第5話 横暴キング
「陛下、異世界召喚を行ったというのは本当ですか?」
陛下が王国兵団の総隊長であるこの私、ブライアスを驚かせたのはこれが初めてではない。
もちろん悪い意味で、だ。
国に仕える身ではあるが、このお方にはついていけないところが多々ある。
つい先日もスキルが弱いという理由で、小隊規模の兵士達を解雇しているのだ。
「だとしたらどうだというのだ?」
「異世界召喚は大変、危険です。人にあらざる絶大な力を持った異界の魔物を呼び出す可能性があります」
「フン、下らん。そんなものを恐れては国は作れんわ」
「スキルは確かに重要ですが、多くの者達は毒にも薬にもならないものです。そういった者達が国を支えています」
玉座に腰かけたまま、陛下はしかめっ面を崩さない。
先代はまともだと聞いているが、今のこのお方が王位についてからはずっとこの調子だという。
スキル至上主義をこじらせて異世界召喚まで行うようになった。
やはり隣国の王子のスキルを聞いて焦っているのかもしれない。
「ブライアスよ。確かに取るに足らん者達は多い。しかし世は常に一部の天才が動かしているのだ」
「その天才も手が足りなければ動けません。手足となるものが必要なのです」
「それが無才である必要はない。隣国のエクセイシアの王子のスキルを知っておろう?」
「はい、存じております」
「あれがその気になれば、我が国とて吹けば消える。ならばどうするか……二つに一つだ」
隣国のエクセイシア王国とは昔から友好関係にある。
攻めてくる可能性など万に一つもない。
このお方は単に妬ましいだけなのだ。
あの王子のスキルほどのものが、自分の娘にないことが。
これが陛下のスキル至上主義を後押ししている。
「一つは我が娘を隣国に嫁がせることだ。そうすればとりあえずの脅威は去る。しかしあの娘のスキルでは相手も気に入らんだろう」
「そ、そのようなことはないかと……」
「もう一つ。強力なスキルを持つ者を配下に加えれば、あのエクセイシアを牽制できる。場合によっては攻め滅ぼすこともな」
「なっ! それはいけません!」
「その時はそなたにも活躍してもらうぞ、ブライアス」
異世界召喚をして、その者のスキルが有用であれば戦争の道具にしていた。
恐ろしいお方だ。そうでなくても、どうなっていたか。
なにせ準備がおそろしく面倒な上にリスクが大きい異世界召喚に手を出すようなお方だ。
召喚された者が幸せになるとは思えない。
「……召喚された者はどこに?」
「魔の森へ捨てた。今頃は魔物の餌になっているだろう」
「なんということを! その者に戦いの心得はあったのですか!?」
「剣すら持てぬ小娘だ。あろうはずがない」
魔の森はスライムなどの弱い魔物も多いが、中堅の冒険者でも手間取る魔物もいる。
特にヘビーボアは生半可な鎧を砕くほどであり、こいつで命を落とした者も多い。
なかなか刃が通らないので、討伐するのであれば魔法は必須。
生身の娘が襲われてはどうしようもない。
このお方は本当になんということを。
「ス、スキルのほうはいかがでしたか?」
「クリア報酬とかいうわけのわからんスキルだ。何も起こらん」
「クリア報酬……。確かによくわかりませんが異世界の者であれば、我々とは比較にならないものであるはず……」
「異世界の者であれば凄まじいスキルなど迷信だ。私がこの目で確認した」
報酬という点だけ見れば、おそらく条件を満たせば素晴らしいものが貰える可能性がある。
それをこのお方はろくに検証もせず放り出すとは、浅慮極まりない。
いや、それ以前に右も左もわからない異世界の人間を魔の森に追放する性根だ。
今回ばかりは腹の内が煮えたぎってしょうがない。
「陛下、その者の捜索を任せてはいただけませんか?」
「ならん。あのようなカスを捜索する必要などない」
「人の命がかかってます」
「それがどうしたというのだ? 私は常に国を考えている。取るに足らんと私が判断したのだ、従え」
その国は多くの個によって生かされている。
あなたがその玉座に座っていられるのも、個のおかげだ。
なぜそんなことすらわからない。
しかし私はこの国に仕える身、ここで反旗を翻すわけにはいかない。
私にできることはやはりこれしかなかった。
「陛下、お願いします」
「ならんと言っている。これ以上、食い下がるのであればそなたには残酷な処分を下さねばなるまい」
「くっ……!」
「……しかしだな。そなたのこれまでの功績に免じて任務を与えよう」
虚を突かれた私が顔を上げた。
陛下は何を私に――
「あのカスが生きていると信じるそなたに相応しい任務だ。生きているのであれば、ただちに異世界の少女を抹殺せよ。その首をここへ持ってこい」
「は……!?」
「国内では敵なしと恐れられる閃光のブライアスならば欠伸が出る任務だろう」
「抹殺の必要などありません! どうかお考え直しくださいッ!」
この人はどこまでも!
私の功績に免じて?
これほど私を愚弄した任務がかつてあったか!
国の為ならばと邁進してきたが、これは何一つ国益にならん!
こんなことが許されてしまうのか! いくら王とて!
「どうした? もうここに用はあるまい」
「……わかり、ました」
声を絞り出して私は王の間を立ち去った。
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