第24話 ゴブリンキングを倒すとSクラスに飛び級で英雄になれるってマジですか?
「ふぅー。薬草の採集あと一種類で終了」
俺は南の洞窟付近であらかたの薬草を集め終えていた。
「それにしてもダンジョンの近くなのに人が全くいない。……穴場だな!」
いい場所を教えてもらった。
さて、最後の一種もそこら辺にあるだろうし、と言ってる側から、
「あそこにあるな」
俺が薬草を取ろうとしゃがみ込むと、突然俺の後頭部めがけて矢が飛んできた。
「パシ」
片手で矢を掴む。
中々いい腕だね、ゴブリンにしては。
俺の後方50メートルほど先にゴブリンが一匹。
「しかも中々狡猾だ」
すでに俺は10数匹のゴブリンに周囲を囲まれていた。
矢の一撃が不発に終わると、草陰に隠れていたゴブリン達が一斉に飛び出し、俺に襲いかかった。
俺は持っていた短剣で1匹、2匹とゴブリンの首を掻っ捌いていく。
5匹めを仕留めたところで、これは無理だと悟ったのか、ゴブリン達は引いていく。
「ゴブリンにここまでの知能はないから、多分司令塔がいるよね」
案の定司令塔登場。
通常のゴブリンの10倍はあろう巨大なゴブリンが、俺の前に姿を現した。
「ゴブリンの上位種。よく49支部の近くにも出てたっけ」
こいつの面倒なところは、ゴブリンの統制を図るところ。
1匹や2匹のゴブリンは冒険者にとって大した事はないが、数十匹のゴブリンとなると、その対処は非常に難しい。
しかも今回この上位種のゴブリン100は部下を従えてるな。
「これで大量発生じゃないって、やっぱり王都は凄いね」
って事は東の森は1000匹くらいいたのか?
行かなくてよかった。
ゴブリンキングは「ウォーーーー!!」っと雄叫びをあげる。
するとさっきまで俺に恐れをなしていた周囲にいたゴブリンキングの部下の目の色が変わる。
「なるほど、雄叫びで相手を怯ませるデバフに、味方の能力をあげるバフ。いいスキル持ってるね」
でも俺にはもっといいのがあるんだな。
魔眼があるからわざわざ術式で魔法の威力を高める必要もない。
大勢の魔物を相手にする時のコツ。
相手を散らばらせない。
「風よ、巻き込め」
俺は風の呪文を発動させた。
小さな竜巻がゴブリンキングの近くに発生し、周囲の物を吸い込むように集めていく。
ゴブリンキングは抵抗しようとするが、竜巻に吸い付き離れられない。
他の100匹のゴブリンも見事に一箇所に集めてやった。
集めてしまえばあとは簡単。
「雷(イカズチ)よ、轟け」
ゴブリンが集まっている中心に、特大の雷魔法を放つ。
ゴブリンの皮は割と丈夫で、ほとんどの魔法に耐性があるが、雷魔法だけは逆に通しやすいんだよね。
光と轟音、衝撃。
その後はプスプスと言う音と肉の焼け焦げる匂いがした。
「よし、ちゃんと全部ウェルダンだな」
終わった終わった。
「完全無詠唱でできるんだけど、つい軽い詠唱しちゃうな。癖かな」
さぁ、薬草の依頼を達成しに行こう。
ゴブリン達の死体を残したまま、俺はさっさとその場を離れた。
タクトがゴブリンキングと戦っていたその時
若い冒険者三名が南の洞窟に近づこうとしていた。
Cクラス冒険者ドラン視点
「おい、止めようぜドラン!俺たちみたいなCクラスじゃ、ゴブリンキングの討伐は無理だって!」
ダンは剣士の癖に意気地無しだ。
いつも重要な場面で二の足を踏む。
「うるさい!この洞窟周辺は俺たちの庭みたいなもんだ!Sクラスに手柄を取られてたまるか!それに逆に考えろ!俺たちでゴブリンキングを片付ければ、一気にランクアップで、俺たちがSクラスだぞ」
「それはそうだけど」
まぁ意気地が無いおかげで強く言えばすぐに言いくるめられる。
剣の腕は悪くないし、しばらくは使ってやるさ。
魔法使いのリザはダンとは真逆でちょっと自信過剰な所がある。
「まぁいいんじゃない。あんたらはCクラスだけど、私はBクラスだし。何てったって習得難易度SSの雷魔法が使えるのよ。雷耐性の無いゴブリンキングも、私がいれば簡単よ!囮(オトリ)くん2人は足を引っ張らないでね」
「チッ」
俺はリザに気づかれない様に小さく舌打ちをした。
実際今回のゴブリンキング討伐はリザの雷魔法頼りなところがあるし何も言い返せない。
ムカつくぜ、この女。いつかわからせてやる。
そう思っていると、遠くから「ウォーーーー!!」という雄叫びが聞こえた。
背中にヒヤリと汗をかく。
ゴブリンキングか?
「お、おい、今の声!やばいって!引き返そう!」
「お、落ち着け!逆に言えば大体の居場所がわかったんだ!こっちから奇襲をかけられる。チャンスだ!」
「そ、そうね。あんたらがちゃんと詠唱の間時間稼ぎしてくれればいけるわよ。何よ、2人ともビビっちゃって。情けない」
くそ!お前だってビビってるくせに。
まぁこの女が生意気なのは今に始まったことではない。
慎重に歩みを進めようとした時。
空からとてつもない大きさの落雷が雄叫びがしたあたりに落ちた。
「な、なんだ!?」
「おい、リザ!お前雷鳴魔法使ったか」
「つ、使ってない、だってあんな遠くだし。詠唱もしてないし。それにあんな威力の雷魔法使えるやつSクラスにもいないって。多分自然発生の雷だと思う」
「……よし、行ってみるぞ」
俺たち三人は静かに、慎重に、南の洞窟に近づく。
ゴブリン大量発生の地点に近づいているはずなのに、不思議と1匹のゴブリンにも出くわさない。
この辺りだ。
焦げた匂いがする。
「こ、これって……」
「ご、ゴブリンキング!?」
黒焦げになっている100匹はいようかと言うゴブリンと、1匹のゴブリンキングの死体。
俺たちは異様な光景を目の前にし、しばらく何も言えなくなっていた。
ダンの口から感嘆とも、恐怖ともいえない感情が漏れる。
「これは……」
リザはいまだに、雷の原因の方を気にしている。
「だ、誰かがやったのかな?それともやっぱり偶然雷が当たった?うん、多分そっちかな」
俺はといえば、この光景を見てすぐに思い浮かんだある計画。
それについてずっと考えていた。
誰かがやったか、偶然かなんてそんな事はどうでもいい。
俺は自分の身に舞い降りた幸運に思わず笑みがこぼれそうになる。
「おい。これチャンスじゃねぇか?」
俺が2人にそう言うと、2人は間抜けな声をあげる。
「え?」
「チャンス?どう言うこと?」
本当に馬鹿な奴らだぜ。
「このゴブリンキング。明らかに雷(イカズチ)で絶命している。そして雷魔法を使えるやつは数が少ない。王都に絞ればほんの数人。それなのに俺のパーティーには、リザお前がいる……分かるだろ」
「まさか、ドラン!それはまずいって」
ダンはいい。絶対に俺が言いくるめてやる。
問題はリザだ。
「なぁリザ。ゴブリンキングを討伐した英雄。なってみたくないか?」
俺がそう言うと、リザはニヤリと口元を歪めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます