いいえ、見ていません。探してきますか?」


やっぱり。ローラさんが拐われたのは間違いないみたいだ。


「よそ見して。対戦相手を見ないとは。俺なんか眼中にないってか?」


ドランはニヤニヤと俺に笑いかける。


「それとも意中の女性でも探してるのかな?」


くそ!ゲスやろうめ!


レフェリーが試合開始のコールを始める。


「赤コーナー、ルーキー大会優勝者『混沌を主る漆黒の翼†ジェイド』。青コーナー、ゴブリンキング討伐の英雄、『ドラン』。両者中央に……レディ……ファイト!」



「さぁ、始まりましたね、電電(デンデン)さん」


「はい。面白いカードですよね、これ」


「そうなんです!一人は流星の如く現れたルーキー、そしてドランさんの方も、ゴブリンキング討伐で一躍有名になった時の人ですからね。電電(デンデン)さんはどちらが勝つと思いますか?」


「私はジェイド選手に頑張ってもらいたいですね。今まで本戦でルーキーが一回戦を突破したことは無いんですよ。爪痕を残してもらいたいですね」


「おーっと!ドラン選手!輪っかの様な刃物を取り出し回し始めました!」


「あれは!?」


「知っているんですか!?電電(デンデンさん)!」


「あれは!円月刀(エンゲツトウ)!鋭利に砥がれた360度の刃だけでも恐ろしい威力なのにも関わらず、それを回転させ遠心力で飛ばす……達人になるとあれで岩を豆腐の様に切ってしまうという、古来より伝わる恐ろしい武器(『楽しく学ぼう古代の武器』民暗書房より)!」


ドランが円月刀(エンゲツトウ)を投げてくる。


俺はその攻撃に驚いてしまう。


「こ、これは!」


お、遅すぎる!


これ当たった方がいいのか?いや、でもこんなに遅いの当たるの不自然だよな、避けていいのかな……。


ヒョイ。


「ふふふ、かろうじて避けた様だな!だが円月刀(エンゲツトウ)の恐ろしさはこれからだ」


「何!?」


やっぱりなんかあったのか!


俺は後ろからブーメランのように戻ってくる円月刀をヒョイと避けてドランの言葉を待った。


「この円月刀(エンゲツトウ)はブーメランの様に戻ってきてお前を後ろから……ってええっ!?


「……」


「……」


俺は口パクでドランに伝える


「(もしかして、戻ってきたやつ当たらなきゃいけなかった感じ?)」


「(当たり前だろ!馬鹿にしてんのか!?女がどうなってもいいのか?)」


「(あの、すいません。ちゃんとやりますのでもう一個くらい技ありませんか?)」


「(よし、次はちゃんとしろよ)」


「よーし、もう一度だ、円月刀(エンゲツトウ)!そしてなんと!」


お、来たぞ!


「俺は戦士系固有スキル持ちなのに、なんと魔法も使えるのだ!」


「えっ!?」


戦士系って普通魔法使えないの!?


「驚いたか!暗器(アンキ)の他にも俺は中級の炎魔法が使える!」


そう言って円月刀(エンゲツトウ)を手で回しながら、ドランは長ったらしい呪文を詠唱し出した。


えっ!?殴れって言ってる感じ?


こんな無防備に詠唱って?


この隙に殴らないと流石におかしいよな?


……なるほど!わざと隙を作って攻撃を受けた瞬間なんかするのか!


ははぁん。カウンター系スキルね。


そうと分かれば軽ーくパンチするか。


「えい」


「うごぉ!」


2メートルくらい派手に吹っ飛ぶドラン。


「えっ!?」


ちょ、ちょっと待って!慌てて回復薬を仕込んだ針をドランに投げる。


誰にもバレずに一瞬で回復するドラン。


あぶね!!


「や、やるな、ジェイド(ふざけるな!大人しくしてろ)」


「あの攻撃を喰らって無傷とは!(ごめんなさい!もう余計なことしません!)」


「しかしここまでだ!呪文の詠唱は終わった!(次に変なことしたら女を殺す)」


「ふ、果たしてそれで俺が倒せるかな(円月刀の行きと戻り二回喰らって倒れるでOK?」


「大口を叩きやがって!喰らえ(それで頼むぞ!)」


円月刀(エンゲツトウ)が炎を纏い俺に向かって飛んでくる。


やば!炎のせいでさっきより遅いよ。


「ぐわーあぁぁぁぁぁ」


「ははは、その傷を受けた身体じゃ戻ってくる二発目も避けられまい!」


「ぐぇぇぇぇぇ」


「ふふふ」


「や、やられたぁーー!あぁぁぁ、がくっ……」


そう言って俺はその場に倒れた


「倒れました。カウントを開始します!本戦のルールはテンカウントです!」


「1、2、……」


「無駄だ、そいつが起き上がることはもうない」


「……7、8」


その時


「タクトさぁぁぁぁぁぁん!!!!」


俺はその声を聞いて反射的に起き上がった。


会場に駆け込むローラさんの姿。


「そんな奴!ぶっ飛ばしちゃぇぇぇぇぇぇ!!!!」


俺は立ち上がると同時に、


「9(ナイ)……えっ?」


渾身の拳の一撃をドランにぶつけた。


「プギャ!」


ドランはそう叫んで上空に5メートルくらい吹き飛び、どしゃりと地面に叩きつけられる。


体がピクピクと痙攣している。


あれ、色々聞き出さなきゃいけないのに、多分骨何本も砕いちゃったな。


臓器もやばいかも。あれじゃしばらくしゃべれないな。


「カウントを取るまでもありません!レフェリーが慌ててタンカを呼びます」


「ジェイド!ジェイド!ジェイド!ジェイド!」


「出たー!ルーキー大会からお決まりとなった観客からのジェイドコール!」


「ジェイド様ー!」


「ファンの数も増えている様に思いますね」


「さぁこのルーキーの快進撃を止める冒険者は果たして現れるのか!御前試合第一試合、これにて閉幕!」


「解説は、Aクラス冒険者、電電(デンデン)と」


「司会のメガロマンでした」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る