第71話 荒野の民

◇◆◇


 『・・・トカゲが殺された。2匹共だ。1匹は恐らく剣聖によって。もう1匹は分からぬ。』


 『あの魔女ではないのか?一緒に行動している所を目撃されておる。』


 『トカゲの骸を“見た”が、魔女の技じゃなかったわぃ。もう片方は明々白々、剣聖の物じゃったわぃ。相も変わらずの力押しじゃったぞぃ。』


 『トカゲごときより、“皇竜使い”を失った事の方が大事だ。多大な犠牲の上に、やっと“皇竜使い”を失ってしまったのだ!』


 『何人じゃったかのぅ?』


 『30人だ。高度に訓練された術者が。この損害を癒すには3世代は掛かるだろう。』


 『そうか。で、彼奴には息子がおったのぅ?』


 『ああ。聖地で修行に励んでおる。優秀な息子だよ。』


 『では、彼奴の息子に子を成す権利を与えねばならんな。』


 『ああ、賛成だ。彼奴の献身は十分それに値する。』


 『儂も賛成じゃのぅ。』


 『それで、まだ我らが神の求める御子は見つからぬのか?』


 『星の書には、微かな兆しが見て取れるのじゃがのぅ。』


 『“星見ばあ”が兆しを掴んだのに、まだ現れぬとは・・』


 『未だその時ではないと言うことか。』


 『星は気まぐれじゃぞぃ』


 『『ああ』』


 『じゃが、使徒様の復活の時は近いのぅ。故に、第3の“探訪者”が既に転生しておるやも知れんなぁ。ゆめ怠るのでは無いぞぃ。見つけたら、必ず殺せ!』


 『『探訪者には死を!』』


▽▽▽


 老婆が水晶の珠から皺だらけの手を離し、体を起こした。


 「誰じゃぞぃ?」


 「おばば様!クゥンです。」


 黒髪を2つのおさげに結った幼い少女が、絨毯の扉を捲って入って来た。

 

 岩室の中は岩がそのまま剥き出しており、ただ老婆の座る絨毯のだけが豪華な物であった。


 「お婆様。今年初物の岩葡萄を持って参りました。」


 「おや!もうそんな季節じゃとはのぅ。主神様には御供えは済んだのかのぅ?」


 「はい、お婆様!とっくに!組村の者総出で御供えしましたよ。だから、お婆様も食べてちょうだいな!」


 クゥンはそう言って籠に入れて持って来た葡萄を一房取り出し、老婆の手を取って葡萄を渡した。

 老婆の両目は白く濁っていた。


 「どぅれ、一つ頂くかのぅ。

 ふ〜ん、うまい!クゥンの共同畑の岩葡萄は特別甘いのぅ!

 真面目にしっかりと育ててあるのが良く分かるわぃ。

 ほぅれ、クゥンもお食べぇ。」


 老婆は1粒葡萄を取って、クゥンに食べさせた。


 「ん––!美味しい!」


 「さっ、儂はこの一房だけで十分じゃぃ。あとは持って帰って皆でお食べぇ。」


 「ダメだよ、お婆様!もっと食べなきゃ!」


 「クゥンや、優しい子じゃのぉ。

 じゃが、良いのじゃ。儂はもういつ主神様に呼ばれても可笑しくない位に生きたのじゃ。だから過ぎたるは、“お声”を待つ身には大敵なのじゃよぅ。

 身に余る物は皆で分け合うのが主神様がお定めになったのりじゃからなぁ。

 ささっ、分かったら、早く持ってお行き。さっ!」


 「う、うん。お婆様、ありがとう!主神様に感謝を!」


 「ああ、主神様に感謝を!」



◇◇◇


 「なあ、アンタ。ふっふっ、なんで俺達に付き合ってるんだ?ふっふっ」と鉤鼻の小男。


 「ふっふっ、最近身体が鈍ってるからさ。ふっふっ、鍛え直そうかと、ふっふっ」と返した。


 「酔狂なのである。ふっふっ」とワルレン。


 「ああ、十分頭がイカれてやがる

。ふっふっ」と言ったのはディーン。


 副都カムランから王都ヴィロワリア

に続くバスティア街道をロイタール、ディーン、ワルレン達と一緒にストライカーの後ろを伴走している。


 ストライカーはエルフのエルドリンクに操縦を教えたら、大喜びで操縦を覚えたよ。半日でね。


 追々JLTVの操縦も教えるつもりだ。


 「ダイチ!そろそろココアにしようよ!」


 イースがストライカーのガンナーハッチから振り返って声をかけて来た。


 コロンも車長ハッチから振り返って笑顔を見せている。


 「仕方ないのう。嬢ちゃん達に免じて、ココアにするか。

 エルドリンク!停車だ!」


 剣聖様は相変わらず雨の日以外は、ガンナーハッチの後ろで胡座をかいているのがお気に入りだった。


 ストライカーが道端に停車すると、後部ハッチが降りて、剣聖様の従者のダルマンさんとフィンさんが降りて来た。

 コロンとイースもゴンを連れて降りてきた。


 ゴッズ騎士の2人とはカムランの街で別れた。

 エロ猫騎士のキャシャさんが、「私はダイチの群れに入るニャー!」とゴネてたが、イケメン騎士のエトワルさんにドナドナされて行ったよ。


 さらば、キャシャさん。俺の精神の安寧の為、もう二度と会いたくないものだよ。


 何せフィンさんの無言の氷の視線が・・・

 気まずくて、ストライカーの車内に一緒にいられない・・・


 「さあ、ダイチさま、ココアをどうぞ」


 カムランの街を出てから7日目。

 もう手慣れたもので、ダルマンさんとコロンが皆に手早くココアを入れてくれた。


 日中も暖かいココアが恋しい季節になった。


 ココアを飲んでいると、コロンとイースが俺にピッタリくっついて座り、一緒にココアを飲む。

 これもまたいつもの風景。


 「泥棒猫からダイチを守らなきゃだね!コロンちゃん!」


 「うん、そうだね!イースちゃん!またいつ襲われるか分からないからね!コロンたちがしっかりしなきゃだね!ふんす!!」


 「ほう、これが人間のモテ期というものか。面白い。」


 うるせー!エルフに言われたく無いわい!






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