第26話 登場人物、ショートショート①

ノエル視点


タクトが王都に行ったすぐ後……



「……行っちゃった……」


これで暫くタクトさんには会えない。


「……寂しいなぁ……」


ずっと1人だったのに急に僕はどうしちゃったんだろ。


寂しいなんて。


でもこれも計画のうち。


タクトさんにはちゃんとロンギヌスの槍を強化してもらわないと。


それに、少し眠らないと。


できるだけ深い眠り。


これ以上僕の領域が拡大しないようになるべく深く眠る必要がある。


でもやっぱり心配だ。


タクトさんってあんなに強いのに意外と抜けてるところあるから。


あと、スケベなのに変な所で真面目だから土壇場でロンギヌスの槍を使わなかったりして……。


「……そっと見張っといた方がいいかな?」


でもな。僕が領域の外に出たらその場所に瘴気が発生しちゃうし、ここから出るわけにはいかない……。


「……そうだ。いい事思いついた」


なんか、ぬるぬるする物や柔らかいもの、ゼリーみたいなもの。


それに僕の髪の毛を1本。


僕はチャチャっと家にあるもので錬金を済ませ、それを完成させた。


「よし、これでタクトさんの事も見張って置けるし、僕も寂しくないな」


あとは眠るだけ、あっそうだ、一番大事なことを忘れていた。


僕は魔眼を発動させる。


うん。領域の中に人はいないな。


もう僕の領域には誰1人として入らせない。


僕の運命の人である、彼を除いて。


魔眼とありったけの魔力を使い、僕は最後の用事を終わらせる。


うん。少し疲れた。


「あとは王子様に起こしてもらうのを待つだけだね」


全ての用事を終わらせた僕は、ベッドの中で深い深い眠りについた。



ユキちゃん視点


「魔王の領域に結界がはってありますね」


「え、嘘!?」


アリサちゃんが、タクトさんは魔王の領域に行った可能性があるとあの手この手を使って調べ上げたので、恐かったけれど魔王の領域に行って見た私とアリサちゃん。


でもいざ魔王の領域に着いてみると見えない壁のような物があって領域に入れない。


「魔王の領域に結界なんて!今までそんな事なかったのに!タクトさん閉じ込められちゃったってこと?」


私がパニックになっているのにアリサちゃんは至って冷静だ。


「火の精霊よ、我に力を貸したまえ、顕現せよ、炎」


アリサちゃんが短い詠唱をすると、数十個の火の玉が空中に現れた。


「行け」


アリサちゃんの掛け声と共に火球は結界めがけて飛んでいき、物凄い音を立てて命中する。


「ダメですね。相当強力な結界みたいです」


「ど、どうしよう!タクトさん」


私が涙声になっていると、


「心配しなくても、兄様はこんな事で死んだりしませんよ」


「で、でも……」


「兄様は妹の私を残して死ぬなんて事するはずありません。必ず生きて私の元に帰ってきます。それが兄様です」


何の根拠もないし、メチャクチャな理論なのだが、アリサちゃんが言うと何故か説得力がある。


「そ、そっか、でもどうしよう」


「とりあえずユキさんは明日も仕事があると思うので、一旦帰ってください」


「アリサちゃんは?」


「結界の事を報告するために王都に行きます」


そうか。魔王の領域の異変であればすぐに詳しい報告が必要だ。


「わ、私も仕事の合間に結界の事調べて見るね!」


そういうとアリサちゃんは難しい顔をする。


「いえ、たぶんこの結界は魔王が張ったものです。そして、この結界の壊し方も分かってはいるんです。昔王都国立図書館の禁書庫に忍び込んだ時に魔王に関する書物を読んだことがあるので」


さらっととんでもない事言ったな、この子。


でも今はそれよりタクトさんの事と結界のことが気になる。


「結界は、どうしたら壊せるの?」


「……結界を壊す方法はただ一つ、世界に唯一と言われるユニークスキルが必要。そのスキルの名前はロン……」


エリザ(後のタクトハーレムのペット枠)視点


「ロンギヌスの槍だ」


お父様はそう言った。


「ルイズを送り届けたのはロンギヌスの槍の勇者で間違いない」


お父様がそう言うと、赤い鎧を着た王城騎士のナンバー2であるガストンが苦々しげに言う。


「失礼ながら申し上げます!あの者はただの賊かと……」


「ほぉ……ではお前はただの賊に赤子の様に手のひらの上で踊らされた、と言うわけか」


「そ、それは……」


冷静になったお父様に口喧嘩で勝てるわけがないのに。


ガストンは本当に筋肉だけのバカ。


「心配するな、ガストン。お前の武力を疑ってはおらん。今回の件に関して処罰なども無い。だからこそだ。お前ほどの騎士を手玉にとる事のできる者など、ロンギヌスの槍の持ち主の他あり得んだろ」


王の周りにいた者達は感嘆の声をあげる。


そう、これがお父様の本来の実力なのだ。


冷静さを取り戻してしまえば大臣の進言など必要ないほどのキレ者。


さっきは父様より先にルイズの所について、洗脳のスキルをかけ直したからバレずに済んだが、少しでも怪しまれたら不味い。


王族のスキルはたとえ家族であっても、誰にもそのスキルの名前や能力を言わなくて良いことになっているのでお父様も私のユニークスキルは知らない。


そのため妾(ワラワ)のスキルを知るものは妾を鑑定した鑑定官のみ。


王宮の者のスキルを人に話してしまったならば死罪確定。


なぜそんなにも罪が重いのか。


当然の事。


スキルは力、つまり権威。


王族のスキルが、剣士、魔法使いなど平凡なスキルであれば、民衆から馬鹿にされる。


凡な才能は権威を貶める。


まぁ妾(ワラワ)は凡人ではなかったわけだけれど。


奴隷使いというレアスキルを持って生まれた妾は全てが王族に相応しい!


この奴隷使いは人を自分の言う通りに動かすことができるというスキル。


極めれば人を操ったり洗脳したりもできる。


まさに人を従える身分である妾(ワラワ)にふさわしいスキルだ。


奴隷使いは最高のスキルなのだが欠点もある。


知能や力が強い者には洗脳の能力が効きづらいという点だ。


ルイズも洗脳のスキルが効きにくい相手だった。


目の前で馬鹿正直にスキルを使えば、妾が洗脳しようとしていることがバレてしまうので、妾(ワラワ)はあの子が小さい頃から少しずつ少しずつ何度も何度も調教の洗脳スキルを重ねがけしてきた。


それによってルイズは妾の言う事は疑わない。


めちゃくちゃな内容でなければ素直に命令に従うと言う非常に都合の良いペットになった。


妾(ワラワ)はだいぶ妹のルイズを可愛がっていたと思う。


だって非常に便利なんですもの。


しかしあの子が成長していくと、こんなに妾がよくしてやっているにもかかわらず、ルイズは妾を裏切った。


妾(ワラワ)は12歳の時、隣国の王子に美貌を認められ、求婚された。


妾(ワラワ)は美しい。そんな事はわかりきっている。


しかし妾(ワラワ)は中途半端な相手と結婚するなんて絶対許されない。


だから今まで言い寄ってきた男は全てフってきた。


小国の王子なんかと誰が結婚するもんですか!


しかしルイズが妙齢になると、状況はガラリと変わった。


今まで妾(ワラワ)に毎月プレゼントを送って寄越した王子たちは、妾への贈り物を止めルイズに様々な贈り物をしだした。


ルイズ……あのメスブタ野郎。


淫乱なその体を使って方々におべっか振りまいていやがる。


王族としての誇りは無いのだろうか、恥を知れ。


しかも妾(ワラワ)は知ってしまった。


ルイズのスキルが光の剣士と言う妾以上のレアスキルであること。


あの子は聖なる魔法を簡単に使いこなすことができる。


ルイズはそのスキルのことをお父様にだけ打ち明けたようであった。


お父様は、「その力があればロンギヌスの槍を持つ勇者様とともに魔王討伐ができる!王族として誉(ホマレ)だ!」と感嘆していた。


その日からお父様すら、妾(ワラワ)ではなくメス豚を贔屓(ヒイキ)するようになった。


お父様は妾(ワラワ)にそろそろ婚約をしたらどうだと口うるさく言わなくなった。


あー!!思い出しただけで憎たらしい。


あんまり腹が立ったので、メス豚を殺すことにした。


普通に戦ったんじゃ勝てない。


意外にもあの豚、王城の並の兵士よりも剣術や魔法の腕があるみたいだ。


生命に関わる事態になってしまえば、妾(ワラワ)の洗脳は簡単に解けてしまう。


だから計画を考えた。


ルイズを魔王討伐のために1人で魔王の領域に行かせると言う作戦。


奴隷の1人に自分はロンギヌスの槍のスキルの持っている勇者であると信じ込ませる洗脳をかけた。


そしてルイズには軽い暗示しかかからないので、魔王の領域に行き速やかに魔王を討伐しなくては、王国と全ての民が危うい。

しかしお父様は必ず反対するので、秘密に街を出なければならない、と言うストーリー仕立ての暗示にした。


事実を混ぜた暗示は効きやすい。


まんまとメス豚はそのストーリーを気に入り、偽物ロンギヌスの槍の勇者とともに魔王の領域に死にに向かったのだった。


他の数名の奴隷にもうまく暗示をかけ、淫乱豚と共に旅立たせた。


魔王の領域に着く前に発見され、連れ戻される事のないように、妾(ワラワ)の奴隷の中でも優秀なユニークスキルを持つ奴隷を厳選した。


魔王の領域に行った者は必ず死ぬ。


売女(バイタ)の殺害のために使った奴隷たちまで死んでしまうのは少しもったいないと思ったが、それで合法的に殺れるなら安いもの。


妾(ワラワ)の計画は完璧のはずだった。


実際に奴隷とルイズが魔王の領域に到達したと言う知らせを伝令役の奴隷から受け取っている。


魔王の領域に入ってしまえば瘴気で死ぬか、魔物に殺されるか、運が良ければ魔王に直接殺されるか。


どちらにせよ、死ぬのは確実だったのだ。


計画は完璧だった。


それなのにルイズは帰って来た!


しかもルイズが帰ってきたのは魔王の領域に到達してから、たった1日位しか時間が経っていない。


帰ってこれるはずがない。


伝令の奴隷が嘘をついた?


いやそんなはずはない私がスキルで操っているのだ。


伝令役が私に嘘の報告をできるはずがない。


伝令は高速移動系のスキルを持っている。1人ならば数時間で魔王の領域からここまでこれる。


だからルイズが魔王の領域に入ったのは間違いないとして、ルイズは魔王の領域に入ってからなんとそこを無事に脱出し、寝ずに馬を走らせても三日かかる道のりを、たった1日で戻ってきたと言うことになる。


もしもどこかのタイミングでルイズの暗示が解けたらルイズの事は殺せと言ってある。


実はお前を殺すための刺客だったのだと言って殺せと言ってある。


そうすれば万が一ルイズが生き残ってこちらに戻ってきたとしても何者かにはめられたと言うことになる。


少々面倒だが何とかごまかすことができる。


しかし手練を何人も一緒にいかせていたので、ルイズは殺された可能性の方が高いはず。


不可解なことが多すぎる。


そのロンギヌスの槍の持ち主ってとんでもない力を持ってる?


……欲しい。


そんなとてつもない力を持つ奴隷、絶対に手に入れたい。


ルイズ良かったな。


お前をまだ生かしておく理由ができた。


ロンギヌスの槍の持ち主を誘き出すための餌に、お前にはなってもらう。


そして妾はロンギヌスの槍の持ち主をペットにする。


生涯1度しか使えない私の固有スキルの中でも最大の魔法を使ってな。


妾がそう思案している間にも、ロンギヌスの槍の持ち主に関する話題は進展していた。


「ではロンギヌスの槍の持ち主は王都にいる可能性が高い、と?」


「うむ。そして相当の実力者だ。私はロンギヌスの槍の持ち主は、すぐに見つかると思っている」


「そ、それはいったいどう言う事でしょう!」


「間も無く決まるではないか。この国で一番強い者が」


「な、何と!?」


「そうだ、ロンギヌスの槍の持ち主はギルド対抗の……」


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