第43話 平和条約、即ち報酬
「さぁマウちゃん! たんとめしあがれ!」
「ふぉ、ふぉぉぉぉ……」
いよいよ魔族の王との会談、人間サイドはシルキア女王様と大臣達となぜか私達。
魔族サイドはマウちゃんとフクロウ伯爵のみ。
気難しそうな大臣のおじさん達が終始、険しい表情だ。
席が一つ空いてるのが気になるけど、病欠かな?
それはそれとして、テーブルに並べられた豪華な料理の数々はマウちゃんを魅了するのに十分だ。
まさかいきなり餌付けするとは思わなかった。
「……女王。これはいかがなものかと」
「あなた達も皺だらけの老犬みたいな顔をしてないで食べるのですよ」
「な、なんですと! 聞き捨てなりませんな!」
「すべての相互理解は食からッ!」
シルキア女王様が謎の気迫で大臣達を黙らせた。
意外に効果があったのか、大臣達はお行儀よくナイフとフォークを使って料理に手をつけ始める。
勘違い全開のお花畑女王様だと思ってたけど、この調子で国のトップとして威厳を示しているのかもしれない。
「しかしですな。女王も王都のあの惨状を目の当たりにしているでしょう。国民にしても、魔族を受け入れるはずがありません」
「それはわかってます。ですが私にはどうしてもマウちゃんが悪い魔族とは思えないのです」
「その根拠は?」
「見てください。あの食事の仕方……たどたどしくはありますが、確実に人間のマナーを覚えようとしてます。生物の本質は食事に出ますからね」
「は、はぁ……」
不器用にナイフとフォークを扱っている姿は確かに健気だ。
フクロウ伯爵なんか手すらないからどうしようもない。
ついばむようにして食べてる。
ところで鶏肉はないよね?
「確かに受け入れられるには時間を要するでしょう。しかしドワーフやエルフと私達、人間はかつて対立していた歴史もあります。今はこうして共に食事をとっていますが、これも長い時間をかけたからこそです」
「それをここから始めようと?」
「そうです。少しずつ相互理解を深めて、いつか皆にもわかっていただくのです。それには途方もない時間を要するかもしれません」
「ううむ……」
大臣達が今一、納得できてない様子だ。
これはしょうがない。
この会談、というか会食だって実現したのが不思議なくらいだ。
今日も何人か欠席している程度でほぼ全員参加。
これはすごいことだよ。
ところで一応、私もいるから何か言わないとダメですか?
和平交渉がまとまらないと、殺戮のカードが貰えないからね。
「女王様、和平交渉も何もマウちゃんにその気がない時点で成立したようなものじゃないですか?」
「おいふぃい……おいふぃいいぃ……あふっ……あひゅう……」
「ほら、もう陥落してますよ」
「あふあふあふ……」
大臣達が押し黙る。
納得できない気持ちはわかるけどね。
何せ私の報酬がかかっている。
これ以上、もたつかれるのはストレスだ。
「あそこを見てください。前の王様が送り出した勇者たちの集まり、勇勝隊がいるんですよ。あの人達がいてもまだ不安なんですか?」
「それは……」
せっかくここにはあの勇勝隊とかいうのがいる。
この人達まで備えて安全性を主張しているのに、じれったい。
「何が我々がいる、だ」
「警備という名目でずっと立ちっぱなしなんだが……」
なんか不満らしき声が聞こえたけど気のせい。
その配置を決めたのは私じゃないからね。
「いや、やはり魔族と和平などありえん」
「今は食べ物に釣られているが、いつ本性を現すか……」
ここにきてまだ大臣達がごね始めた。
あぁ、もう。
「そ、そうだ! そうなったら誰が」
「とぅりゃあぁッ!」
「うおぉっ!」
杖を振ると大臣達がのけ反った。
風圧で少ない髪がふわりと揺れる。
「それはつまり私の聖女としての力を信用していないと?」
「いや、そうは言っておらん」
「はりゃぁぁぁッ!」
「ひぇぇっ!」
もう一度、杖を振ると大臣の一人が慌てて髪を抑える。
少し髪全体がずれてる気がした。
「マウちゃんがまた何か企むってことは私の力に屈していないということ。つまり私の力はその程度だと言ってるんですね?」
「だからそうは言って」
「ファイアボッ!」
「うわぁぁ! 待てぇ!」
杖の先から迸った炎がまた大臣達を怯えさせた。
信用してないなら、ここで信用させるしかない。
こんなことでグダグダと時間をかけて、私を殺戮のカードから遠ざける。
何かを決めるのに長々とタラタラと。
最初は同情していたけど、ここまで長引かせるなら強引に納得してもらうまでだ。
そのずれてる頭髪ごと吹っ飛ばすかもしれない。
「やっぱり信用してないんじゃないですか。それはつまり、私を聖女と認めた女王様への不信であり不敬ですよ」
「そ、そうかも、しれんな」
「そうでしょ? だからここはマウちゃんと仲良し条約を結んでとっとと終わりましょう?」
「ううぅ……」
「そもそもこんなのはシルキア女王様が独断で決めれば終わりなんですよ。わざわざこんな場まで設けたのは、あなた達をないがしろにしたくなかったからです」
大臣達が沈黙する。
まだ少し不満げな大臣がいたけど、杖を強く握りしめたら俯いて顔を逸らした。
そしてなぜか勇勝隊の人達が白い目で見ている。
何か思い当たることでもあったのかな?
「で、どうなんです?」
「異論、ない……」
「私もだ」
「あぁ、好きにしてくれ」
「シルキア女王様。大体可決したっぽいです」
シルキア女王様が微笑んで答えた。
料理を頬張っているマウちゃんも満足げに頷く。
「その、なんだ……もぐもぐ。確かに……もぐ……私に対する恐れや……もぐ……不満はあるかもしれない」
「ちゃんと食べてから喋って」
「少しずつ時間をかけて誤解を解いていくつもりだ。これらの品々を前にして尚更、敵対などできるか。こんなもの魔界では絶対にお目にかかれん。オウルークもそう思うだろう?」
「ハッ! しかしこの柔らかい肉……一体何の肉でしょうか?」
やばい、それはたぶん鶏肉だ。
黙っていよう。
「では決まりですね。これよりファフニル国はマウちゃんとの和平条約を結びます」
「うむ……もぐもぐ」
雨降って地固まる、というのかな。
これで長らく続いていた勇者と魔王問題が片付いたことになる。
別に国を救ってもミッションじゃなかったら、本当に割に合わない。
でも今回は殺戮のカードが貰えるだけマシ――
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グランドミッション達成!
ファフニル国とマウとの平和条約を結ばせた!
転移の宝珠
効果:一度でも行ったことがある場所に転移する。何度でも使える。
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「あああぁーーーあああぁぁぁ!」
「聖女様!?」
思わず叫んで立ち上がってしまった。
この手にあるのは誰もが夢見た瞬間移動のアイテム!
グランドミッションってなに!
なんで事前にミッション告知されなかったの?
「ミリータちゃん。どうも私のスキルにはまだ上があるみたいだよ。ミリータちゃん?」
「てん、い、の、ほー、じゅ……あわわわ……」
「ミリータちゃん! しっかり!」
「お、おめぇ、これ……。どれだけの奴らが、欲したと、思って……バタン」
「ミリータちゃーーーん!」
ショックが大きすぎて気絶しちゃった。
そもそも見ただけでなんでそこまでわかるのか。
謎しか深まらないけど、今は寝かせてあげるべきかな。
「あぁ、やはり聖女様は神に祝福されている……。あのお方は聖女ソアリスの生まれ変わりでしょう」
「じょ、女王! 気を確かに!」
シルキア女王様は自分の世界に行っちゃってるし、大臣達は一か所に固まって完全に怯えている。
もうカオスすぎてどうしようもないけど私はひとまず宝珠に頬ずりしてよう。
すりすりすりすりすりすりすりすーーーーりすり。
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