13話
「――うっしゃ! 今後こそ、ボコボコにしてやれッ!」
「敵は弱っている! 今が攻めどきだッ!」
地を揺らして暴れるドラゴンの背から降り、クズとアウグストも兵士と共に攻撃に加わる。
背中合わせにドラゴンの攻撃を避けては剣を振るう二人は――踊っているように映る。
「アウグスト様、なんと頼もしいお姿か!」
「義兄様が……あんなに誰かに背中を預けて強敵に挑むなんて」
「クズ君は信頼できるパートナーと、ダンスを踊っているようだね」
「地の飛沫が舞うダンスっ! 昂ぶりますね、それっ!」
口伝で聞いたアウグストの、戦場における雄姿。
ともに歩んできた者たちとしては、信じられないクズの勇猛な戦闘。
それはまるで――物語に出てくる英雄達のように勇壮であった。
とても姑息者や、クズと自称する者達とは思えない。
このままドラゴンさえも狩れて仕舞うのではないかと思った時――残ったドラゴンの左目がカッと開いた。
「――顎が開いて、喉が膨らんでいます!」
「みんな……ブレス攻撃がくるっ。逃げて!」
藻掻き苦しむドラゴンにトドメをさそうと一心不乱になる余り、抜け落ちていた。
ドラゴンには、ブレス攻撃を持っているということを――。
(やべぇ、全員で近寄り過ぎたッ! 待避なんて間に合わねぇぞッ!?)
慌ててドラゴンに背を向け距離を取る一同だが――逃げることなどできないほど目の前にドラゴンはいる。
「――くぞがッ! 錬成……ッ! 間に合えぇえええッ!」
逃げ切れないと判断したクズは、慌てて五百人以上が入る半球状の石壁を築く。
(何とか、全員中に入れられるか!? だが、外が見えねぇ上に耐久性は……ッ!)
坑道で石壁を易々と破ったドラゴンの姿を考えれば、自分の築いた石壁では頼りない。
「――シルフィっ! 風を起こして、ブレスを逸らして……ッ」
アナも支援してくれるが、精霊の姿は一瞬顕れただけで消えてしまう。
それでもアナの周囲にいたクララや、マタの周りには――。
(風のシールド?――どこまで効くか分かんねぇが、無いよりは良い!)
竜巻のように風が舞っていた。
そしてアナたちを心配しながら見ていると――。
「くぉ……! くっそがぁあああああああああああッ!」
石の外からドラゴンがブレスを放ったのだろう。
クズの作った防壁を衝撃が壊していく。
(いや、この感覚……炎の熱だけじゃねぇ!?)
「毒息も混じったブレスか! 畜生がぁああああああッ!」
慌てて口と鼻を腕で塞ぐ。
熱で溶けたり、ほんの少し隙間が空いた部分を修復していくが――地を伝って魔力が伝わる頃には――既に毒性の息吹も入り込んでいる。
「――終わったか……ッ。錬成、解除」
壁を伝ってくる衝撃が無くなったのを確認して、クズが錬成を解く。
眼前のドラゴンはブレスで息が切れたのか、地鳴りのように音をさせ大きな呼吸を繰り返していた。
チラッと後方を確認すると――。
「何人やられた!?」
「ほとんど! アナ義姉様とクララ、私以外は毒を受けて動けない!」
「シルフィの効果範囲が狭くて……ごめん」
五百以上もいた兵は、ほぼ無力化されたらしい。
無事なのは魔力を間近で供給しながら錬金術を使っていたクズ。
そして風の大精霊の力をほんの一部でも使えたアナと周囲の二人だけ。
(ほぼ全滅か……。それなら――)
「――俺が足止めしている間に三人で兵に薬を飲ませろッ! マタ、お前が作った薬の在庫が山程あったよな!?」
「ある。でもドラゴンを警戒しながら、たった三人でこの数に飲ませるのは……」
「トカゲは気にすんなッ!」
まだ辛そうに息を整えているドラゴンに向かって駆け――二刀を繰り出す。
ドラゴンは煩わしそうに剣を避け――ぐるんと身体を回転させ、丸太のように太い尻尾を鞭のように振るう。
クズは地に滑り込み、鼻がすれる程にギリギリの距離で回避する。
「この通り! 幸い、俺は錬金術のお陰で無事だッ!」
「義兄様、でも……魔力が」
鋭い指摘をしてきたマタに背を向け――
「――いいから、早く薬を飲ませて撤退しろッ!」
「でも……一人じゃ」
「――それでは、老骨も加わろう」
「アウグストのじじい! あんたも無事――……」
隣で聞こえた頼もしい男の声に、クズは声を一瞬だけ弾ませるが――。
「――おい、なんだよその肌の色は……目も、黄色いじゃねぇか」
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