第11話

【インスティ視点】


 退屈です。

 騎士団も魔物狩りもウエイトレスも宅配も全部飽きてギルドの受付になりましたが、面白い事が起きません。


 カモン君の気配がする。


 シュタタタ!ピタ!ジーーー!


 カモン君は物音を消してギルドの入り口をゆっくり開け隙間から中を覗き込む。

 気配を消しても無駄ですよ。


 ふふ、いい事を思いつきました。

 私は気配を消して裏から外に出てカモン君の後ろに回り込む。




「わ!」


 後ろから大声を出した。

 カモン君の体が固まって顔が引きつる。


「あ、あははは!驚かせすぎちゃいましたか?」

「び、びっくりしました」


 私はカモン君の背中を押して椅子に座ってもらう。


「魔物の素材や他の素材を納品したいです。でも、何が売れるか分からないんです」

「任せてください!相談に乗りますよ!その前に手紙が来ているんでした」


 手紙はブラックポーションから。

 中身が気になります。


 カモン君に手紙を渡すとカモン君の表情が曇りました。


「もし、良ければ見せてもらってもいいですか?」

「はい」


 私はカモン君から手紙を受け取って読む。






 カモンへ

 お前は無能のノービスで鬼人族のスキルも使いこなせない落ちこぼれだ。


 だが喜べ、俺がまた採用してやってもいい。


 給金は月10万ゴールドをくれてやる。


 今まで仕事をサボり続けたお前がオーナーに謝れ!

 サボっていた事を誠心誠意謝罪し、今までの3倍壁役・薬草採取・魔物の解体・皮なめしをこなせ!


 すぐに会社まで走ってこい!


 無能で落ちこぼれの面倒を見てやる。

 念を押しておくが、お前がサボった件は何度もオーナーに謝れよ!

 お前のせいで迷惑しているんだ!

 分かったら早く来い!


 


 給金が13万ゴールドから10万ゴールドに減ってる!

 書いてあることが色々おかしい!


「これは、酷いですね。カモン君に責任を押し付けようとしてますよ。カモン君ならソロの方がいい収入が得られると思いますよ」

「そうですかね?」

「そうですよ、ブラックポーションの社長が来ました!隠れてください!」


 私はカモン君を掴んで抱き上げてカウンターの下に隠す。

 太ももでカモン君を押してカウンターの下に押し付けた。

 この位置ならバレないはず!



「おい!カモンは居るか?」

「居ませんがどうしました?」


「くそ!時間がねえんだよ!俺様はさびれた冒険者ギルドにいるお前らと違って忙しいんだ」

「そうなんですね」

「おい!早くカモンを探せよ!」


 カモン君が出てこようとするので出て来れられないように太ももを押し付けます。


「それは冒険者ギルドに依頼を出すと言う事でしょうか?」

「そうじゃねえよ!これだから役人の奴らは無能なんだよ!」


「そうですか。用が無いのならお帰り下さい」

「カモンを探せよ!」


「依頼を出すという事でしょうか?」

「ち!そうじゃねえよ!ただで探してこい!」


「申し訳ありませんが慈善事業は受け付けておりません」

「調子に乗んなよ!」


 ゴリ社長が殴り掛かる瞬間に太ももから短剣の取り出す。

 短剣の柄を拳に当てた。


「があああああああああ!」


 ゴリが手を抑えて苦しむ。


「正当防衛ですよ」


 私は笑顔で言った。


「これ以上続けるなら後ろの方にも出て来て貰います。犯罪者として兵士に連行してもらいましょうか?それと私がもし柄ではなく刃であなたの拳を受け止めていたらどうなっていたでしょうか?」


「くそ!覚えてやがれ!」


 ゴリ社長は怒鳴って出て行った。


「小者ですね。もう大丈夫ですよ。カモン君、真っ赤ですね」

「その、すみません」

「え?何がすみませんなのですか?よく分からなかったです」


「受付嬢さんの太ももに顔をつけてしまいました」

「気にしなくていいですよ。申し遅れました。私の名前はインスティです」

「分かりました。インスティさんですね」


 ふふ、太ももを押し付けただけで真っ赤です。


「ほんとーに顔が真っ赤ですね」


 そう言ってカモン君の頬に指をつんつんする。

 また少し赤くなった。


「あの、素材の納品をお願いしたいです。ティアおばあちゃんにお礼をしたいんです」

「ティアは今教会の炊き出しを手伝いに行っています。今日は帰ってこないですよ」

「じゃ、じゃあプロテクタに塩を貰ったお礼をしたいんです」


 プロテクタさんの事はプロテクタと言うのに私の事はインスティさんなんですね。


「カモン君、プロテクタさんはダンジョンに行ってます。それよりもカモン君、私とは仲良くしてくれないんですね」

「え?何、ですか?」

「それです。話し方がよそよそしいです。傷つくんですよ」


「えーと、普通に話していいんですか?」

「はい!さあ、話してください!」


「い、インスティさん、素材の納品をしたいんだ」

「はい駄目です。さん付けは駄目ですよ」

「インスティ、素材の納品をしたいんだ」

「はいよく出来ましたー」


 カモン君の頭を撫でる。

 またカモン君の顔が赤くなった。


 私はカモン君の頬に手を当てた。

 もちろんワザとです。


「また赤くなりましたね」


 カモン君はハッと何かに気づいた顔をしてジト目で私を見る。


「カモン君。どうしたんですか?」

「インスティ、からかってる?」


 私の顔がにやけてしまう。


「あー!やっぱり!からかってる!」

「ふふ、ふふふふ、ごめんなさい。からかっちゃいました」


「素材の納品を忘れてた」

「そうでした」


 何故かカモン君は少しだけ迷ったような顔をしました。

 たまにストレージ持ちの方がスキルを見せたくなくて同じような動きをしますね。


 カモン君は迷った後服から魔石の入った袋を取り出します。



「え!」


 袋の中には中層に出てきた魔物を倒したようなルービックキューブのような魔石の塊が出てきました。

 中層の魔物を倒さないとここまでの塊になりません。

 

「売れないのかな?」

「いえ、大丈夫ですよ。奥に行きましょう」


 まず魔石のお金で冒険者登録と銀行口座を開設します。

 プレートを受け取り、『冒険者』の刻印がされた印をプレートに当ててハンマーで叩きます。

 これでプレートに冒険者の刻印がされました。

 新規発行のプレートは丁寧に作りますが、情報の更新は適当です。


 これだけで1万ゴールドの手数料。

 国で決められた値段とはいえぼったくりですね。

 更に銀行口座の開設は10万ゴールドなので、こっちの方がぼったくりです。

 でも、作らないと不便なんですよね。


「はい、1374000ゴールドとプレートです」

「こんなに!」


「魔石は1つ1000ゴールドで売れますから、カモン君はもう冒険者としてやっていった方がいいですね」

「そうだね」


「ティアとプロテクタさんは3日後にはここにいるでしょう。その時にまた来てください」

「うん、ありがとう」

「いえいえ、こちらこそ」


 お互いに手を振って別れる。

 私はカモン君のステータスを確認する。

 分析スキルは得意なんです。 




 カモン  男

 【上級ノービス】(????)

 体力:【50/100 EXP0/51→100/100 EXP0/1010】

 魔力:【50/100 EXP0/51→100/100 EXP0/1010】

 器用:【50/100 EXP0/51→100/100 EXP0/1010】

 才能:【56→68】

 スキル『★鬼人化:封印中』『短剣レベル8(????)』『裁縫レベル6』『採取レベル【7→10】』『解体レベル6』『生活魔法レベル4』『鍛冶レベル【3→5】』『紋章魔法レベル1』

 武器:『★ナイフ召喚レベル10攻撃力100(????)』【『★鞘召喚レベル【1→8】(????)』

 防具:『★マント召喚レベル10防御力50(????)』




「体力・魔力・器用オール100、Cランク冒険者相当ですか。面白くなってきました」


 ランクアップをお勧めするのを忘れてました。

 


 プロテクタだけでなく、インスティも分析スキルを持っていた。

 カモンの急速な成長。

 それを知っているのは、プロテクタとインスティだけであった。

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