第96話 魔道士達、ドンチャッカ国に到着する

「ようやく到着したであるな」


 魔道士協会六神徒の一人、カイソウジは手練れの魔道士を率いてドンチャッカ国の入口に当たる坑道に到着した。

 大半が地中にあるドンチャッカ国に行くにはここを通る必要があるが、先へ進むに当たって当然ながら魔物がいる。

 カイソウジ他、魔道士達は警戒して坑道に足を踏み入れた。魔道士の一人であるジェイルが坑道を見渡す。


「カイソウジ様! ドンチャッカ国には魔道士協会の支部がないと聞きます! 我々の入国を認めるのでしょうか!」

「ジェイルよ。あそこは支部がないだけで魔道士の入国は制限しておらん。む?」


 坑道を進むと奥からギガントワームがやってくる。高レベルの魔物に魔道士達は身構えるが、カイソウジは印を結んだ。

 次の瞬間、ギガントワームがしぼむように小さくなって消えてしまう。熟練の魔道士でも手間取ることがあるギガントワームの瞬殺劇に魔道士達が感心する。


「久しぶりに拝見しましたが、恐ろしい固有魔法オリジナルですね!」

「うむ。吾輩は殺生は好まん。殺生は己の魂を汚す愚行よ。諸君も胸にとどめておけば、神への道が開かれん」

「うおぉぉぉ! 憧れの六神徒とご一緒できるだけでなく、固有魔法オリジナルまで見られるとは! カイソウジさん! お供します!」

「そうだな。では……む? ウェイカー、どこへ行く?」


 カイソウジが引き連れていた魔道士の一人、ウェイカーが単独で坑道を進んでいく。

 彼は誰とも喋らず、魔道士の中でもカイソウジにすら心を開いていない。


「俺はあんたらと別行動だ。手っ取り早く終わらせてとっとと帰りたいんでね」

「迂闊な行動は慎むのだ。敵はあのズガイアすら打ち破ったほどかもしれぬのだぞ」

「あの根暗がなんだって言うんです? あんなのが六神徒になれるなら、俺だってなれるね」

「口を慎めぃ! 待たれよ!」


 カイソウジの制止も聞かずにウェイカーは一人、離れていく。

 ウェイカーはカイソウジが目をかけていた魔道士の一人だ。性格に難があるのは彼もわかっていたが、ここまでとは思っていなかった。


「カイソウジ様。止めなくていいんですか!」

「うむ、あそこまで言うのならやらせてみよう。奴の魔法ならば、ひょっとするかもしれんからな」

「でも、あいつはいい噂を聞かないですよ! 魔物討伐の際に周囲にいた冒険者を巻き込んだとか、囮にしたとか……!」

「根も葉もない噂を報じるでない。奴もまた神に選ばれし身、最低限の分は弁えていよう」

「は、はい。ではドンチャッカ国の首都を目指しましょう……あ! グレイ! お前もどこへ行く!」


 ジェイルが魔道士の一人、グレイを呼び止める。耳や鼻にピアスをして、全体的にじゃらついた風貌だ。

 グレイがカイソウジ達に向き直ってニッと笑った。


「いやぁ、まとまって行動するより個々の才能を活かしたほうがよくないっすか?」

「グレイ。先ほども言ったが相手はズガイアを打ち破ったほどの聖女だ。吾輩も決して油断できん」

「ズガイアさんだって大勢の部隊を相手にしちゃ厳しいっすよ。それに聖女って……バカじゃねえのって感じっすわ」

「グレイ、油断は身を滅ぼすぞ」

「じゃ、俺も好きにやらせてもらいまーす」

「あ、待てい!」


 グレイもまた一人、カイソウジ達から離れていった。カイソウジは頭をぺたぺたと触りながら、ため息をつく。


「あ奴ら、腕は立つが精神は未熟かもしれん。連れてくるのは早計であったか」

「カイソウジ様、あの連中には自覚が足りないのです! 先走って任務の邪魔になるようであればッ!」

「致し方あるまいな。今、残った者達は分別がついておる」

「はッ! ありがたきお言葉! 聞いたか、お前達!」


 ジェイルが残りの魔道士に呼びかけた。大半が威勢よく返事をしたものの、一人だけ声が小さかった。ジェイルはその人物に目をつける。


「リコット! 覇気がないぞ!」

「は、はい……」

「貴様もカイソウジ様に見出された気高き魔道士の一人! 何を気落ちしている!」

「そういうわけでは……」


 リコットは杖をぎゅっと握って俯いた。彼女のモチベーションは地に落ちている。

 幼いころに魔道士に助けられた彼女は夢を持った。魔道士を人生の目標として、努力を惜しまなかった。

 自分も人を助けられる存在になりたい。リコットにとって魔道士とは魔道士にあらず、助けられる力を持った者だ。

 そんな彼女がとある国の王立魔法学院を首席で卒業してから一年。憧れの魔道士として魔道士協会に所属してからは、いつか持っていた憧れも消えつつある。

 正義の味方だと信じていた魔道士協会は選民主義にまみれた者達の集まりだった。

 力を振りかざして国に寄生して意のままに操る。最近では魔法生物の研究を行っていて、研究所周辺にも被害が出ていた。

 魔道士協会に所属してしまったばかりに、そんな連中と同類として見られる。抜けてしまおうかと何度も思ったリコットだが、決断できない。

 魔道士協会を抜けてしまえば支援が受けられないどころか、個人の活動が妨害されて立ち行かなくなるという噂すらあったからだ。


「リコット! お前は今回のメンバーの中では未熟もいいところ! カイソウジさん他、偉大なる先輩達の働きを目に焼き付けておけ!」

「わかり、ました……」

「声が小さいッ! 魔道士は神に選ばれしッ! 神へと至る者だとッ! 教えただろうがぁッ!」

「わかったって言ってるでしょッ!」


 リコットはハッとなった。慌てて頭を下げてごまかしたが、ジェイルに被っていたフードを下ろされてしまう。

 ジェイルはリコットの顔を覗き込んでから、唇を真横にするほど笑顔を作った。


「威勢だけじゃないところを見せてもらうぞ?」


 リコットはゾッとした。ジェイルは今回のメンバーの中ではカイソウジに続く二番手の実力者であり、敵う相手ではない。

 間もなくドンチャッカ国の首都だ。入口の垂れ幕には【地下バトラビリンス! 近日開幕!】と書かれていた。

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