第51話 宝以外いらないんですよ
数人の男をはべらせたお嬢様が薔薇の柄で埋め尽くされた悪趣味なパジャマを着て慌てふためいている。
私が片手に持っているのはあのお嬢様の父親と母親だ。
娘について問い詰めたらシラを切るどころか、グダグダと言い訳して罵ってきたからぶちのめした。
何の報酬の足しにもならなかったせいでイライラが止まらない。
「やっと見つけたよ」
「こ、この、平民女! わたくしを誰だと思ってるのかしら! あなた達、ボサッとしてないでやっておしまい!」
取り巻きの男達の目つきが変わって、それぞれ武器を持って襲いかかってきた。
これも何の報酬の足しにもならない。
「ちぇいやぁぁーーーーー!」
「ぐあぁぁッ!」
「うがぁッ!」
「うぎっ……!」
全部、杖で殴り倒した。
だから無報酬は黙ってて?
どれだけ無報酬どもを頼りにしていたのか、シャルンテお嬢様はまた青ざめて逃げ腰だ。
「あ……そ、そんな……」
「ようやく宝に出会えたよ」
「た、宝?」
「でも無駄が多かったからなぁ。ちょっとだけイライラしてるよ」
テホダマーとかいう魔道士は報酬になってくれたし、このシャルンテお嬢様もそうだ。
だけど無駄は嫌いです。
そもそもこんなにミッションが送り込まれ、いや。刺客が送り込まれるなら自分から出向こう、と。
宝の山だなんて思ったけどさ。
実際に来てみればミッションにすらならない警備やこのお嬢様の両親、ここまで来るのに本当にストレスだった。
「こ、こんなことして、あなた、どうなるか……ぎゃんっ!」
「知らないよ。これ以上、イライラさせないで」
杖で一発ぶっ叩くと、情けない悲鳴を上げて倒れた。
這いずって逃げようとするけど、目の前に杖を叩きつけて床を破壊すると止まる。
「こ、この、国に、いられなく、なりますの、よ……うぎゃぁッ!」
何も聞こえない。
二度目の一撃でシャルンテお嬢様はついにほとんど喋ることすらできなくなった。
「あなたの討伐ミッションはちょっと無駄が多いからね。以後、二度と邪魔しないでね?」
「は、はい……」
「もっと大きな声で」
「はいッ! もう、もう二度とあなたの邪魔はしませんわ! だから助けてッ!」
「ていやぁッ!」
「ぎゃうんっ!」
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ミッション達成! 大天使の輪を手に入れた!
効果:絶対に即死しない。悪魔系の敵と戦った時、敵のステータスを大幅に下げる。
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即死!?
RPGだとお馴染みだけど、確かに現実に降りかかると怖い。
あっちと違ってやり直しなんかできないからね。
こんな貴重なものが手に入ったし、少しはこのボンクラお嬢様も役に立った。
さて、これで終わりにするわけがない。
こんなものがのさばっていたら私も困るから、この後が重要だった。
* * *
「クリード王子。この家族なんですけど」
ズタボロになったシャルンテお嬢様と親子をクリード王子の前に突き出した。
簡単に王の間に案内してくれてよかったかな。
私が両手に両親、ミリータちゃんがシャルンテお嬢様をそれぞれ雑に持っている。
ついでに縛りあげたテホダマーも転がして見せた。
そういえばここに来る前、門番に話しかけたら一瞬で中に入れてくれたっけ。
どうもクリード王子からは私が訪ねてきたら入れるように言われていたらしい。
すごい敬語とか使ってくるし怯えている。
さて、一体何があったのかな?
「たぶん黒いことやってると思うから調べてみてほしいんです。あとこっちもですね」
「そ、そいつは魔道士……。まさか魔道士協会か?」
「はい。私に刺客を差し向けてきました。魔道士協会ってこういう依頼も引き受けるんですか?」
「いや……。我々をバックアップしてくれる者達だが……」
王の間にいるのは王様と王妃、クリード王子だ。
魔道士協会はこの国のスポンサーで、王族も頭が上がらないらしい。
それだけに今一度、テホダマーをこの人達の前で自白させた時は本当に驚いていた。
そして口を開いたのは王様だ。
「なんてことだ……。しかもあろうことか侯爵家が……。マテリといったか。話はクリードから聞いておる。こやつがそこまで熱を入れる少女と聞いて、どれほどかと思っていたが……」
「聞きしに勝る勇猛な少女です。あなた、これは決まりですね」
「そうだな……認めざるを得ん」
はい? この王様と王妃、なんて?
なんか嫌な予感しかしないんですが?
「マテリ、そなたをクリードの婚約者として認めよう」
「話とか聞いてました?」
「もちろんすぐにとは言わない。お互い、親睦を深める時間も必要だろう」
「私が認めないんですけど?」
「な、なんと! 断ると申すのか!?」
むしろなんでOKすると思った?
ファフニル国といい、この世界の王族ってこんなのばっかりなの?
「父上、母上。こちらのマテリは気高く、王子の僕とて簡単に受け入れる少女ではないのです。ですが僕の意思は変わりません」
「うむ、実際に会ってみてますます気に入った! これほど媚びず、気骨ある少女はいないだろう!」
「父上! わかっていただけましたか!」
「もちろんだ! クリードよ、決して諦めるでないぞ!」
勝手に盛り上がる王族どもに、私は杖から何か放とうかと考えてしまった。
隣でミリータちゃんは笑いを堪えているし、フィムちゃんは目を輝かせて口に出さずともわかる。
言っておくけどさすが師匠もクソもないからね。
それはそうと、なんとなく今後の指針が決まったのはよかった。
魔道士協会ねぇ?
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