barter 

@TetsuP27

第1話

 『この度はお集まりいただきありがとうございます。こちらは異世界連絡通路でございます。まずは私わたくしの自己紹介から。私の名はジューナ。異世界連絡通路の管理長を勤めさせていただいております。ところで、なぜここにいるのか。ここには、barter、と言われる力が存在します。それは、こちらで示した〝異世界希望の基準〟を超えていただいた方、また死んでから転生するよりは死にたくないから転移の方を希望している方にご希望通り〝転移〟を行う力のことでございます。あなた方にはこのbarterの力が反応する感情や思いがあるので今ここにいるということになります。わかりやすく言うとこれからあなた方には異世界に行っていただきます。・・・・・って、あれ?〝あなた方〟?あれ?二人同時?どうしよう。少々お待ちください。』




 (・・・・・・ねぇねぇ、どうする。二人が一緒に来たの初めてなんだけど。なんか面白そうだから、いつもと一緒じゃなくて違う方法にしてみない。例えば・・・、体は元の世界に置いておいて、魂だけ異世界に行かせて、その魂を置いておいた体に入れるの!すなわち、魂の入れ替わり!!えっ!まって!!私天才じゃない!!これよ!!これにしましょう!!あなたたちもそう思うでしょ!!うんうん!!じゃあ、適当なこと言って説得してくるからシステム調整しといて。よろしくね。)




 『・・・・・・あなた方お二人は、偶然、同タイミングで同程度の強さの思いを抱きました。そのような方々には、今ある身体からだはあなた方の世界に変わらず、その中身だけを交換、とさせていただきます。理解いただけましたか?まぁ、こういうのは習うより慣れろと言います。それでは準備ができ・・・えっ?もうできたの。そっか。一部だけだからいつもより簡単なのね。いつもこれならいいのに。あっ。んんん。失礼しました。それでは準備が整いましたので送らせていただきます。「この世の迷える生物よ。そなたの願いと希望を理解した。今、私たちの力で叶えてやろう。いざ、ゆくがいい。トランシフト!!」』






 「・・・・・・・・・。ふぅ、今日の仕事はこれでようやく一つか。この台詞いちいち言うのなんか面倒だし恥ずかしいんだけど。それにしても、あの二人は・・・・・・・・ん?んんん???私、いいこと思いついちゃったかも。」


 異世界。


 それは我々獣族のライバルの一つ、鬼族のかつて住んでいたところだ。私はそれ以上もそれ以下も知らない。だから、私も少し興味があるところだ。


 なぜなら、この星の情勢と言ったら・・・、まあ端的に言って悪い。大きく分けて四つの種族に分かれるこの〝マシオ〟の世界。魔族、鬼族と妖族そして我々獣族が大戦を繰り返し、どの種族がマシオを統一するかでもめているんだ。


 ああ、なんて愚かなんだろう。別にどこが一番とか、全国土を得るとかどうでもいい。


 私はただ平和に暮らしたいだけなんだ。


 だけど、獣族の王としては戦わないわけにもいかないし、誰かにこんなことを言っては、軍隊が崩れ初め、獣族ごと滅亡してしまう。それだけはなんとしても避けたい。・・・うう・・・・。それでも、やはり戦争は好きではない。いっそのこと逃げてしまいたい気分だ。


 だが、異世界というのはめっぽう興味がある。耳に聞く噂だと鬼族が住んでいたところは鬼族の他にあと一種しかおらず、鬼族はその種族に圧倒的数的不利で追い出された、と。つまり今の そこの情勢はその種族しかいない、したがって平和な世界ということだ。


 っく、うらやましい。できることなら、いっそのこと異世界に行ってみたい。


 あぁ・・・、




~~~~~~~~~~




 秋の近づく夏のある日。


 辺り一帯の狭い領域に一人一人が閉じ込められている。


 そして、一定の時間で立ったり座ったりを繰り返さなくてはならない。


 ましてや、それがほぼ毎日のように続く。


 あぁ、ここからどうすれば抜け出せるのか。


 このまま、ここに閉じ込められたまま、なにもせぬままに終わってしまうのか。


 祖先よ、友・・・はいないから、神よ。どうか我に新たなる道を・・・。


 ん?待てよ。肝心な選択肢を忘れていた。まだ神頼みの前に考えるべきことがある、あるではないか!!


 『異世界』


 それは少年少女の夢に出てくる俺たちの第二の故郷。異世界という名のホームタウン。


 ある人にとっては勇者になるため、ある人にとってはラブコメをするため、ある人にとってはスローライフを送るため、と今生きている全人類のほとんどが行けるものなら行きたいと心から願っている場所だ。


 『転生』


 それは異世界と共に脳裏に浮かんでくるワードの一つ。


 俺たちはその言葉を聞く度に心がぞわぞわして想像しきれないほどになる。今では日本の中高生、ましてや大学生以上の多くの世代の人から愛されているワードだ。


 転生と共についてくる一つだけのチートアイテムも欠かせない。それがなくては異世界転生と呼べないほどまである。


 それに比べて、なんだこの腐った世界は。人類同士にもかかわらず、争い、奪い、罵り、蔑み、殺し、造り、壊し、・・・何がしたいのかさっぱりわからねえ。


 少なくとも俺はこの世界が大嫌いだ。


 特に学校という名の収容所。外見や内面、コミュ力や 待遇 が優れているものしか生き残ることができない。


 大人に関したらもっとだめだ。あれは同情するレベルでひどい。金持ちか頭がいいか顔がいいかのどれかに当てはまんなかったらもう社畜決定だ。そんなかで頑張ったとしても、そいつらには遠く及ばない。この俺はそいつらと同じようなものは何一つ持っていないが、このまま社畜行きもごめんだ。


 あーあ・・・、




〝〝異世界行けないかな・・・。〟〟








 異世界連絡通路




 「ジューナ管理長。定期報告にございます。先日初の交換転移を行った方たちなのですが、双方思ったより上・手・く・い・っ・て・な・い・そうです」


「そう。そうだと思ったわ」


「管理長は予想していらしたのですか」


「まあね。なにせ、中身が一緒でも外が以前と違うものね。あなたもそうでしょ。もし、あなたが私の体に乗り移ったら?」


「そうですね。私が管理長に・・・」


「そうよ。よく考えて」


「私の体が管理長になっていたら・・・」


「そうそう」


「・・・私の・・・胸が―――っふ」


「あーーーーー!!今、鼻で笑ったああ!!この管理長をバカにしたあああ!!!」


「い、いえ、決してそういう――っくくく」


「隠そうとする笑いが一番腹が立つのよおおお!!!どうせ私はあなたと違ってまな板ですよおお!!!っていうか、なんであんたのそんなでかいのよ!!!!」


「えぇぇ、でもそれがわからないんですよね。なんか気づいたらこうなっ―――――」


「ストーーーーップ!!!!やめやめ!!それ以上っ、言わないで!!!」


「管理長???」


「そのどや顔が一番いらつくからやめっ!!!!っく、落ち着きなさい、心も体も美しいジューナ。あなたはこの世で一番可憐で―――」


「痛々しい」


「―――――う・・・うわーーーーん。ぶ、部下にいじめられたーーーーー。っうう。これから私どうすればいいの。っひっく。もう、私、やめようかな。この仕事」


「気を取り戻せ。ジューナ。お前は強い。お前はここで止まるような女じゃない。胸がどうした。胸で全てが決まるわけじゃない。だから、気を確かに持て」


「あんたが言ってもウザいだけなのよおおおおお!!!!!・・・・・って、あなたどさくさに紛れてこの私をお前呼ばわりしたわね!!!」


「ところで管理長」


「なによ。あんたよくこの状況で普通に話かけられるわね。ふん。もういいわ。あなたの罪は私の寛大な心で許してあげるわ。だから、このジューナ様に感sh――――」


「質問です」


「・・・」


「???」


「ああああ!!!!あんたって奴は!『???』じゃないわよお!!私の話を遮ってまで!!っはっはあっはあ。ふーーー。すーーー、ふーーーー。こいつ、後で殺そっ♪」


「管理長、なにかおっしゃいましたか」


「ううん。なにもないわ。それで、質問は??」


「はい。いつ頃あの方たちに伝えればいいのかと」


「そうね。まずはあの方たちが落ち着いたらじゃない。私もあの方たちの現状詳しく知りたいわ。」


「はい。では、どちらの方からにいたしましょう」


「そうね。まず、戦闘地帯に送り込まれた方にしましょう」


「はい。それでは、映し出しますので、少々お待ちください」


「ああ」


 さーて、それじゃあ、barterの選んだ奴らのお手並み拝見と行きますか。


 




 戦争地帯




 っはぁ、っすうっはぁ、っはぁ。っぐ。っは。っすうっは、っは。


 くっそ。っは。ここはなんだ。


 異世界だと思ったらなんだここ。




 〝戦争真っ只中じゃねえか!!〟




 さっきまで教室にいたのに気づいたらふわふわしたとこに移動してて、瞬きしたら紅くれないの空の下でドッカンドッカンやってんだぞ!!訳わかんねええ!!


 うっぐ。っがっは。


 い、いてー。なんだ。めちゃくそいてーぞ。矢が体に刺さってるくらいだ。だが、なんかまだ我慢できる。体の芯がなんか熱い。


 こうなったのも全部あいつのせいだ。あのジューラだかジューマだかよくわからん女のせいだ!!俺はこんな危ない世界望んでなかったんだけど!!!俺の放課後まっすぐ帰る瞬発力と判断力がなければ今頃俺も死んでいたぞ!!この世の女はみんなクズなのか!?  


 っが、いてぇ。っはあっはっ、っすうっはっは。ここまでくれば、大丈夫だな。


 そんなことより、この体めっちゃいてーけどめっちゃ早く走れんだけど。体見てみると血だらけなのに・・ってええええええええええ!!!!!!!!!!!!何この脂肪の塊!!!!目を下に向けるとでっかい物体が自分の身から飛び出てんだけど!!この体、まさかの女!?!?女子ってこんな感じなんだな・・・・・・。・・・・え、ええ、ええっ、と、これ、触っちゃってもいいのかな。俺、このまま生きてたらこんなもの触らずに死んでいくだろうから。っな。ちょっと・・・・くらい・・・・。――――っあ、あぁーーん。凄い。すごいすごいすごい!!!何これ癖になりそう。だめだ、だめだだめだ。止まらない。やめられねーぞコレ!


「れ、レオネ様!?そんな、そんな、ふざけている場合ではございません!?今すぐ撤退を!!」


 ん?


「ま、まさか・・・。レオネ様、とうとうあの必殺技を出すのですか!?」


 んん???っど、どゆこと??


「このマシオの世界を治めているものでしか使うことができないあの大技を!?!?」


 ま、まさか、味方の方??っというか、「様」??


「王しか使えない超技を!?!?」


 えっ、なになに。俺まさかエライ人なの?!


 っていうか、必殺技ってなんですかあああああ??????


「ご自身の一部分に力を込めることで発動すると言われるレオネ様のオリジナルスキルを!?!?」


っていうか目の前にいる人(?)なんか耳生えてんだけど!?それに猫耳!!まってまって、わからん!!!――――モミ。モミモミ。


 必殺技??!!なにそれ。どうすればいいの?なになに??


「レオネ様。レオネ様の力を込める部分は〝胸〟というわけですね」


 多分、ちがうぞ・・。うん。ちがうぞ。―――モミモミ。やばい、とまんねえ。


「す、すごい。獣力。これほどのものをまだ温存していたとは・・・。まさか、伝説のブレストバーストをこんな間近で見ることができるとは。・・・感激しました。レオネ様。ご自身のタイミングでやっちゃってください!!」


 えっ。圧がスゴい。なんだっけ、ブレストバーストだっけ?


 もうよくわからないから、いっそのことなりきってやろう。どうせ俺、なんかエライ地位だから。何しても許されるだろ。


 初めて誰かの上に立ったぞ!!カースト上位者ってこんな気持ちなんだな!!!!


 俺のしたいようにしていいんだな!!


 モミモミモミモミモミモミ。きもちいいいい!!!


 急に自分の体の内から沸々と力が込み上がってく・・。


 これは準備ができた合図だな。よっしゃ、やってやるぜ。


 魔法なんて諦めてたけど、この俺もとうとう使うときが来たんだな。


 この世界では俺の好きなようにやってやる。俺の望んだ通りに動いてやるぞ!!




 「コレが終わったら隠居しまあああアアアアアす!!!!!ブレストバーストおおおお!!!!」








異世界連絡通路




 私はジューナ。こっちは相棒のぴかty――っじゃなくて、部下の・・・


「ところであなたお名前は?」


「今、そこですか?はぁ、あなたという人は」


 私は部下にため息つかれる上司、ジューナ。


「私の名前はありません。どうぞ影武者とお呼びください。」


 私は部下にオブラートに死んでくれと言われる女、ジューナ。


「そう、じゃあ影武者にちなんでカゲムーにしましょう。それでカゲムー。あいつはバカなの?」


 私たちは今さっきまで一つのホログラム的なものを見ていた。その内容と言ったら、まぁ言えたものじゃない。気持ちが悪くなる代わりにもう爆笑してしまった。


「ジューナ様。バカではバカの方に失礼です。彼は大馬鹿者です。」


 私の隣にいる人(?)は部下のカゲムー。名付け親はこの私。


 この子は毒舌でいつも私をいじめる。悪気は・・・、ありまくりだと思う。


「それもそうね。もし私があいつだったら―――」


「初めて見た自分の巨乳に驚きあいつ以上に揉みしだいてていたでしょう」


「・・・うう、うわあああああん!!!またいじめたああああ!!!!!」


 私の胸はあのレオネって呼ばれる巨女に勝負にならないくらいに負けている。加えてこの隣人も顔が埋まるほどの大きさだ。


「やっていいと思ってんの!?!?ねえ、私が許すと思ってんの!?!?」


「失礼いたしました。私アフレコが得意なもので、機嫌を損ねたのでしたら。謝罪します」


 カゲムーの技はこれだけではない。カゲムーの得意技はこの軽いジョブと――――


「だからそのドヤ顔やめてええええええ!!!!これは立派ないじめよ!!私が嫌がってんだからいじめよ!!」


 この、うざったるいどや顔のコンボだ。


「ところで、先輩」


 私の渾身の怒りをスルーしたあげく、とうとう先輩の呼ばわりだ。この次は・・・、同僚?部下?


「ん?どど、どどうした!?カ、カカゲーム」


「カゲームじゃなくてカゲムーです。先輩がつけたんですから覚えておいてください。もう片方も見てみますか」


 ん?そうか。あと一人いたなぁ。


「もう片方ってことは、男の若い方に転移したほうってことか。そうだな、あっちもあっちで面白そうだ」


「まったく、面白がってやってんのはどうかと思いますが。まぁ、見てみましょうか」


 カゲムーはまた別世界を映し出した。






 学校




「おい、鈴木。九十三ページの三行目だぞ。早く読め」


 ・・・・・・・・・????


 ここ、は、ど、こだ?


 なんだ、ここは。目の前が明るい。


 いや、今ここの状況は。敵はどこだ。コイラはどこだ。


「何をしている。早くしろ」


なんだ。周りの奴らが私の方を見ている。こいつらはなんだ敵なのか、それにしては殺気を感じない。なんだここは。私は今どこにいるのだ。いくら考えても答えが出てこない。


「せ、先生。鈴木君体調が悪いみたいです。俺保健室連れてきますね」


 と、急に隣の奴が私の方に寄ってきた。


「っく、武器は何か」


 相手に目を向けながら手探りで武器を探した。が、


「なっ、なにも、何もないだと!?こうなったら・・」


 逃げるしかなくなった私は空いているスペースの方に走り抜けた。


 ここの場所、状況、何もかもが意味不明で混乱状態になっている私は、とにかくこの場所から離れることしか策がなかった。


「おい!」


 後ろからまたあいつの声が聞こえた。私は、このまま逃げ続けてもこちらの方が不利なのはあからさまだ。なぜだか、なかなか上手く走ることもできなかったに加えて、殺気も感じられなかったから・・・。


「なんだ。お前もそこで止まれ。用件を聞いてやろう」


 振り返りながらそう私が言うと、目の前の・・・見たこともない種族の奴がなにか隙を見せるような顔をして言った。


「お前なんかいつもと違くね?何?なんかあったの?」


 こいつは私の油断、隙を狙っているのだろうと思い、即座に臨戦態勢をとった。


「お前の名前はなんだ!!それがタイマンの掟のようなものだろう」


 私は強く言い放ちあちらの気を窺ってみる。


「なっ・・。やっぱおかしいぜ。俺の名前だっけ?俺は六合光煌くにみつきだよ」


 あちらが名乗ったのなら、こちらも名乗りを上げるのが対等だ。


「そうか、私の名はレオネ。マシオの世界で獣族の王として名を馳せているものだ」


「ん?リンス?なに?レモン?にゃーぞくのみゃお?」


 ばかなのか?


 こいつは何がしたいのだ。


「なぁ、大丈夫か柊。おかしくなっちまったのか」


「私の名はレオネだと言っているだろう!!そうか、そこまで余裕なのか。ここは魔法の力でやるしかないな」


 魔法。私はそこまで得意としていないが使えないわけではない。武器もない今必殺技も使えない。


「え?なに??まほう?お前廚二?魔法なんてこの世にねえぞ」


 そこまで余裕の応対をしてくるか。私のできる限度の魔法を使うしかない。コレで終わりだ!


「後から謝ってきても遅いからな!!はあぁぁぁああ・・・・・ファイスト・セイヤーああああああ!!!」


 ――――終わった。


 これで耐えれた奴は同士の王の幹部以上のものくらいだ・・・・んな?!?!


「何!?何も発動しないだと!?」


 目の前にいる奴と同様に動揺し、動揺でも聞きたい気分になった。


 自分でも面白くないと思っていながらも口ずさんでしまうくらいな精神状態だ。これは。これはかなりだ。


 魔法が発動されるはずの胸のあたりを確認し・・・・


「・・・え、、えええ!!!え!?えええ!?私のおお!?私の胸があああ!?私の愛しいおっぱいがあああ!!!!」


 いざ、見てみると私の胸は見事に・・・。見事なことに、すとーーーーんだった。


 ホントに男・みたいだ。




~~~




 ・・・・・・・・・・・・。


「shっ、柊!こっちだ」


 俺は急いでこいつの手を取りここから離れようとした。こんな廊下の真ん中で爆弾発言以上の核兵器発言。柊がそんなことを言ったから周りにあった全ての教室のドアが開き、なんだなんだと生徒や先生までもが覗いてきた。


「貴様!?奇襲とはいい度胸だ!」


 まだおかしいこと言ってやがる。しょうがねえなああああ!!!


「何をする!んな!?やめろ!!正々堂々と戦えええ!!!」


 俺はこいつの手を取り自慢の俊足で階段の付近までダッシュした。そして、そのついでにこいつをトイレに連れてった。




~~~




 目の前の奴は私の手を取って・・・って、私の手があああああ!!!!!


 私の手はもっと毛むくじゃらだったはずだ!いや、そうだった。そして、もっと大きく爪もバカみたいにでかかったはず・・なのに。


「なんだこれは。もう、何もわからない。くっそ」


 こいつに手を引かれて抵抗しようとしても体に力が入らない。


 そして、私はこいつに連れられて変なとこに入っていった。


 っこ。ここは?


 っと思った瞬間、


「なっっ・・・・・・・。」


 私は、呼吸をすることを忘れていた。


 それもそのはずだ。


 〝今まで戦闘していた獣族の女王がいつの間に違う種族の男になっていたのだから!?〟


「ん?大丈夫か?なんかついてたか?」


 っ??


「んだよ。顔洗わせればいいと思ったけど、鏡見せるだけで正気にもだったようだな」


 私は・・・、わからなかった。全てが・・・何もかもが・・・この世のことが理解不能わからなかった。


「な、なぁ。私は、、私は私だよ」


 必死の頭を働かせたらこれしか出なかった。


「そう、だな。お前はお前だな、って違あああう!!」


 私は誰だ。こいつは誰だ。


「どうしたんだよお前!!何があった!」


 何があった?そんなの私が聞きたい。


 だって、私は私なのに、私が見ている景色は私が見ているのに、目の前の鏡にいるのは私ではない知らない種族の奴だった。それに隣の種族と同じだ。


なんだ?なにがどうなっている?


「わ、私は――」


「そこお!!まず、『私』ってなんだ」


「知らない。知らない知らない、何もわからないんだ」


 っと、私がそこまで言うと、目の前にいた奴がッハっとした顔をしてつぶやいた。


「これは記憶喪失というやつか。これを助けたらまた俺の地位が確立されんじゃね。っくくく」


 こいつ、敵じゃないのはわかっているから安心してたけど・・・、隣にはいたくないな。


「お前はどこまで覚えているんだ」


「どこまで、か。そうだな。私は戦争をしていた。相手は魔族だったな。あいつらは私たちにとっては難敵だ。そこで私たちは勝ち目が薄くなってきたところで少しずつ撤退を始めた。その瞬間私の意識はとんだ。その後は―――あ。・・・ああああああ!!!思い出したあああああ!!!」


 隣の変種は口がまん丸と開いたままで動かないが気にしない。


「そうだ。そうだ。じゅーな(?)みたいなあの性別不明の野郎のせいだあああ!!!」


 納得がいった。ここが知らない世界なのも、魔法が発動しないのも、この体がいつもと違うのも、全てが・・・、全てが一つにつながった。


 そう。私は〝入れ替わり〟というやつをしている。


 これは前例にないことだと思う。獣伝記には載っていなかった。これはめっぽいすごい・・・、ちっ、違う。私のすべきことはそんなことではない!


 私の頭の中は未だに戦争中であろう仲間たちの生存や、種族存続のことだけだ。元々この体にいた奴がうまくやっていればいいが、一刻も早く帰らなければならない。


 本気じゃなかったんだ。ここに来ることは冗談半分で祈ってみただけなんだ。


 私はそんなことを悶々(もんもん)と考えた後、隣の奴を揺さぶり意識を取り戻させた。そして、今まであったことを説明した。


 その結果・・・、


「・・・・・・。・・・・・・・。・・・・ん?・・・・ん、うん。ごめん。もっかい。」


 まあ、普通そうなる。




~~~




「お、お前、誰?」


「ん?私か、だからレオネだ。」


 最初は俺の方がおかしいのではないかと思った。


 昨日まで、いや、十五分前まで普通だった奴が急に戦争やら入れ替わりやらじゅんまやらよくわからないことをペラペラと当たり前のように言ってくる。


 そんなこと今までに見たことも聞いたことも体験したこともなかったから、壊れたのは俺の方だと思った。むしろ、ホントにそうなのかもしれない。


 今もよくわかっていないこの現状。俺の方がわかんない。


 なんで転移なんて起こんだよ。なんだよ、入れ替わりってよ。柊の方は何処いったんだよ。


 チラリと後ろを振り返り柊の体を見る。


 うん、体はやっぱ柊のまんまなんだよなあ。んでも・・・


「な、なあ。お前、ほんとに柊じゃねえの?」


「私はレオネだと言っているだろう!」


 と、何回目かもわからない回答をもらった。


 もう、俺は深く考えんのをやめた。考えても理解できないから、直感でいくことにした。


 何か聞き出さないとと思い、当たり前の所から探っていかないと何もわからないと判断した俺は・・・


「んで、レオネさんとやらよお。あんたの胸はもともとどんくらいだったんだあ」


「なっ!?なんてことを聴くんだ!?私は〝淑女の王〟という二つ名も持っているのだぞ!?」


「そんなやつにはみえないけどねえ」


「おのれええええ!!!」


 レオネがいきなり殴りかかろうとしてきたが、外見は柊のままなので力が弱すぎて簡単に弾き返せる。


「はっはっは。中身が王様でも外見が違えば弱っちいものですねええ」


「おまえええ!!あっちの世界へ連れてってしばいてやるからな!」


 と柊が可愛く拗ねた。


 こいつがやっても何も萌えないしむしろ気持ちが悪い。


「おい、レオネ。俺からの忠告だ」


 このままでは、この世界のみんなに柊の中身がホントは女だったといとも簡単にばれてしまう。


 俺もまだ全然頭が理解しきれていないが、なんかそうなったらレオネも面倒なことに巻き込まれそうなので、ある程度の決まりは作っておくべきだと思った。


「一つ:俺から離れてはいけない


 二つ:一人称は〝俺〟とする


 三つ:不要な発言はしない


 四つ:自分が本当はレオネだと誰にも話してはいけない


 五つ:基本的に俺(光煌)の言うことを聴く


 だ。これは絶対条件だ。いいな」


レオネは目を輝かせながらうなずき、納得した様子だった。


「感謝する。光煌。お前をまだ完全に信用はしてないが、これからよろしく頼む」


 そんな素直に言われて嬉しくない奴はいない、っが、なんか引っかかる点がある・・・ような・・・・・、あっ、そういえば、


「なあ、あっちの世界は大丈夫なのか?お前も腐っても王なんだろ」


「私は腐ってないが・・・、まあ、そこは置いておいて、あっちの世界だっけ。う、うん。そりゃあな、最初はめっちゃ不安だったよ。私がいなくても戦争に勝てるのか。ちゃんと成り立つのか。んだけど、大丈夫だ」


「どうして?」


「だって、あっちには私の最も信頼している部下が四人いる。それに、柊だってあんたの戦友なんだろ。それならなんか安心してきたんだよ」


 レオネは悲しそうにだけど悔しそうに言った。俺にできるのはなんだろうか。今はこういうのしか思いつかない。


「んだけど、大丈夫かなあ?・・・だって、あいつ暇があると女子の胸の大きさと弾力について語ってる奴だからなああ・・・」


「――――――このやろおおおおお!!!!」


 






 異世界連絡通路




 見終わった。そして確信した。この二人むっちゃ面白いと。これはいい研究資料となることを私は断言できる。だが一つ疑問が残る。


「ねえ、カゲムー。なんか、こっちの方が情報量多いのなんで?」


 そう、なんでか知らないがレオネの方が圧倒的に情報としては多かったのだ。


「それは私にも分かりかねます。そうですね・・・・。」


 考えている素振りを見せるカゲムー。だが、私は見逃さなかった。彼女が一瞬気味が悪い笑みを浮かべたのを。


「ううん。やはり私ごときが解ける問題ではなさそうです。なぜ、映像にこれだけの〝時間の差〟が生まれたのでしょう。」


 時間の差かあ。わからないなあ。さっぱりだ。だがこの瞬間、私は一つ決めた。


「あっはっはああ!!やっぱ、あんたごときには解けないでしょうねえ!ええ、あなたごときにはね!きゃっきゃっきゃ!」


 ああ、気持ちがいい。


 煽ると言うことがここまで気持ちいいのは久しぶりに気づいた気がする。


 と、私がいい気持ちになった途端に


「わ、私、ジューナ様はそんなことしない人だと思ってました!」


 目の前の憎たらしい後輩が急にいじけだした。


 突然なんだと思った瞬間一つの考えが私の頭をよぎった。


 カゲムーがだまそうとしていることだ。


 私はだまされないと強く思いカゲムーに立ち向かった。


 あんなの絶対演技に決まってる。あのカゲムーのことだ。泣きまねして私をはめるつもりだ。


 だって、そうじゃなきゃさっきの不敵な笑みの説明がつかない。


「おい、演技したって無駄だぞ。お前の考えは分かっているんだ。そんなベタな演技はやめろ。顔に出てるぞ」 


「そっ、そうですか。ああ、昔のジューナ様はもっと部下思いだったのに・・・。なぜこんなひどく叱るようになってしまったのでしょ―――」


「あんたのせいだよおお!!!」


 誰のせいだと!?


 んなの、あんたの一択じゃねえか!


「ジューナ様。そんなバカのことをやっている場合ではございません」


「バカとはなんだ!?っというか、さっきまでのと切り替えが早いなお前は!」


「はっ、お褒めにあずかり光栄でございます」


「ほめてなああああい!!!」


 こいつの情緒マジで壊れてるとしか言い様がない。


 私の体にはもう疲れの前兆が襲ってきた。


「それで、あの問いのことですが」


「あぁ、そうだった。」


 そうだった。なぜレオネの方が話が長かったのか。


 っていうか、


「そんなの、どうでもよくなってきたわ。」


 まず、どっちの話が長いとかただの偶然と言い切っても別に何も問題のないことだと思っている。


 それより今はカゲムーとの会話に疲れちまった。


 ちょっと、もう横になりたい気分だ。


「ええええ!!!!さっき、散々私をからかったあげく、問題を放棄するのですか!?案外ジューナ様も頭が悪いんですねえええええ。まあ、私には関係のないことですけど」


「なっ・・・、もっかい言ってみなさい。」


「だああかあらあ・・・だっせええ!!」


「買ってやらあその喧嘩あああ!!!」


「それならそれで問題の答えを導き出してみましょうよ。まっ、先輩には分からないと思いますけどねえ」


「んだとおお!?勝負だ勝負!どっちがありそうな答えを出すか競争よ!!」


「いいですよ。よーいドン。―――――はいわかりましたあ」


 なっ。こいつ、いくら何でも早すぎる。


 まっ、まさか・・・、


「私最初から分かってたんですけどねえ。」


 ・・・・・・・・・。


 完敗だ。私は何も勝てなかった。今の全てカゲムーの手のひらの上だったってことだ。


「ジューナ様はもっと修行が必要なようですね。」


「きいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」


 カゲムーは相変わらず頭にくる言動とどや顔をしてくるものだ。


 神様。


 教えてください。




 〝どうすればこの子のようなおっぱいが手に入りますか???〟


 


 っと、そんなバカなことは夜にやらないと。今は気になる問題のことを考えないと・・・


「それで、その答えはなんなのよ。早く教えなさいよ」


「諦めが早いですね」


 いちいち癪に障る。彼女はいつかぶん殴ってやろう


「いずれ分かりますよ。そのときまで教えません」


「なんなのよ・・・。まあいいわ」


 いずれ分かるのならばそこまで考えなくてもいいか、と考え直した。


「ところで、あのミッションのことですが」


「そうね。そんなこともあったわね。ミッションか。そうだなあ」


 やるならばやはり面白くするべきだと考えた私は今はまだ伝えないことにした。


「今の段階で伝えてしまってはつまらないわね。もう少し後でもいいかもしれないわ」


「承知しました。それではこれで退室いたします」


「ええ、ご苦労様」


 私がそう言うと、カゲムーは頭を下げ、申し分のない作法で部屋を出ていった。


「・・・、あの子って黙ってれば良い子なのよね。顔もスタイルも作法もなにも言えない。ホントに腹立つ部下よ。加えて性格がオワッテるからもっと腹が立つのよね」


 私は率直なカゲムーへの思いをつげながら、管理長室で回るイスをぐるぐるさせながら別の考え事をしていた。


「ミッションミッションって言ってるけど、私、まだ決めてないんだよねえ。どうしよっかなあ。っていうかミッションって何?いや、毎回barterの力で後から勝手についてくるものだけどあんなのいつもは頭脳専門の部下にお願いしてやってもらってんだけど、あいつここやめちゃったから今回から私がやんないといけないんだよなあ。ああ、めんど。あいつらの生活もうちょっと見てから決めよ。あと、私の考えた〝いいこと〟もいつ実行しようかしら」






 マシオ


 


 目の前に広がる暗い雰囲気。


 どこまでも高い天井。


 窓から入り込む赤い光。


 何も聞こえない無音の空間。


 周囲に広がる緊張感。


 さて、問題だ。俺はどこにいる。


 答えは・・・・


「レオネ様。全幹部そろいました」


「ありがとう」


 周囲には四人の獣耳っ娘けもみみっこ。体格や服装はバラバラだ。だが、皆俺に片足をつき頭を下げているのは一緒。


 俺は戦争からコイラに従って帰ってきてから、よく分からなかったことがだんだんとひもとけた感じだ。


 まず一つ、俺は女王である、レオネにと言う奴の中に入り込んでしまったこと。


 二つ、目の前にいる四人の獣耳っ娘は全員幹部ということ。


 だが、これしか分かっていない。


「さて、一つ報告がある」


 そう俺が言うと、今以上に周囲がピリついた。




「俺は、レオネ様じゃない」




「「「「・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・??」」」」


 四人は頭を下げながらも頭の上に疑問符があるのが分かる。


「まずみんな、頭を上げてくれ。俺はそういうのは得意じゃないんだ」


「「「「・・・・っは」」」」


 そう四人が言うと、それぞれの顔が明らかになった。そのうち一人は戦いの場にいた奴だった。


「もう一回言うぞ」


 俺もまだ全然分かってないから、こいつらも多分まだ分かってないと思った俺はもう一度言った。


「俺はレオネ様なんかではない」


「「「「????」」」」


 やはりな。そうなることははじめからわかっていた。


だが、そろってはてな状態になっている中、一人が口を開いた。


「レオネ様。申し訳ございません。私の頭脳では理解することができません。失礼なことを申し上げますが、今一度ご説明をお聴きしたく存じ上げます」


「わかった」


 説明はした方がいいと思い、俺が誰なのか、何が起こったのか、なぜ起こったのかを詳しく説明した。


 高校でカースト底辺だからって、コミュ力がないわけではない。したくなくてしなかっただけだからな。


 だが、人の上に立つのは初めてだから、どう話せばいいのかがわからない。


 そんなことを頭の片隅で考えつつ、一通り説明を終えると


「なぁるほど。つまり、あなた様ぁは、外はぁレオネ様ぁですがぁ、中身は柊様というわけですかぁ?」


 やはりこの国の幹部。理解力はみんな高いらしい。他の四人も納得のいった顔つきをしている。


「ああ、うん。んん。そうだ。だから、ここで俺から二つ提案がある」


「なんでございましょう」


 どうしよっ。なんかむずかゆい。


 人の前に立って偉そうにやったことなんて一度もない人間にとって荷が重い。


「なんでございましょう。」


 四人の中で一番落ち着きを感じ取れる幹部が発言した。


「一つ、俺への敬語はやめにすること」


「にゃっ・・・」「それはぁ・・・、それはぁできません」「中身がレオネ様でなくても、忠誠心は変わりません」「レオネ様に対してご無礼は許されぬ行為です。」


 四人は一斉に俺の提案を断った。


 こっちがその圧に押されそうだ。


 っていうか、女を目の前で頭下げさせてる時点でもう俺の感情なんてよく分からんが・・・。


 いくらなんでもこのレオネに対する部下の配属心がえぐい。


「なんでも俺は、向こうの世界では身分が底辺ほどだった。それが急にトップになると気が狂っちまう」


 目の前の幹部の一人が少しばかり考えていた。


 何を考えているかは大体想像がつくが、どうかと俺はその願いが通るかを願うばかりだ。


 そして、その幹部は再び強く言った。


「っは。承知しました」


「にゃっ!?」「アリ!?」「どうすんのよ」


 一人の幹部以外は、俺にため口で話すことは反対らしい。


 当然のことだ。今まで目上だった人に対して、それも王に対して今日からため口でと言われたら反対するだろう。だが、この幹部らは違った。


「あなたたち。レオネ様のお言葉ですよ。」


 と一人の幹部が言うと、他の三人に電気が走ったように姿勢が良くなり、我を取り戻したような様子になった。


「「「「我ら一同、全力でお力になります」」」」


 なんか急に空気が変わった。辺り一帯が重々しくなった。


 幹部たちも一層ピリついた雰囲気だ。


「まあ、それはおいおい片づけていくことにしよう」


 急にヤレと言われても無理な話だからな。


 俺もまだこの雰囲気に慣れていない。


 それにしても、凄いと思う。いくら王の頼みだからって、王にため口でという願いをこんなにもすんなり受け入れてくれるとは・・・、なにか秘密があるのだろうか。


「二つ目だ。俺はレオネ様ではない。そして、もともとこの地にいたわけでもない。だからこの世界について詳しく教えてほしい。このレオネのことに関しても」


 当然だ。まだこっちに来て一日も経ってない気がする。


「っは。承知いたしました。まずこの世界についてにしましょう。この世界はマシオと呼ばれ、鬼族、妖族、魔族、そして我々獣族の大きく分けて四つの種族に分断されます。その王たちはマシオの四王と呼ばれています。種族はそのほかにも多々ありますが、その他の種族は全て主な四つの種族に取り込まれています。そして、今戦っていたのが魔族。主に魔法を使った戦法で遠距離でも戦えることで未だに力が増してきています」


「次に鬼族。鬼族はかつて違う世界にいたそうです。その世界を追い出されてきて、この世界ではダントツで頭が悪いです。確立した言語はなく、暮らしも野蛮です。ですが、その圧倒的な力と勢い、そして鬼族しか使いこなすことのできない武器を使ってこの世界の四分の一を得ました」


「続いて、妖族です。この種族はぁとっても賢いんです。鬼族の正反対ですね。まぁ法や接近戦はぁできますがぁ他の種族にはぁ劣りますぅ。それをカバぁするほどの頭脳戦をするのです。とても戦いにくい相手ですぅ」


「そして、最後に我々獣族ですにゃ。我々は魔法が不得意ですにゃ。使えるのはレオネ様直轄の部下だけですにゃ。しかし、我々は他には劣らない武器があるにゃ。それが、剣と盾にゃ。接近戦ではどこにも負けたことがない我々は、レオネ様のお力もあってここまで来れたにゃ。」


 ・・・・・。


 うん。わかんねえ。さっぱりだ。今のを「なるほど。」ってなる奴は天才だよ。種族が四つあり戦争中だということだけは把握した。


 そして追加に分かったことが一つだけある。


 


「・・・にゃ。だと・・。」




 あのゲームの世界アニメの世界でいつかは実際に聴いてみたい台詞トップファイブには入っているであろう「~にゃ。」


 妹キャラでメイド服などのコスプレを着てこの台詞を言うのもアリ。


それが逆にお姉ちゃんのツンデレキャラでもギャップ萌えが半端ないこの台詞。


 俺の世界ではこれがあるかないかで全く違うレビューを手に入れるゲーム界。


 この言い方で、ネットで一波乱が起きた重大語句。


 俺も実際聴いたことがない。いや、ある人はほんの一握りであろう。あの二次の世界で触れてみただけである。


 おっ、そ、それを・・・、こんな、こんな目の前で・・・。


 しかも、し・か・も、目の前には本物の猫耳のようなものがついた本物が言っているのだ!!


 夢ではないのかと、目を疑ってしまう。 


「おい、キーリ。御前さまの前で『にゃ』はなんとかならんのか」


「レオネ様からもお許しを受けているのにゃ。無理矢理やめたら、能力が落ちるって前も言ったにゃ」


「そうなのか。レオネ様がおっしゃるのなら異論はないが」


 そうか、にゃっ娘はキーリというのか。


 最初に覚えておこう。


「あ、あの、レオネ様。一通りご説明いたしました」


「・・・・・。っっは。ん?あっ、あああ。わかった。ありがとう」


「最後に私どもの紹介とレオネ様のご確認をいたします」


「ああ、よろしく頼む」


 そして四人の幹部の自己紹介が始まった。


「まず私からいたします。私の名はアリンギネス。皆からはアリと呼ばれています。仕事としては〝国の政治〟例えば、行政や立法をとりまとめております。そして、この獣族幹部の長であります。」


 なんか落ち着いていると思ったら、アリンギネスが一番偉い立場だからか。


「次は私。私の名はコイラです。財政を取り立てております。加えて、戦争時のレオネ様の補佐をしております。他の幹部は大戦以外は戦わず、私だけ戦場に行っております。他人からは、よくうるさいと言われています。」


 確かにうるさい、と納得してしまうくらいテンションが高い。


「続いて私ですぅ。私の名はマラぁドラス。戦術・軍備など、戦争のことで実戦以外のことをとりまとめる役割を受け持っておりまぁす」


 この、マラドラスという幹部は時々語尾の母音が伸びるらしい。


 そんな人(?)って現実にもいたんだ。いや、そもそもここが現実なのかが怪しい。


「次は私にゃ。私はキーリシャンと申すにゃ。レオネ様からキーリと呼ばれてるにゃ。国の司法や警備の代表として働いているにゃ。語尾に『にゃ』がつくのは、生まれつきにゃ。どうかご理解いただきたいにゃ」


 そして、キーリ。彼女が警察の代表と聞いて不安しか残らないが、元のレオネ様が決めたことだからな。


「最後にレオネ様です。レオネ様は獣族の王です。」


 アリがレオネの説明を始めた。


「通称、キングオブビーストと呼ばれております。かつて、獣族は他の三つの種族よりもとても弱くかつてはマシオの三王と言われておりました。獣族たちの暮らしはとても豊かとは呼べず、ギリギリの生活を強いられていました。しかし、レオネ様が王のについてから急激に変わりました。戦争をすれば圧勝し、街のくらしもあっという間に豊かになり、食料に困ることもなくなりました。そして、いつしか、レオネ様はマシオの四王と呼ばれるほどにまでなりました」


「我々獣族にとっては、英雄であり、女神でもあるお方です」


 ここまでレオネという者がそこまで凄いとは思わなかった。予想以上に功績があったことに驚いている。


 しかし、俺の中はある疑問が残る。


「レオネのことはわかった。だが、率直な疑問なんだが、俺はレオネじゃない。そんな俺をレオネ様と呼べるのか?俺がもし悪い奴だったらどうすんだ。そんな簡単に信じていいものなのか?」


 そう俺が言うと四人はクスクスと笑い出した。


 そんな変なこと言った覚えないが、笑いはすぐにおさまった。


 その後、四人は、キリッとした様子になりコイラが真面目な様子で言った。


「レオネ様の前で大変失礼いたしました。レオネ様は大変偉大で永遠にマシオの世界中で語り継がれていくでしょう。そのようなお方がどんな風になられようとレオネ様はレオネ様です。全てをレオネ様に捧げると獣族一同が誓った今、レオネ様が今までとは違った手段をとられようと我々は何も言うことはできないのです」


 おいおい、なんだよその絶対王政は。いくらウィンウィンの関係だからってそれはねえだろ。


 レオネって奴はホントにスゲえ奴なんだな。


 私事を挟まずに・・・、なあ


「なあ、なんで幹部はみんな女性なんだ?」


 今思ってみると、目の前はみんな女の人(?)ばかりだ。男の方がこういう職につきやすそうだけどなあ。


「それは・・・」


「レオネ様は・・、昔から男性が苦手な者でして、しかも、特に同族の男性が・・・。」


・・・・・・・。


 私事情ありまくりでしたあああああ!!



~~~~~


異世界連絡通路


 ここから先を見てもきっとくだらない話合いが続くだけだろうと思ったジューナはチャンネルを変えた。


 そして新たに映し出された世界を興味深そうにのぞいた。


 それと同時にこれから起こるであろうことに対する準備を始めた。






地球




 私が新たなる地に降り立ってからいくつ夜を過ごしたか覚えていない。なにせここは私にとって何もかもが新しい物だからだ。何回目かわからないがここへはほぼ毎日来ている。来る意味はわからないが。


「ちょっといいか光煌」


 教室の隅っこで考え事をしながら外を眺めていたレオネならぬ柊はちょうど隣にいた光煌に話しかけた。


「ん?どうした?」


「わたっ、んん。俺っていつあっちの世界に帰れるのかわかるか」


 レオネにとってそれは重要で一番の心配事だろう。だが


「そんなの俺が知ってるわけねえだろ」


 光煌に軽く横に流されてしまった。


「んでもこっちに来た理由というか流れというのはわかってんのか」


 レオネは当時の記憶をたどっているのか少し上を向いて数秒間黙った。そして口を開いた。


「これは、確かではないのだが・・」


「覚えてんのか!?」


「なんとなくなんだが、わたっ、俺と柊の異世界に行きたいという強い思いが同時に反応して、みたいなことを言われた気がするのだ」


 一語一語丁寧に思い出すレオネの話を聞いた光煌はここである提案を突きつけた。


「じゃあさ。またその〝思い〟ってのを持てばいいんじゃないのか」


 レオネの中で稲妻が響いた。


 そしてその通りだと思った。


 同時にというのは難しいかも知れないが常にその思いを絶やさなければ、可能性はあるかも知れない。


「まあ、あっちの柊がどう思ってるかわかんねえけどな」


「ありがとう!」


 柊が何かを言っていた気がしたがレオネは瞬時に教室を飛び出し屋上に向かった。


 光煌は何が起こったのかわからない様子で廊下の方を見つめていた。




 レオネはその後三日にかけて空に向かって願い続けた。






 異世界連絡通路




「久しぶりだな、二人とも。どうだったかな望んだ生活は」


 ジューナはまぶしい光と共に現れた二つの影に話しかけた。


「ここは?」「どこだ?」と息ピッタリで答える少年と獣人。


「今はわからないかも知れないが、お前たちは元の世界に帰りたいという〝思い〟が相互に強いために元の体に戻ることとなったのだ。こうなったのも私のアイディアと努力のおかげだからな」


 ジューナは腰に手を当てながら偉そうにそう語った。二人は自分の置かれた状況を把握しようとするので頭がいっぱいな様子だ。


「でもその努力、大体私がやったんですけどね」


「いらんことを言うなカゲムー」


「いいじゃないですか本当のことだし」


「うるさいぞ後輩クン」


 いらん茶番を見せられたレオネと柊は話を理解したらしいが、不安そうな表情で同時に質問した。


「「つまり、いつでも異世界と元の世界を行き来できるということか?」」


「ええ、その通りよ。ただ、そう何度もやらないでよ。こっちも大変なんだし」


 その答えを聞いた瞬間二人の表情が明るくなったのは言うまでもないだろう。


「それと、君たちに言うべきことがある」


 ジューナは今までの抜けている顔をやめ、気持ちの入った表情で言った。


「あなたたちにはそれぞれミッションを与えます。レオネさんには学校でカーストトップに、衆参には天下統一をすることです」


「「・・??」」


 ジューナは一度話すのをやめ二人の顔をうかがった。ジューナは二人が内容に頭が追い付いていなさそうだとわかったが話をつづけた。


「だが、別に一人じゃなくていい。この入れ替わりは二人の思いがあれば何度でもできるのだ」


「・・い、いつまでだ。いつまでに終わらせる」


「さすが王様、呑み込みが早いねぇ。期間はこの一年。一年過ぎて、片方でもミッションがクリアできていなかったら二人ともここで働いてもらうよ」


「ジューナ様・・」


「黙ってカゲムー。言いたいことはわかるけど今は抑えて」


「わ、わかりましたよ」


 カゲムーはいつも見せないジューナの真剣なまなざしにしり込みしてしまった。


 ジューナの話を十分理解した二人は心を決めてカゲムーに合図をした。


 その後二人は元の世界に送られた。


 二人を見送ったカゲムーは先ほどの話をつづけた。


「なんで変な私情を突っ込んだんですか。別にミッションなんてこっちが面白おかしくつくったただのおまけじゃないですか」


「別にいいじゃない。そっちの方が本気でやって面白いしここでの人手も増えるかもしれない。一石二鳥じゃない」


「はぁ。呆れ疲れましたよ」


「それ、いつもの私よ」


「それで、この後どうするんですか」


「別にあとはこの二人の成長を見守るだけよ」


「なんでそう上からなんですか」


 二人のほのぼのした会話の裏では再び戦争と平和の生活が始まった。




 そしてその二日後、また通路が騒がしくなった。


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