第66話 ゴッズの騎士
◇◆◇エトワル
話は遡る・・・
ダイチ一行とカムランの街を一緒に出たエトワルとキャシャは、城門を出た所でダイチ達と別れた。
グラース砦へと向かうM1126 ストライカーICVを見送りながら、キャシャに話しかけた。
「さて、キャシャ。我等の受け持つ相手は、ここから5日の行軍距離にいるとの事だったが・・・」
「エトワル君。競争ニャ!急いで来ないと全部私に食われるニャ!」
キャシャはそう言うや否や、つむじ風を起こして走り去って行った。その速度は到底人間が出せる速度を超越しており、時速150㎞は出ていた。
「やれやれ、気の早い。1日の行軍距離はだいたい25㎞位だから、5日だとしたらあの気まぐれ猫のスピードでは1時間も経たずに会敵してしまうか。では、急ぐとしよう。」
そう言って飛び出したエトワルの速度も、キャシャに勝るとも劣らぬものであった。
◇◆◇コーウェン伯爵領
騎士団団長ブロイゲン男爵
長く伸びた行軍隊形の中央に、コーウェン伯爵領騎士団の団長であるブロイゲン男爵が愛馬に跨っていた。
「団長!ブロイゲン団長ー!」
「何事かっ!」
“星詠みの儀”で騎士としてのギフトを授かって以来40余年、馬上で剣を振るってきたブロイゲンは、微塵もその老いを感じさせる事のない覇気のある声で問いただした。
「伝令っ!前方より土煙が2筋急接近してきます!」
「ご苦労!全軍停止ー!」
ブロイゲンはコーウェン領軍4000に停止を命じた。
「副長!前軍の第2軍に陣を展開し状況に対応するように命じろ!
第1軍と3軍はその場で待機!」
副団長のコルドバンが第2軍に向けて、全速力で駒を飛ばして行った。
「第2軍には、我が騎士団最強の騎士ルーアンが居る。それに加え、西方3大傭兵団の1つである鉄鬼傭兵団も居るのだ。
ルーアンに任せておれば良い。
皆の者!今のうちに馬に水を与え休ませよ!」
ブロイゲンは、次期騎士団長と密かに目すルーアンに全幅の信頼を寄せていた。
「今回の出兵が無事に成功したら、ルーアンの奴に騎士団を任せよう。
これから大きく発展する伯爵家には、若い才能が必要だからな。
そして家督も息子に譲って、儂は田舎で静かに畑でも弄るとするか・・・」
全軍の中央に位置するブロイゲンからは、最前衛と接敵する2筋の土煙の様子は見る事ができなかった。
◇◆◇コーウェン伯爵領軍
第2軍司令 騎士ルーアン
「司令!ルーアン司令!ひ、人です!土煙を上げて接近して来るのは、人間です!物凄い速さだ!最前列と接触ぅー!」
前方の騎士が絶叫する!
「「「うわぁ––––!」」」
ルーアンは我が目を疑う光景を目の当たりにした!
ファランクス陣形を取った前衛の2箇所で、人間の爆発が起きたのだ!
爆発に巻き込まれた兵士の身体が、切断されて飛び散っている!
「二オール!鉄鬼傭兵団で前衛を支えて敵の前進を止めろ!
騎士ポーと騎士トロワは各々騎士100を連れて、左右から挟撃せよ!
後衛はもっとファランクスを密にせよー!」
一瞬で立ち直ったルーアンが、矢継ぎ早に命令を発した。
◇◆◇キャシャ
「我こそはコーウェン騎士団が騎士!マ・・・」
「うるさいニャ!」
キャシャの前で名乗りを上げて挑んだ騎士が、口上の途中で両断されてしまった。
「もっと腕の立つ男はいないニャー!」
キャシャは一瞬たりとも動きを止める事なく移動を続け、右手のカトラスで周りの敵を切り裂き、左手の鋭い鋼の楔が付いた細い鎖を投擲して敵を倒し続けている。
左手の鋭い楔は鎖の長さ5m以内で、盾も鎧も人体も馬体も全ての物を貫き、その武器が穿った跡は、まさにダイチのM2重機関銃の.50
◇◆◇エトワル
「気まぐれ猫の喰い方は相変わらず雑だな。」
エトワルはキャシャが敵陣を正に翔び廻って切り崩しているのを見ながら呟いた。
そしてキャシャが突進してバラけた敵に向かって、肉厚のブロードソードを横に一閃した。
ドン!
衝撃波を伴った銀閃が20mも飛び、その間銀閃が触れた全ての物を両断した。
「さて、取りこぼしがないように、きれいに掃除しないとな。」
エトワルの周囲の惨状とはかけ離れた平穏な表情と口調が、この男の異常性を語っていた。
◇◆◇ 鉄鬼傭兵団団長 二オール
目の前で500人を超える前衛の陣が、瞬く間に壊滅するのを見て、二オールは叫んだ。
「カイ!グッチ!ミカ!シールドで壁を作って突進しろ!奴の足を止めたら俺が狩る!」
「「「おうっ!」」」
部下の中でも特に頑丈なタンク3人がキャシャに向かって突進した。
二オールも3人に隠れるようにすぐ後ろに続く。
「ニャハハハハハ!無駄ぁ、無駄ニャァー!」
キャシャは水平に振り抜いたカトラスの斬撃で、3人のタンクの体を盾ごと2つに斬り飛ばした。
「カイ・・!」
目の前で切断された部下達の身体の隙間から飛んできた鋼の楔が、二オールの頭を吹き飛ばした!
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