第66話 難攻不落のダンジョンに挑もう

 国が管理している施設や土地、ダンジョンの情報を得た上で私達は一つずつ向かうことにした。

 クリード王子が気前よく王印証をくれたものだから、この国において侵入できない場所はない。

 冷静に考えなくても正気ですかと聞きたくなるのだけど、なんであの人は私にそこまで入れ込むんだろう?

 容姿はまぁ悪くはないと思うけど、それなら身綺麗にしている貴族の女の子のほうがよっぽど似合う。

 と、魔道車の中でミリータちゃんとフィムちゃんに相談したところ――。


「ああいうお偉いさんってのはな、一般的な性癖とは違うことが多い。中には変態的な趣味に走るのもいるって聞くべ」

「師匠の魅力をもってすれば、この世の男性全員を惚れさせることができますよ!」


 私はサキュバスか何かですかね。

 あとミリータちゃんの見解はたぶん私じゃなかったら怒るか泣くかすると思う。

 私相手だからって言っていいことと悪いことがある。

 

「で、マテリ。今回の目的地のアレリア遺跡だけどな。一級冒険者以外、本来は入れねぇ」

「知ってるよ。だから王印証とかいうよくわからないアイテムで突破しようとしてるんでしょ」

「そんな条件なのに、ここからまともな状態で帰ってきた奴はほとんどいねぇんだ」

「なにそれ」


 魔道車を走らせながら、ミリータちゃんが語ってくれた。

 アレリア遺跡はいつからあるのか、何の目的で建てられたのか。すべてが不明。

 未だ誰も完全に探索を終えた人はいなくて、帰らぬ人となる率80%。

 遺跡の出口まで辿り着いて息絶えた率12%。

 記憶をなくす・幼児退行・白髪・ハゲ率7%。

 満身創痍で帰ってきた率1%。

 中で何があったのか。どんなものがあるのか。すべてが不明。

 こんなことばかり起こるものだから、いつしか一級冒険者以外お断りなダンジョンになったらしい。


「正直に言うとオラは気が進まねぇな。それにマテリ、おめぇが期待するような宝があるとも限らねぇ」

「まぁそこはね。でもせっかくだからエクセイシア中を探索しておきたいでしょ」

「そうですよ! 修行に終わりはありませんっ!」


 性能的にはミリータちゃんのほうが脳筋っぽいのに、フィムちゃんのほうが性格それっぽい。

 それはともかくとして、ミリータちゃんが言うこともわからないでもない。

 でも私としてはクリア報酬で手に入るアイテムもいいけど、たまには生で手に入れるお宝の快感ってのがほしい。


「そろそろ着く。お、すでに先客がかなりいるな」

「条件きつい割には人気スポットなんだね」


 到着してみると、アレリア遺跡の前で王国騎士達が番を張っている。

 そしてその周辺には複数のテントが張っていて、たくさんの冒険者が集っていた。

 これが全部、一級?


「なんだかすごいね」

「おっかしいなぁ。ここまで盛況なはずはねぇんだけどなぁ?」

「つ、強そうな方々がたくさんいます……!」


 フィムちゃんがめっちゃ気を引き締めているけど、全員を相手にしてもあなたが勝ちますよ。

 私達が魔道車を降りて近づくと、冒険者の数人が気づいた。

 そしていかにもといった感じで、ニヤニヤしている。


「おう、お嬢ちゃん達。観光か?」

「違うけど?」

「ま、わかってるよ。冒険者だろ? 大方、あの領主の報酬目当てだろう」

「ほーしゅー!?」

「ここら一帯を治める領主のイグナフは家宝と引き換えに、この奥にある神器を持ってこいとお触れを出したんだ」


 なるほど、話が見えた。

 それで強欲どもが欲望を抑えきれずに、こんな危険地帯に群がっているわけだ。

 しかも話によると、その家宝は売れば七代先まで遊んで暮らせるほどの価値があるらしい。


「お前ら、等級は?」

「冒険者じゃないよ」

「ハッ! それならダメだ! ここは一級冒険者以外、立ち入りできないんだからな! 俺達はもちろん一級だ!」

「あ、そう」


 イキってる冒険者達を素通りして、騎士達によくわからない王印証を見せた。

 最初こそ訝しがっていた騎士だけど、それを見て青ざめる。


「お、お、おーいん……しょー……」

「これで入れますよね?」

「この王印証を偽造しようとしても、色がヘドロ色になる……だがこれは金色だ。騎士学校で本物の絵を見たことがあるが、まさか実物を拝むことになるとはな……」

「いや、ヘドロ色って」


 騎士が狼狽して、冒険者達がざわめいている。

 どういう仕組みでヘドロ色になるのかさっぱりわからないけど、どうでもいいか。

 これで晴れてアレリア遺跡に入ることができる。

 ところが冒険者達が騎士に詰め寄った。


「おい、待てよ。どういう手段か知らないが、俺は信じないぜ。騎士さんよ、あんたもおかしいと思わないか?」

「いや、あれは本物だ。現にヘドロ色ではない」

「どういう仕組みで偽物ならそうなるってんだよ。あんた、騙されてるぜ」

「いや、まぁ言われてみれば確かにそうだが……」


 納得しないでよ。

 そりゃ私だって納得してない。

 だけど、このシステムがまかり通っていたことにあなた達が疑問を持ったらお終いなんですけど。

 ずかずかとまた近づいてきて、高い背丈をもって冒険者達が私を見下ろした。激しく息が臭い。


「おい、お嬢ちゃん達よ。悪いことは言わないから、ここに入るのはやめておきな」

「そうだ。一級冒険者パーティのアイスファングと言えばわかるだろ?」

「狙った獲物はもちろん、敵対した奴はもれなく氷の爪に」


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ミッション発生!

・アイスファングを討伐する。報酬:アイスクラッシュ

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「ちぇりあぁぁッ!」

「ぐえぇッ!」

「あぎゃっ!」

「うぐぉぉーー!」


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ミッション達成! アイスクラッシュを手に入れた!

効果:氷を砕いて氷菓子を作ることができる。

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 アレリア遺跡にはもしかすると、古代の人達の遺品が眠っている可能性がある。

 そんな遺跡を荒そうとしている連中を野放しにしておくほど、私は薄情じゃない。

 欲深き冒険者達はなんとしてでもここで成敗すべきだと判断した。


「ア、アイスファングが……ウソだろ!?」

「杖を振っただけで倒された!」

「いや、スキルだろ! じゃなきゃありえねぇ!」

「パーティ単位でレベル50以上の魔物を討伐した実績もあるんだぞ!」


 騒然としてる中、私はこのアイスクラッシュをまじまじと見つめた。

 これさ、要するにかき氷機じゃん。

 いや、いいんだけどね。好きだし。

 でもこれがこの世界において、すごいアイテムになると思うと複雑な気持ちだ。

 ブラッドヘルサンダーフラッペはあるのに、かき氷はないとかさ。

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