第93話 地下王国ドンチャッカ
「……テリ! おい! マテリ!」
「はっ!?」
ミリータちゃんに話しかけられて、ようやく状況を認識できた。ミッションの余韻が心地よすぎて、また私は浸っていたんだな。
確かここはなんとか坑道という場所で、近くを通りかかったらミッションが発生したんだ。
その途端、なぜか私の五感に報酬の在り処が伝わってきて魔道車を走らせた。辿りついた先では数人のドワーフが邪悪っぽい何かと交戦していたんだっけ。
私としたことがこれじゃまるで物欲まみれの亡者だよ。ミリータちゃんも気をつけてねって言おうとしたけどやめた。
「おめぇ、またオラに何か忠告しようとしてなかったか?」
「してない。セーフだって」
「セーフならしょうがねぇ」
ミリータちゃんのこれはもうスキルなんじゃないか。ジットリとした目つきが怖い。
それでここはなんとか坑道、あそこにいるのはドワーフなのは間違いない。どこかで会ったかな?
すごい私のことをジロジロとみてくる。
「お前ら、マテリにミリータか? 俺だ、ファフニル国のガンドルフの町で会ったドグだ」
「あー、なんか覚えてます」
「それはよかった。別人かと思ったが、お前らは間違いなくマテリとミリータだな。ひとまず助けてくれて感謝する」
「いえいえ、人として当然のことをしたまでです」
ミリータちゃんの視線が痛いけど気のせいだよね。人助けしたのは間違いないからね。
そんなことより、私達はドンチャッカ国内に入って首都を目指しているんだった。
ミリータちゃんの道案内でここまで来たけど、まだ先は長いのかな?
「ミリータ、少し見ないうちになんか変わったな。それにその装備……」
「これはマテリのスキルのおかげで手に入っただ。鍛冶で鍛えたのはオラだけどな」
「そうか。あの頃はお前を未熟者扱いしたが、立派に成長しているな。積もる話はあるだろうが、ここじゃな」
「だったら首都ホウルに行くべ。オラの父ちゃんと母ちゃんにも挨拶してぇ」
こうしてドグさん達、ドワーフを魔道車に乗せて首都ホウルを目指した。
ドンチャッカ国は大半が地下で構成されていて、首都や他の町に行くならこの地下迷宮みたいなところを通らないといけない。
その途中に色々な坑道があって、ドワーフ達が発掘作業に勤しんでいる。
ドンチャッカ国の地下資源は各国からも注目するほどだ。世界で使われている鉱石の2割近くがドンチャッカ国内で発掘されたものだというから、胸が高鳴る。
という国の概要をミリータちゃんが長々と説明してくれたけど、さすがに聞き流すわけにはいかない。
危うく意識を失いかけたところで、地下資源による報酬という単語で目が覚めた。
魔道車で地下道を進みながら、ドグさん達が補足で説明をしてくれる。
「ドンチャッカ国には人間もいるが、出稼ぎで来ている奴が大半だな。お前らもそうか?」
「そうだね。ミッショ……地下資源というものに魅力を感じたよ」
「そうか、そうか。また他種族に興味を持ってもらえたなら、バトルキングも喜ぶだろうよ」
「バトルキング?」
「ドンチャッカ国の王さ。三度の飯よりバトルが好きでな。そういえば、そろそろ地下バトラビリンスの時期だな」
地下バトラビリンス。バトルキングが国を挙げて開催する大会で、地下迷宮で参加者同士が戦ってゴールを目指すという主旨らしい。
去年の一位の賞品は地下から発掘された超希少な鉱石で、売れば四代にわたって遊んで暮らせるほどのものだったとか。
「そうなると、よからぬ奴らがやってくるのも常だがな。特に大昔、魔道士協会の連中が悪さをした時に何代目かのバトルキングがキレて叩き出したんだ」
「え? あの人達いないの?」
「あぁ。ドンチャッカ国はこの大陸で唯一、魔道士協会の支部がない国だ」
「そっか……」
あれ? 私はなんでガッカリしているんだろう? 別にあんな人達なんてどうせろくなことしないし、いないほうがいいよね?
それなのにこの喪失感はなに? マテリ、あなたは平和を愛する女の子でしょ。マテリ、しっかりしなさい!
「つまりここは魔道士協会非加盟国だ。何かあっても魔道士様は助けちゃくれねえし、資金援助もない。だけど俺達、ドワーフは働きものだからな。なーんも問題ねぇ」
「そ、それはよかったね」
「どうした? なんかテンションが落ちてないか?」
「そんなわけないって」
「そろそろホウルに着くな」
地下道を進むと、段々と通路が広くなる。その先には二人のドワーフが立っていて、持っていた斧で通せんぼされた。
「止まれ!」
「ドグだ。こいつらは俺の知り合いだから通してくれ」
「ドグさん! お疲れ様です!」
見張りのドワーフか。すごい形相だったな。ミッションが出るかと少し期待したのに。
浅黒い肌に筋骨隆々、見るからにたくましいから報酬があるならさぞかし羽振りがよさそう。
いよいよ首都ホウルに入ると、そこは地下とは思えないほど広かった。例えるなら超巨大なドームに大きな町がすっぽりと覆われている感じだ。
真ん中に見える大きな宮殿がバトルキングのお城かな。建物に角を生やすセンスよ。
「じゃあ、俺はバトルキングに色々と報告したいことがあるからな。お前らはひとまずミリータの家にいくのか?」
「そうだな。ドグさんと会えてよかっただ」
「ミリータはご両親と仲良くな。マテリ達は観光をするなら、魔石岩盤浴と温泉がお勧めだ。いい店があるぞ」
ドグさんが紙にお勧めの店を書いて手渡してくれた。岩盤浴か。この世界にもそんなものがあるんだ。
他にも魔石博物館や旧時代の魔道具博物館と、人間の町では見られないものばかりでこれはこれで楽しそう。
やっぱりミッションにしか興味を持たないというのは人としておかしい。これが私の本質なんだ。
「じゃあ、ドグさん。案内、ありがとね」
「あぁ。まぁ後でお呼びがかかるかもしれないが……」
「え? なんて?」
「いや、なんでもない。楽しんでいってくれ」
何でもないじゃないんだって。楽しいことでもトラブルでもいいけど、重要なのはそこにミッションがあるかどうかだ。
すべてはそこにかかっている。ミッションにすべての価値がある。ミッションがないなら、どうしちゃおうかな。
「マテリ、フィム。すまねぇがこれからオラの実家に挨拶してぇ」
「いいよ。私も会っておきたいからね」
「ミリータさんのご両親ってどんな方々なんですか?」
「まぁ、ちょっと変わってるかもしれねぇが……」
ミリータちゃんの家は首都の郊外にあった。ドーム型のかわいらしい家から煙突が突き出ている。
ドアをノックすると、のっそりと一人のドワーフが出てきた。髭だらけの風貌で、みるみると険しい表情になって握りこぶしを作る。
「お、おめぇミリータ! こいつめッ!」
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ミッション発生!
・ウガールを討伐する。報酬:レベルアップル
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「ふぉりゃぁぁーーーー!」
「ぐあはぁッ!」
出てきたドワーフに杖の先制攻撃をくらわせることに成功した。ふぅ、ミリータちゃんの家からいきなり敵が出てくるなんてね。
さすがのミリータちゃんも焦ったと思うけど、これで安心だ。ん、ミリータちゃん?
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ミッション達成! レベルアップルを手に入れた!
効果:食べると2レベル上がる。
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「うぅ……」
「父ちゃん! しっかりするだ!」
あの? ミリータちゃん? その敵がどうかしたのかな? 今、父ちゃんって言ったけどきのせいだよね?
まさか私が出合い頭にお友達のお父さんを殴り倒すような野蛮な女の子のわけないもんね。それじゃただ頭がおかしいだけだもんね。ね?
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