『シーマ』~親しい他人になって本性をさらけ出しませんか~

富士町ペンシル

1話 ”親しい他人”になれるアプリ

序章



『会いたい。何処に居るの?』


『************』

居場所をチャットに送ろうとしても、文字化けしてしまう。



『やっぱりAIに検知されてしまうのね』


『警告:個人情報を特定するワードを検知いたしました。只今より、指定検閲対象になります』


『これじゃぁ、今までよりもお互いの個人情報を送れない……』


どうしても彼女に個人情報を伝えられない。

会いたいのに絶対にその望みは叶わない。



”親しい他人”になれる謳い文句通り、『シーマ』は絶対に個人情報をお互いに伝えられない。



でも、もう知ってしまった。

チャットの向こう側にいる彼女に___


会いたい。

触れたい。

知りたい。



個人特定にあたる情報はAIによって検知され、お互いに送信することが出来ない。

それに、指定検閲対象になったことにより今までよりも情報統制が厳しくなってしまった。


最悪の場合は『シーマ』のアカウントを永久凍結させられ、今よりも連絡を取れなくなる。

しかも、『シーマ』のアカウントを作るのには顔認証と指紋認証が必要なため、サブ垢を作ることは不可能だ。


『シーマ』を知る前の自分は、こんな状況になるなんて想像できただろうか?






こんな気持ちになるなら、最初から知らなければ良かった。





************************************




1話:”親しい他人”になれるアプリ





「人はそれぞれ何か役割がある」と中学の担任は言った。


そんなのは絵空事だ。



しかし、高校の担任は「頑張らなくいくて良い。生きてるだけで十分なんだ」と言う。


その言葉に共感し、少しだけ救われた気がする。


ただ、その言葉には「無理しない程度に頑張れ。そしたら人生は楽になる」と続きがあった。


29歳の独身女性らしく無い考え方だなと思った。

一体、どんな人生を歩めばそのような思考になるのだろうか。


何故、こんなことを考えているのか言うとーーー



僕は今、『ハーフニート』だからだ。




「青斗、そろそろ時間よ」

母は部屋に居る僕に学校へ行く時間になったことを知らせる。


今、ニートなのに学校へ行ってるじゃんと思う人がいるだろう。

だが、僕は『ニート』ではなく『ハーフニート』だから問題ない。


『ハーフニート』とは社会的地位が失われない程度に活動する人のことを指す。

つまり、将来のために学校には行くが必要最低限しか他人と接しない。


社会には出ているが、他人と壁を作り自分の中に引き篭もるのが『ハーフニート』だ。


まぁ、僕が勝手に提唱しているだけだが……。


男性や女性に関わらず、『ハーフ=美形』でモデルという偏見がある。


ならば、『ハーフニート』はどうだろう。

先ほど述べたハーフのように、プラスのイメージだろうか。


いや、同じハーフでも天と地の差がある。



それが僕の社会的立ち位置である。





学校に着くと誰にも声を掛けられないまま席に着く。

窓際の後ろから3番目の席だ。

真後ろの男子2人と斜め後ろの女子2人はイケてるグループなので、朝から甲高い声で賑わっている。

耳を塞いでも、空気がすり抜けているので遮断できない。


高校2年生になってからの一番の悩みの種だ。


「ほら、席につけ。朝のホームルームを始める」

独身の三十路手前の教師が来たことで、ようやく静かな教室になった。

動物園じゃないんだから、普段から大人しくして欲しいものだ。


だが、今日の僕はクラスメイトに神経を煩わされても問題ない。

なぜなら、『CMA:シーマ』Cloud Matching Application(略)というアプリをダウンロードしたからだ。

クラスでは誰とも接することの無いボッチだが、『シーマ』により誰かとコミュニケーションを取ることが出来る。


『シーマ』とは匿名で誰かとチャットが出来るアプリだ。

プロフィール欄は誰でも閲覧することが可能で、気に入った相手にメッセージを送れる。

そして、個人情報を特定できるメッセージはAIが検知して送れない仕組みになっているので安心だ。



(えーと、まずは同じアニメが好きなこの人にメッセージを送ってみよう)

魔法少女が世界を救うアニメが趣味とプロフィールに記載されていたのでメッセージを送ってみた。

アイコンとアカウント名は魔法少女の主人公ではなく、ラスボスの「ララル」だった。



すると、ものの数秒でメッセージが返ってきた。


『メッセありがとう! 同じアニメが好きな人と繋がれたうれしい!!』

顔も知らない相手だが、返信が来ただけですごい嬉しいものなんだな。


『初めてアプリを使ったので、マナーとか分からないですがお願いします』


『すごく緊張しているじゃん(笑) 早速だけど、何のキャラ推し??』


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その後も先生にバレないようにメッセージのやり取りを繰り返した。

気が付けば、放課後になっていた。

ふと、意識をスマホから外すと嫌でも斜め後ろに居るリア充女子の会話が聞こえてくる。

今日は気分が良いまま学校から出られると思ったが、相変わらず嫌な気分になる。

特にリア充グループの女子相手だと、中学の忘れたい記憶が出てきてしまう。


「ねぇ、今日のあこはずっとニヤニヤしていたけど、どうしたの?」

「んーとね。ちょっといいことあったんだよね」

「なに、彼氏?」

「いや、いねーし(笑)」





でも、『シーマ』でメッセージをやり取りに集中すれば、自然と声が気にならない。

そして、帰宅する頃にはお互いに砕けた文章でやり取りをするまで進展していた。



誰かとコミュニケーションを取るのはとても懐かしかった。

中学までは普通に友達も居たのに、どうしてこうなったんだろう。

いや、理由はハッキリしている。










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