第20話

【次の日】


 夕方になると、この都市にいる多くの人が中央広場に集まって来る。

 インスティやプロテクタは会場で暗殺者がいないか目を光らせる。


 この国の王はわざわざここまで来てティアを落とすために手を尽くしているらしい。

 王を見ると、黒いタイツのようにぴっちりとした服に、とげとげのアクセサリーとチェーンを付けており、白髪交じりの髪もセットしたのか尖っている。

 体は痩せており、ぴっちりとした服を着ているので腕は枝のように見える。

 何か話すたびに魔道ギターをギュインギュインと鳴らす。


 あの人には近づきたくないな。

 僕は王に目を合わせないようにしていた。


「すぐに始めるんだヨー!!」


 ギュインギュイン!

 王の声とギターがうるさい。


 僕とティアは木で作られた発表台に歩いていく。


 王が叫びながらギターを弾く。


「神聖な儀式にみすぼらしい姿で登場したヨー!!早く始めて終わらせるんだヨー!!」


 ギュインギュイン!


「他の都市に移す映像はちゃんと映っているかヨー!!」

「問題ありません。王よ。もう少しお静かにお願いします」


 ギュインギュイン!ギュインギュイン!


 王は家臣の言う事を気にせずギターを鳴らし続ける。


 ティアの服は元の姿に合わせて作ってある。

 サイズが合わず服も靴もだぼだぼだ。

 サイズが合わない服は不格好に見えるだろう。


 服はシンプルに作ってある。

 全部呪いが解けたティアをイメージして作った。


 僕とティアが魔道マイクの前に立つと、司会のクラッシュが司会進行をする。

 クラッシュが司会!?


「皆さん静粛に!これよりティア王女の王位継承権破棄を行います」


 クラッシュが発言すると女性から黄色い声援が聞こえる。


 クラッシュがこの場を仕切っている!?

 周りを見渡すと、クラッシュの持ち株社員がみんなを誘導し、治安維持まで行っている。

 精鋭の兵士は王を守る為にいて、クラッシュが儀式の進行をするのか。

 ゴリ社長を見ると僕を睨んでいた。

 会いたくなかった。


「ティア王女、それではお言葉をどうぞ」


「私は、王位継承権を破棄し、王族の地位も破棄します」


 そう言ってティアはマイクを元の位置に戻した。

 ティアは王位継承権だけじゃなく、王族の地位も破棄した。

 ティアの言葉が短かった。

 普通なら10分以上話をするけど、ティアの言葉は儀式の中で一番短いかもしれない

 

 その瞬間ティアの呪いが解けた。

 15才の大人になり、自然な笑顔を浮かべるティア、その横顔は綺麗だった。


 ティアが夕日に照らされ、銀色の髪は黄金に輝き、そのシンプルなローブはティアの魅力を引き立てるように黄金に輝いて見えた。

 少し暖かくなり冬と春が混ざり合った風がティアの髪を撫でる。

 銀色の髪が横になびいて、ティアの魅力を引き立てた。


 シンプルで控えめな服はティアを引き立てて、でも、黄金に輝いて見えた。


 その圧倒的な存在感に皆が見入り、ティア自身が輝いているのか夕日で偶然黄金に輝いているのか分からなくなる。


「ティア!いくら王位継承権が高くても、1度でも王位継承権を破棄したらもう戻せないんだヨー!王家の地位も手放してくれて助かったヨー!他の都市に映像は届いているヨー!」


 王が小さく見える。

 王ではなく道化に見えた。

 そして王位継承権を破棄したティアが真の王のように映った。

 

 王の狙い通りティアの王位継承権を破棄させることが出来た。

 でも、王の評判は落ちて、ティアの評判は上がると思う。


 それに、もしティアが暗殺されたら王が犯人だと思われる。

 ティアは王位継承権を破棄したけど、負けていない。

 王は満足したような顔をして儀式の途中でも去って行った。


「降りましょう」


 ティアが笑顔で言った。

 まるで心の呪いまで解けたように見える。

 発表台から2人で降りるとティアが男に声をかけられた。


「ティアさん、そこのちびに変わって俺が護衛を引き受けますよ」

「私とカモンは付き合っているわ!護衛はカモンがいれば大丈夫よ!」


 そう言ってティアが僕の腕に絡みついた。

 冒険者が悔しそうに去って行く。


 ティアが耳元で言った。


「あの冒険者は私がおばあちゃんの姿でいる時に何度も怒鳴られたわ」


 僕は男避けなのか。

 それでもいい。


「カモン!調子に乗るなよ!」


 ゴリ社長が人込みをかき分けて僕に近づく。

 ゴリ社長は僕が女の人とくっ付いているのが許せないんだ。


「お前のせいで会社がおかしくなった!全部お前のせいだ!!今すぐ会社に来て働け!!女とイチャイチャする暇があれば働け!!」


 この事で残ったみんながゴリ社長に注目した。


 クラッシュが魔道マイクを持ったまま言った。


「丁度いい、今からブラックポーションの悪事を暴いた映像を全社員に見せる。もちろん社員以外の方も観戦は自由です」


 クラッシュの合図で空中に映像が、そして音が中央広場中に流れる。


 王もクラッシュもお金をかけている。

 映像魔道具も通信魔道具もすごく高いんだ。




 あれは、薬草ダンジョン!

 ブラックポーションの皆が移っている!

 少し昔の映像かな?

 僕も映ってる!


『おい!カモン!壁役だろーが!早く飛び込めよ!』


 ゴリ社長が僕を怒鳴る。



『も、もうこれで3回目です。休ませてください!』

『甘えるな!いいから行けよ!!』


 そう言ってゴリ社長は僕の髪を掴んで振り回すようにハーブトレントとスライムの群れに投げ飛ばした。


『うああああああ!!』


『『『ぎゃはははははははははははは!!!』』』


 ハーブトレントとスライムに囲まれて泥まみれになる僕をみんなが笑う。


 皆は僕を壁役にして後ろから魔物を倒していった。


 その後はゴリ社長が僕に大きいバックを叩きつける。


『薬草採取ううううううううううううううううう!』


 ゴリの怒鳴った顔がアップで映し出される。


 その後ゴリ社長が僕をゴーストとスケルトンの盾にする映像や魔石を勝手に使う映像。

 それと僕を殴る映像と蹴り飛ばす映像が映し出された。

 更に解体や皮なめしのノルマを押し付ける為に僕の胸倉を掴んで持ち上げる映像も流れる。


 すべての映像が終わると、ゴリ社長とブラックポーションの元従業員はゴミを見るような目で見られる。

 特にゴリ社長は皆に睨まれた。


 人口が1万人しかいなくて、たくさんの人がこの映像を見た。

 ゴリの評判は下がる。


 ゴリ社長はだらだらと汗を掻く。


「以上が第三者機関に調べて貰ったブラックポーションの不正だ。ゴリ、罪を償え!!」


「ち、違う!か、カモンが悪い!」

「何が悪いのだ!答えろ!理由を言え!!ゴリいいいい!!!」


 クラッシュに怒鳴られ、ゴリ社長はだらだらと汗を掻く。

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