手をかけて…

藤間伊織

後輩・梓

普段は入らないような少しおしゃれなカフェに呼び出された。

俺を呼び出した彼女はすでに到着していた。


「すみません、桂先輩。突然呼び出してしまって」


「大丈夫だよ。大した予定もないし」


目の前に座る穏やかそうな女性は同じサークルの後輩。

しかし彼女いない歴イコール年齢の俺に浮ついた話があるわけはない。


「実は……その。昨日から平井さんと連絡が取れなくなってしまって」


平井……というのは彼女の彼氏である。

彼女はあまり人前で平井と関わることは少ない。サークルメンバーに気を遣い、大学内では基本先輩と後輩、というスタンスをとることが多いのだ。

しかし俺と平井と彼女は三人で遊ぶくらいの仲で、彼女も俺の前では平井のことを先輩ではなく、さん付けで呼ぶ。


そんな平井との連絡がとれないというのだ。ほとんど毎晩寝落ち通話をするほどだったというのに、それでは彼女はさぞ心配だろう。


「先輩なら何か知っているんじゃないかと思って……」


というのも、俺と平井が親友だというのはよく知られた話だ。俺が平井と彼女と三人で出かけるのもそのため。普通はデートの時間にできる場面に他人を連れて行くなんてそうないと思うが、彼女も受け入れてくれて仲のいい友達同士で出かけているも同然の扱いなのだ。


「ごめんね……実は俺も平井とは連絡がつかないんだ。最近講義にも顔を出さないし……」


「そう、ですか……」


そう言って彼女は目を伏せた。彼女にそんなつもりが毛頭ないのはわかってはいるが、どうしても胸が締め付けられ、勢いのまま口を開く。


「でも、何かわかったら必ず連絡する!約束するよ!」


「あ、ありがとうございます!」


そのまま解散かと思われたが、彼女がおもむろに口を開いた。


「桂先輩。実はまだ話していないことがあるんです……。

今まで怖くて言えなかったんですけど、桂先輩に相談したのもこの話をしたかったからなんです。やっぱり人の意見が聞きたくて」

そう言いながら彼女のコーヒーカップを持つ手に力が入った。顔色も心なしか悪いように見える。


「もしつらいなら無理に話さなくてもいいよ……?」

「いえ、これは話さなくてはいけないことだったんです。もしかしたら、平井さんがいなくなったのは私のせいかもしれないから……いえ、きっと私のせいなのでしょう」


彼女は顔を上げ、話始める。



「一昨日、実は私の家に彼が来ました。と言っても会ってはいません」

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