第39話 報酬>愛+平和+勇気+正義

「人間でありながら魔王の手下とは見下げた奴だ! 俺のスキル星槍技でぐあぁぁーーー!」

「この俺のスキル超回避なら当たらなっ……うへぇーーー!」


 火の玉を二人に放つと地面が爆破された。

 爆風で吹っ飛んだ二人めがけて火の玉をぶつけてから、左右から新しく二人が強襲してくる。

 邪魔だなぁ。邪魔邪魔邪魔。


「スーパァァーーーハリケェーーーン!」

「いいぞ、ウイン! 攻撃に竜巻を付与するお前のスキルで、あの少女は宙に舞った!」


 竜巻でちょっと目を回したところで、私は空中に投げ出されている。

 地上にはたくさんのなんとか隊が私に狙いを定めていた。


「集中砲火だッ!」

「フラムショットォ!」

「ブリザービィィーーームッ!」

「ドラゴン・ブレスッ!」


 なんかすごそうな攻撃がたくさんきてる。

 あぁもう、なんなのこの人達は。

 そこそこいいスキルを持ってる上に数も多い。

 空中で身動きが取れない私を集中砲火?


「ファファファファファファファファファファイアーーーーボォール! メテオォーーーーーーー!」

「なっ!」


 地上に向けてファイアボールを連射すると、人間もろとも爆破の渦にのみ込む。

 放ってきたスキルなんかどこかに行っちゃった。

 地面が大きく揺れてるみたいで、回避しようとした人が転倒して火の玉メテオが直撃した。

 これいいなぁ。

 地上にいる時より、多数を一掃できる。

 そして地面に着地したところで、新しく誰かが斬りかかってきた。


「つ、杖で受け止め……」

「てりゃぁあッ」

「ぐふぁッ!」


 杖でぶっ叩いて倒したと思いきや、同じ人が複数人に増えていた。


「俺の名はニトル! スキル影分身は」

「ファイアボォ! ファイアボッファイアボッファイファイファイアボッ!」

「ぴぎゃぁーーーー!」


 全部まとめて火の玉で倒したところで、残りの人達の動きがおかしい。

 一人が背中を見せて走り出した。

 続いてもう一人も完全に逃げの姿勢だ。


「む、無理だ! あれは間違いなく魔王だ!」

「魔王が直々にやってきたんだぁ!」


 ちょっと待って!

 逃げられたらミッション達成できないじゃん!

 あぁもう、あぁもう!


「逃がさない逃がさないィィーーーーー!」

「いやぁーーーーーーーーーー!」

「うげぇッ!」

「俺には故郷で待つ恋人がぎぇぴーーーーー!」


 逃げるなら最初から私の前に現れないで?

 もう残り少なくなったなんとか隊のメンバーだけど、一人だけ堂々と構えているのがいる。

 指をくいくいと動かして、かかってこいとのこと。

 ははぁ、あれが報酬の一つかな?


「勇勝隊がここまで追いつめられるとはな! だがな、魔王! 我々は一歩も引かんぞ! 私の名は」

「たぶんアルドフィン! 報酬きたぁーーーーーーーーーーーーー!」

「な、なぜ私の名前を!」


 アルドフィンらしき人物の後ろに残りのメンバーが隠れた。

 まとまってくれるならありがたい。


「魔王、貴様もこれまでだ! アルドフィン隊長の聖剣技はあらゆる属性に対して特効だからな!」

「剣で受けることも叶わん最強のスキルだ!」

「あの閃光のブライアスと互角とまで言われた隊長の……え?」


 力を溜めてから杖から一際、大きな火の玉を放った。

 ボーリングのピンみたいに並んでるんだから、これが手っ取り早いよね。

 剣を構えているアルドフィンに向けて、特大の火の玉。これが――


「ファイアァァボォォォーーーーーーーーーーーーリングッ!」

「でっっかッ!」

「うわぁーーーーーーーー!」


 地面ごと吹き飛んで、燃え盛る爆炎がピン達を包んだ。

 地面がえぐれて隕石が斜めに降った跡みたいになってる。


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ミッション達成! アンバックルを手に入れた!

効果:防御+65 攻撃されても絶対にノックバックしない。

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「怯み時間短縮でミッション達成時間も短縮即ち報酬に近づくぅぅーーーーー!」

「マテリ、やっと追いついただ……」


 私が爆走したせいで、ミリータちゃんとフィムちゃんを置いていってしまった。

 フクロウ伯爵がバッサバッサと飛んできて、元々丸い目を更に丸くしている。


「これは……なんとも……」

「ってない……」

「は?」

「まだ終わってないィーーーー――!」

「マテリ様!」


 私はまた駆け出した。

 あと一つ、ミッションが完了してない。

 つまりまだなんとか隊が全滅してないということ。

 どこ? どこに逃げたの?

 怒らないから出ておいで?


                * * *


「はぁ……はぁ……こ、ここまで逃げたら大丈夫だろ……」


 息を切らして逃げ切ってみれば、あの光景は悪夢だった。

 ついさっきの出来事なのに、とても現実とは思えない。

 我々は決して烏合の衆ではない。

 他の国ならば軍の部隊長として歓迎されて、戦闘を生業とするギルドならば幹部候補だ。

 たった一人で魔物の群れを相手にできる決戦級の戦力だと、アルドフィン隊長は仰っていたのだ。

 しかしさっきのは何だ?

 魔王があれほど驚異的な存在だったとは。

 今、思い出しても震えがきてしまう。


「俺は、俺は生きるんだ。あんな恐ろしい目にあうくらいなら勇者なんてやめてやる」


 アルドフィン隊長への恩義はあるが、世の中には命をかけてはいけないことがある。

 あの少女の姿をした魔王、あれを放置すれば大陸全土にまで魔の手を伸ばすだろう。

 奴だけは討たねばならんと思う。

 しかし、ダメなのだ。

 あの驚異的な力だけではない。

 全身から溢れる得体の知れないドス黒いオーラ、あれが人を本能から畏怖させる。

 そして何かを求めているかのような執念、そうまでして世を暗黒に染めたいのか。

 悔しいが今の私にはどうすることもできない。

 アルドフィン隊長、すまない。

 俺はこのまま故郷へ帰らせてもらう。

 実家の果樹園を手伝い、無難な嫁を貰い、そして骨を埋めるだろう。

 そう、何事も無難が一番なのだ。

 それをあの魔王に教えられた。


「フ……。我ながら弱腰になったものだ。さらばだ、同胞達よ」

「やっと見つけたっ!」

「なに?」


 振り向くと、そこにいたのは。


「勝手に逃げ出しちゃダメでしょー」

「あ、あ、あぁ……み、見逃してくれ、二度とお前には逆らわ」

「どりゃあぁッ!」

「ぐぁぁッ!」


 私は、私は逃げられなかった。

 魔王にはいかなる言葉も通じず、慈悲もない。

 そこにあるのはただひたすらな暗黒。

 誰か、誰か一日でも早くこの魔王を――。


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