7話
国家の海軍を預かると言う、
それは全て、リーダーであるクズの意向で諾否が決まる。
一同の視線が集中する中、クズは――。
「――すっげぇ嫌な予感がする。メッチャ断るわ」
良く聞きもせず、心底面倒臭そうに拒絶した。
片側の口角をヒクつかせるその顔は、まるで嫌いな食べ物を押しつけられた子供のようにも見える。
「ちょっクズ団長!? 幕府のお奉行様って言ったら、
「チチちゃん。僕らには奉行って言う役職の凄さが良く分からないんだよ」
「んっと……。あれです、ヘイムス王国で言うなら大臣とか政務官とか、そんな感じかな、かな!?」
「そ、それは凄い。正に国家の重鎮」
「ん。それなら、なんでそんな重鎮さんがこの出島って場所にいるの?」
「ふむ。アナント王の忘れ形見――お嬢さんの言う通りだな。それ程の人間、国家の中枢……この大八洲にあるかは知らんが、城で指示を振るうものだ。……とは言え、先程の役人の態度から偽物とも思えぬ。厄介だな……」
著しく関わりたがらないクズの代わりに、一同が勝山荘と言う人物の品定めをする。
そんな風向きの悪い様子に、それでも勝は笑いながら言葉を繋いでいく。
「この大八洲はな、八百万の神々――あんたらで言う精霊か? そんな存在が暮らす国なんだ」
その言葉には、クズも多少なり興味を示した。
成る程、先程自分に語りかけてきたロリは――何処かにある精霊界から分けた、精霊の分体じゃない。
伝説でしかない――精霊の本体。
所謂、別格の存在だった訳だ、と。
(どういう訳か精霊との親和性が高い俺に語りかけて来た、と。だからこそ――面倒だ)
もう半ばクズは理解している。
この国で神と呼ばれる存在。
そして幕府――政治権力の重鎮が声をかけて来たのは、並々ならぬ理由があるだろう、と。
(そんなもん……自分たちの力じゃどうしようもねぇ事態になってるのが請け合いじゃねぇか! さっきの国を変えられるかも知れねぇって不穏当な発言にしろ、割に合わねぇリスク依頼のスメルがぷんぷんするぜ!)
深入りして抜け出せなくなる前に、ヒョヒョイッと勝と言う名の男の前から姿を消したい!
エロだけ確保して、ササッと大陸に戻りたい!
そんな感情から、クズの顔が自然と苦々しくなるのもやむを得ないのだ。
「この国――大八洲の真の主は、太陽の神様だ。征夷大将軍である豊川家は本来、神様の代理でこの国を治めてるに過ぎねぇんだよ。神様の御力と繋がる2つの神器を使わせてもらってな」
(ああ、はいはい。神話と政治を混ぜ込んで治政を安定させる手法ね。良くある良くある、特に王権神授パターンか、超面倒……)
政教一致の統治文化は大陸にも伝わる。
現在、大陸では特段強い勢力を持つ宗教は無いが……。
仮にも公爵家の出身であるクズは、その厄介な面も良く理解していた。
王権神授とは――神様が王家に統治を任せると言った。だから民は王家に逆らうと言う事は、神に逆らうと同義であると言う主張だ。所謂、神の代理人の自称。
でも――国民は神様に『本当にこの人に代理人を任せたんですか?』とは問えない。
だからこそ、失政や悪政が続くと民衆はこう考えるわけだ。
(あの王家は神の代理人だと嘘を吐いている! 我らが神を利用し愚弄した偽物だ!……もう考えるだけで、そんな面倒事の中に信者でもない俺は突っ込みたくない!)
「――所が、だ。どう~にも最近、幕府は様子がおかしい。元々は一カ所にあった神器を祀るお社――そいつを西都と東都に分けちまったんだ。それからだよ。おいらたちでも分かるぐらい、将軍様――征夷大将軍は横暴になり、各地の治安が悪くなった。……もうな、幕府では大八洲の国々は抑えられねぇんだ。先の長門藩征伐でも、動きが悪かった。これは将軍家の威光が落ちてる証だ」
顎に手を当て、首を捻る。
ちょっと今夜のご飯何しようかなぐらいの軽さで話しているように聞こえるのに、内容はもの凄く重いから不思議だ。
この男から話を聞く人間は、不思議な話術や雰囲気に飲まれないようにと気を払い続けなければならない。
「……それに、な。おいらはお役柄、将軍様と御目見得する機会があるんだがな? 日に日に、悪しきヤベェもんが強くなってるのを感じるぜ。さっき、クズさんの妹――エロさんと言ったか? あの子に付いてた靄を何十杯にも濃密にしたもんをな」
成る程、と。
クズも思い至る。
(この国で神と崇められてる精霊にも、そりゃ悪の心を持つ精霊が一体や二体いてもおかしくねぇよな。要は、その精霊をなんとかサラマンダーやウンディーネの力を借りてお仕置きするなりするか、或いはエロ自身を捕らえてゆっくり汚染を解けば良い)
そう考えれば、後は――エロをどう探すか。
その間、団員をどう喰わせ、どう活動していくかが問題だ。
手当たり次第、簡単そうな揉め事は無いかと探す訳にも行かないし、国の政治権力の中枢がそんな状態では、アウグストの持つ親書を渡しに赴くのも難しい。
いや、仮に本土を渡ることを認められたとしても――おかしくなった王に斬られる可能性だって有り得る。
それなら、どうすれば安全にエロを確保出来るか――。
「――クラウスさん。あんたにとっても悪い話じゃねぇ。報酬を聞いてから、答えは聞かせてくれ」
半ば意識を勝から切っていたクズに、勝は問いかける。
これまでの飄々とした雰囲気から一転。
それは――これまでの印象の分、より重く真剣味を帯びて見える表情だ。
「おいらが傭兵団に求める要件は、大八洲国家の政の中心を豊川幕府から奪うこと。そんで用意出来る報酬は……この国での生活活動支援、そして神器に告ぐほどの宝。更に――エロディア・ヴィンセントって子が、何処に居てどうして居たか。その情報と、奪還の協力だ」
重々しく的確に……クズが求めてやまない情報と、大八洲内での協力者と言うエサをぶら下げて来た――。
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