第十一話 Dランク昇級祝い

 B級冒険者ジェンドの起こした誘拐未遂事件から数週間も経ち……二人は目を見張るような成長を見せていた。


「《ツイン・ループ》!」


 ――ズババッ!


 リュカの投げ放った二つの短刀が交差するような軌道で、スピアーアント――頭部に巨大な角をつけたアリの魔物の胴体を切断し、止めを刺す。


 辺りに動くものはこれで、俺たち以外にいなくなった……戦闘終了だ。


 これで大体、この付近に出現するDランク相当の魔物は全種類狩り終えたはず。

 緊張の糸を緩ませた二人の少女が、お互いに手を叩き合った。


「よーし終わりっ! おいらの勝ちなっ!」

「お疲れ様なのです……負けちゃったのです~」


 安堵とがっかりの中間の表情で肩を落とすチロル。


 最近二人は魔物の討伐数を競っているようで、賭かっているのは好きな夕食のおかずだったり、その日のおやつだったりするようだ。本人達は結構真剣で、モチベーションの維持に繋がっている内はこちらから咎めるつもりはない。


「――昇級点も溜まったし、これでやっと全員Dランクになれるな」


 昇級点が規定数に達すれば、Cランクまではそれだけで次のランクに上がることが出来る。

 Bランクからはちょっとした試験を突破する必要があるから、まだまだ先の話になるだろうが……最近は競い合うように訓練に励んでいるから、それさえ遠くないことなのかもしれない。


(あのリュカでさえ、早くに起きて素振りしたり、俺に組み手を頼んだりするんだもんな。思わず応援してやりたくなるな……)


 そんなリュカを見つつ、俺はうんうん頷く。


 今彼女の首には俺が作ったアクセサリーが輝いている。

 約束通り洞窟から持ち帰った《コボルト・アイ》を使用して作ってあげたものだ。


★★★★ユニーク 獣目のチョーカー(装飾品)》

 スロット数:2 

 基本効果:体力+30、大地耐性+10

 追加効果:【幸運+20】【暗闇耐性(中)】


 ペンダントトップに《コボルト・アイ》をあしらった、黒い皮紐製ののチョーカー……リュカはそれをすごく喜んでくれた。


『――かわいいっ! あにき、ありがとう! おいら一生の宝物にするよ!』


 少し大げさすぎる気もするけど、その時の満面の笑顔は今でも思い出せるほどだ。あれだけ喜んでくれれば職人冥利につきるというもの。


 感触を楽しむように、丸く整えたコボルト・アイの表面を撫でていたリュカは、俺達に提案した。


「おめでたい日なら、今日はみんなでお祝いしよ~!? 前みたいにミュラも誘って!」

「だな。久々にどこかでパーッと騒ぐか……」

「わぁい! わたし、また《騒がし亭》で山盛りキャロテサラダが食べたいのです!」


 チロルの言う《騒がし亭》とは、以前彼女達と出会った時にミュラと一緒に行った冒険者食堂のことだ。


 最近は大分懐にに余裕も出て来たし、本当はもっとお高いレストランに行ってもいいのだが……やっぱり、冒険者の打ち上げと言ったら酒場だろう。二人も楽しみにしているようだし、レストランはまた今度にとっておこう。


 心地よい疲労と共に俺達は冒険者ギルドへと足を進める。



 ――そして数時間後、縁の色が黄色から緑になった資格証を眺めつつ、俺達は冒険者食堂 《騒がし亭》へと向かう。もちろんミュラも一緒だ。


 俺は一度通った道だけど……初昇級の二人は嬉しくて仕方ないらしく、顔を寄せ合いながらお互いのカードを見せ合っている。


 そんな姿を見ながらミュラが彼女達にウインクした。


「テイルさんは別として、二人ともよく頑張りましたね。EランクからDランクに昇格するには平均して四カ月から半年位が相場だから……中々のスピード昇級なんですよ?」

「Cランクになれば晴れて中級冒険者の仲間入りだけど、でもそこにたどり着くまでに下手したら年単位で時間がかかるからな。そうなるまでに半分以上の冒険者が辞めちまうらしいし」


 下級冒険者は余程特殊な才能でも無ければ大きく稼ぐことはできないし、その上装備更新や消耗品などで思ったより出費が多い。そうして、憧れとのギャップに心が折れて辞めてしまう者も少なくない。


 中級冒険者になってやっと安定した生活が営めるかどうかだが、そうなると一方で依頼の攻略難易度も上がり、そこで足踏みするか、もしくは引退するのがほとんどだ。


「それを越えて上級冒険者になれるのは、一割にも満たないんだから……。ハッ、そう思うとテイルさんは結構すごかったんですね……! 元とは言えA級だったんだから」

「お前は俺を今までなんだと思っていたんだ……」

「冗談ですよぉ……だって、なんか見た目いかにも普通じゃないですか。らしくないって言うか……」

「まあ、それは自覚してるけどな……。Aになれたのも、半分以上は仲間のおかげだし」


 たまたま、始めて所属したパーティの奴らと馬が合い、そのままするっとそこまで行けたというだけの話。それはおそらく、リーダーの人柄と人物を見極める目が優れていたのだ。おっと、これは暗にメンバーとして選ばれたことを自慢しているとかじゃ無いので悪しからず。


「……エニリーゼさん達、今はどこにいるんでしたっけ?」

「さあな? この国は大体回りつくしてたし、他の国にでも行ってんじゃないかね? ま、どこでも楽しそうにやってるだろ、あの人なら」

「そうでしょうね……」


 俺達がそんな話をしながら視線を遠くすると、興味津々といった感じで二人はこちらを覗き込んで来る。


「そういえば、どうしてテイルさんは冒険者をやめてしまったのです?」

「逆だな。冒険者は元々片手間のつもりで、金が貯まるまでっていう約束で始めたから……あいつらといる間も、俺自身は財務担当と荷物持ちみたいな気分でいたし」

「またまた~。《笑者しょうしゃ》エニリーゼの懐刀……地味だけどキレると手が付けられない恐怖の男、絶対触れるな《抜身ぬきみ》のテイル、ってこんなところまで噂が上がってましたよ?」

「……いや、知らんな。別人じゃないか? こんな名前珍しくもないだろ」

「本当ですかぁ~?」


 下から覗き込むようにして笑うミュラから、俺は目線だけを背け誤魔化す。

 彼女の言葉は事実なので、何も言えないがこちらにも事情はある。


 元いたパーティーメンバー全員が自分の興味のある事柄にしか反応しない奴らだったから、面倒な交渉事などを俺が全て引き受けざるを得なかった。


 特にリーダー……Sランク並みに腕は立つ癖に笑ってばかりだから、《笑者しょうしゃ》なんて二つ名まで付いたのだ。もっと毅然としててくれと何度怒ったか分からない。


 そんなだから俺達のランクが上がり、それなりに名が売れるまでは舐められることも多く……初めて訪れた街のギルドなどでは――俺が子供扱いされて罵倒される→キレて争いになった後に楽し気に他のメンバーが参戦して乱闘騒ぎになる――なんてことが通過儀礼の様に行われていた。


 あちこちでそんな騒ぎを起こしていたら、こんな所まで噂が届くのも自業自得といえるのだが、まさか数年経った今でもそんなことを覚えている人間がいたのは誤算だった。


 そして左右に纏わりつくリュカ達もなにやら納得したような生暖か~いでこちらを見ている。


「……何だよ?」

「大丈夫だよ~、あにきが怒るのは悪い奴だけだっておいら達には分かってるもん。他の人がどういってたって気にしないよ~。ねっチロル?」

「ですです~……全然怖くないのです! あ、やっぱりちょっぴり怖い時もありますけど、そういう時は後で頭を撫でてくれるのです」

「あらぁ~、御馳走様。二人ともすっかりテイルさんに心を許して……。良かったですね、お・兄・さん♪」

「やめてくれ、吐きそうだ……」


 やはり、昔の話なんてするもんじゃないと思いつつ、意趣返しにミュラのみっともない過去でも暴露してやろう記憶を探ってみるが……彼女にそんな隙は見当たらない。


「しかし、お前もそんな昔の事よく覚えてたな?」

「それはまぁ……ちょっと気になってたと言いますか……?」

「……?」


 半眼で睨むと、なぜか彼女は少し顔を赤らめながら、髪の毛をくるくるじる。

 その変化を不思議に思った俺だったが、唐突にチロルが声を上げ、意識は通りの向こうに引き寄せられた。


「あっ……! あれ、シエンさんではないですか?」

「お……? 本当だ、お~い」


 俺がそちらへ向けて手を振ると、彼は気づいて振り返りにっこりと笑みを浮かべた。


「やぁ、お揃いで。どこかに行くところかな?」

「ええ、祝勝会っていうか……俺ら、Dランクの冒険者に昇格したんですよ。それで皆で飯でも行こうってことになって……。あ、すみません、お連れの方がいたんですね」


 彼の隣で微笑むのは、背の高い一人の男性だ。

 青い髪をした相当な美男子で、身なりを見れば何となく貴族なのだろうと言うのは察しがつく。しかも付けている装飾品はかなり高品質のもので、見栄を気にする貴族とはいえ、そうそう手に入れられない品物の気がする。伯爵だとか、もしかしたらもっと上の家柄の人間なのかも知れない。


 にもかかわらず、彼は丁寧に挨拶してくれた。


「皆さん初めまして、私はレイベル・ロブルースという者だ。彼とはちょっとした知り合いで話を聞いていたところなんだよ。この街にはどうやら腕のいい細工師がいるらしくてね」

「は、はぁ……そうなんですか」


 この街でとなると細工師ギルドの誰かかとは思うが、あまり思い返したくも無いので、俺は曖昧に頷き、シエンさんに話をそらす。


「もし良かったら一緒に食事でも思ったんですが、大衆食堂なんで流石に悪いですよね……。はは、それじゃ俺達は失礼します」


 そう言って話を打ち切ろうとしたのだが、レイベルさんはなんと食いついて来てしまった。


「大衆食堂! いいね、お邪魔でなければ是非ご一緒したいがどうかな?」

「へ!? 俺達は別に構いませんけど……いいんですか?」


 皆もとくに異存はなさそうなので、シエンさんに確認を取ると、彼は苦笑して受け入れた。


「なら是非お願いするよ。彼は普段そう言った所に縁がないようだから、こうして街に出るのを楽しみにしてるんだよ。丁度話したいこともあったし、お邪魔でなければ少しご相伴に預かっていいかな?」

「ええ、もちろんです」「「は~い!」」


 ミュラと二人も笑顔で返事し……冒険者、不動産屋、貴族らしき男というまとまりのない一行は《騒がし亭》へと到着し、テーブルを囲んで乾杯をした。


 しばらく歓談が続いた後、彼はチロルの付けていた腕輪に目を付ける。


「その腕輪……良く出来ているね。良かったら少しだけ見せてもらっても構わないか?」

「テイルさん、いいですか?」

「別に俺に聞かなくてもいいよ、お前のものなんだから」

「はいっ! それじゃあ……。これ、テイルさんがモンスターの素材で作ってくれたのです」


 手首から外した腕輪を受け取ると、レイベルはそれを真剣に眺め始める。


「……いい仕事だ。材料はあり合わせだが、細かい所まで手を抜いていない……部品の形状も均一だし、仕上がりも丁寧だ。なにより、持ち主の為にという熱意が込められている」


 こちらの技術に対しての賛辞なので、素直に嬉しく思う。

 彼はそうやって隅々までそれを眺めた後、何かを感じたのか顔を上げ、俺を真っ直ぐに見た。


「テイル君……聞きたい事があるんだが、もしかして君はこの一品の製作者じゃないのか?」


 彼が懐から取り出した、黒革のケースに収まる指輪――それを見て、俺は目を見張る。


★★★★★エピック 風の行方(装飾品)》

 スロット数:3 

 基本効果:魔力+50、烈風属性耐性+20

 追加効果:【◆旅人への護り】【‐】【‐】


 特殊効果 :《◆旅人への護り》……移動中自分の周囲に小範囲の風の防護壁を

                張り巡らす。


「……それをどこで!?」


 俺が驚いたのは、それが品評会の後紛失し、俺の手元に戻らなかったからだ。

 売るつもりの無かったものだったから、あの時はずいぶん悔しい思いをした。


「とある貴族から、どうしてもと借り受けて来たんだ。……その反応を見ると、やはり君が……!」


 レイベルさんが俺の手をがしっとつかむ。


「な、なんですか急に……」

「テイル君、頼む……私のものになってくれ――!」

「はぁ!?」


 ……ざわわっ。


 周囲の視線が、間違いなくこの角のテーブルに注がれたのが分かった。

 俺は胡乱うろんな眼差しを彼に注ぎ、手を外そうとしたが……それより先に反応したのは女性陣だった。


「あにきはあげないよ!」「止めて下さい!」「だめです~っ……!」


 三人それぞれがレイベルさんと俺の間を遮るように動き、非難の視線が彼へと注ぐ。


「す、すまない……ち、違うんだ、私にそういう趣味は無い……! そう言う意味では無いんだ!」


 彼は周りを見ながら否定し、大きく咳払いすると座り直し、真剣に俺を見つめた。 


「君の技術を……力を借りたいということだ。どうだい、ロブルース公爵家に仕えてみる気は無いか?」

「ええっ!?」「ふぇ、失礼しましたのです!」

「き、貴族の方だったとは……しかも公爵様だなんて」


 再びのざわめきが拡がる。

 高位貴族であることは何となく察していたが、まさか公爵家の家柄とは……。


 青ざめて謝罪する三人を落ち着かせ、俺は一人落ち着いて茶をすすっているシエンさんに訪ねた。


「シエンさん、彼は本当に……」

「ああ、こんな所で明かすとは思わなかったが、間違いなくあの七大公爵家の一つ、ロブルース家の三男だ。嘘は言ってないよ」


 冗談で言った様子ではないし、仕官の話は本当のことのようだ。


 公爵家となれば王族に次ぐ地位を持つ家柄だ。どういった形かは知らないが、一般冒険者とは比べ物にならない待遇で迎えられることは間違いない……。


『夢みてぇな話だなぁオイ。贅沢し放題だぜ……』

『あの人誰なの? え、Dランク冒険者? そんなのがどうして……』

『バッカ、お前知らねえのか? 《猛牛》のジェンドをぶっちめて牢屋送りにしたした奴だよ……なんでも元A級だって話だ』


 事情の知らない外野達も関心を持ち、周囲に成り行きを見守る人垣ができてしまったが、それを気にせずに迷いなく俺は答えた。

 

「……ありがたいお話ですが、お断りさせてもらいます」

『……うぉぉお、あいつこの場で断っちまいやがった』

『へぇ……やるじゃない』

『もったいねえぇぇ……一生に一度有るか無いかだぜ、こんな話』


 口笛や歓声が周りから飛び交ったが、それはレイベルさんが話し始めると自然と静かになる。


「……なぜだい? 仕事料として、細工師ギルドで勤めていた頃の十倍を出そう。それも出来上がった作品の買取とは別でね。君の名も大々的に売り出し、ゆくゆくは一つの工房を任せ、広く国中に名が知れ渡る様にして見せようじゃないか。その条件でも駄目かい?」


 ざっと計算して固定給だけで月に金貨三百枚……恐らくどれだけ遊ぼうが、俺には使い切れない金額だろう。でも、そんな好条件を前にしても、俺の食指はちっとも動かなかった。


「別に、あんた個人が望むならいくらでも作りますよ。でも俺は……つまんない量産品や顔の見えない貴族の道具として使われるようなものを作りたいとはもう思えなくて……。今の俺は冒険者だから……仲間の為に色々やってる方が、絶対に楽しいんで! なっ、お前ら?」

「テイルさん……」「あ、あにき……。だよねっ!」


 誰かに強制されてやりたくもない仕事で大金を手にするより、気に入った人達が俺の作った物で喜んでくれる姿を見たい。俺はそう思い、仲間達の肩を叩く。


 それを見てレイベルさんは、体の力を抜き納得したようにうなずいた。

  

「そうか……その様子だと君に強制しても、きっと良い作品作りは望めないだろう。残念だが諦めるよ……。一つ聞かせてくれ……これも、大事な誰かの為に作った作品だったのかな?」


 彼は手元の、深い緑の石がはめられた指輪を指し、俺はその言葉を肯定する。


「あ~、そいつは楽しかった思い出を形にしたかったんですよ。前の仲間達との……波乱に満ちた冒険って言うか」

「なるほどね、そう言った様々な体験が作品に深みを与えてくれるのかも知れないな……」


 肩をすくめた俺に、なんとなく理解してくれたのかレイベルさんはそんなことを言った。その後もしばらく彼はこちらをじっと見つめていたが、やがて降参したように手を挙げる。


「そうか、色々話を聞かせてくれてありがとう。……だが君の気が変わる事があったら、いつか私達の治めるロブルース領に来てくれ。出来る限り厚遇することを約束しよう」

「……こちらこそ、ありがとうございます」


 俺は彼の差し出した手を握った。

 意外と彼の掌は分厚い……貴族だからと言って遊び惚けている人間のものではなく、戦う者の手だった。


「さて……すまないが、この街での用事は終わってしまった。僕は自分の領地に戻ることにするよ。急ぎの用事があるからね。君達の名前がどこかで聞けることをまた楽しみにしている。――皆さん、本日の支払いはロブルース公爵家に持たせて頂きましょう。食事も酒も大いに楽しんで帰って下さい!」

『『ウォォォォォオ! ありがてえ!! 公爵様バンザイ!!』』


 歓喜の声を上げ、冒険者達は我先に自分の席へと戻っていき、注文を受けた給仕が慌ただしく動き出す。


「では、僕もレイベル氏を送って来るからここで失礼しようかな。せっかくの祝勝会にお邪魔して済まなかったね。皆、おめでとう」

「ご馳走になります。……ま、そんな立派にはならないと思いますから、期待しないで下さい」


 そうして二人は店員の元で支払いの手続きを済ませた後、連れ立って出ていく。

 一介の不動産屋と公爵家貴族……妙なコンビだと思いつつ俺達はそれを眺めていた。


 しばらくして我に返ったチロル達が、両側からすがるように話しかけて来る。


「あにき……これからも一緒にいれるんだよね?」

「本当に良かったのです……?」


 俺は二人の不安を払拭するように、力強く言い切る。


「当たり前だろ。貴族お抱えなんて、性に合わないし向いてない。もっと気ままにやりたいんだよ俺は。だからほら、続きパーッと祝おうぜ! 遠慮なんて失礼だからすんなよ、何でも頼んじまえ……なにせ相手は大貴族、金なんていくらでもあるんだから」

「「何でも!?」」

 

 二人は目の色を変えて、メニューをめくりだす。


「やった! ステーキ三段重ねでもいけるかな! むぐっ……」

「お野菜も食べないと偏るのです!」

「むぐぅ~……」


 リュカがチロルにサラダを口に突っ込まれ、不満そうな咀嚼音が響く中、ミュラも遠慮なく高い酒を頼み出した。


「うわ~い、テイルさん様様ですね、私この一杯一金貨する葡萄酒ワイン頼んじゃおっと……! あんな貧乏少年だったのが大貴族のお抱えに望まれるなんて、成長しちゃって~このこのっ……」

「んな大したもんじゃないって……あんたもう酔ってんのかよ!?」

 

 俺達は財布を気にすることなく祝・昇級を改めて祝う。


 競うように遠慮なく注文を始めた冒険者達のせいで食材も酒もあっという間に底をつき……給仕が悲鳴のように品切れだと宣言した所でお開きとなったが、俺達はそれまでの時間大いに普段味わえない豪華な食事を堪能した。

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