2話
「……やはり、クラウス殿じゃありませんか」
「違うってことにしてくれ、お願いします! 靴を舐めろって言うなら喜んで輝くまで舐めるけど当然見逃してくれるんだろうなぁ!?」
「義兄様、混乱しすぎて情緒不安定になってる」
「クズ君、何をそんなに怖れてるんだい?」
「クラウス。確かにヘイムス王国は昔、ずっと耐えて待ち続けたのに、援軍が間に合わなかった。それでクラウスは苦労したし、アナントも滅亡した。でも、そこまで嫌がるのは……おかしいね?」
「クズ団長殿! その反応、何かあるとみたよ!? そのアウグストさんって人が怖いのだな!?」
苦笑しながら成り行きを見護っていた幹部三人。そして新入りのチチが『いい加減にあきらめろ』、『なんでそんなに嫌がるの?』といった顔で問いかける。
グッと苦しそうに俯くクズの代わりに、近衛騎士が――。
「アウグスト殿は――幼少の頃よりクラウス殿を鍛え、導かれた師匠であります」
「え……クラウスの師匠?」
「それなら、久しぶりの再開は美しいものになるはずだろうに」
「師匠! ぼくの父親がそうだったけど、武の道の師匠って怖いからね!」
「義兄様……ビビってる?」
軽く言う四人の言葉でクズは跳ねるように立ち上がり、両手を広げながら――。
「――お前らはあのクソ爺の恐ろしさを知らねぇからそんな事を言えるんだよ! あんなのとまた会うぐらいならサイクロブスの群れとハグした方がマシだッ!」
「そ、そこまで嫌なのかい?」
「……逆に気になってきた」
「すっごい強そうだね! ぼくにも稽古をつけて欲しいのですよぉっ!」
「……クラウス、ヘイムス王国から帰ってきたらすっごく強くなってた。その人、恩人じゃないのかな?」
何やら皆がヘイムス王国へ行くことに賛成という潮流に傾いてきた。
「恩人? 怨人……ッ」
顔を苦痛に歪めたクズは――。
「――こんな危険な場所になど居られるか! 俺は一人で逃げさせてもらう」
足早に馬を休ませている場へと向かい――。
「なお、逃走を試みた場合にはアウグスト殿が直々にお迎えにあがる算段となっております。『どこまででも、例え帝都までだろうと……追いかける。今後は偽名など通じなくなると思え』とも仰ってましたね」
――近衛騎士の言葉で、膝から地に崩れ落ちた。
「ちぃっくしょぉおおおおおおおおおおッ! 最近、碌なことがねぇええええええええッ!」
顔を覆い自分の人生を嘆くクズの肩に、近衛騎士がポンと手を乗せた。
「人生、そういう時もあります。――では、出発しましょうか。クラウス・ヴィンセント殿?」
その夜、馬に乗ることを徹底的に拒んだクズは荷馬車に乗せられた。
周囲には近衛騎士が囲み、逃げ場もない。
光のない目をしたクズは、オーク肉やわずかな野菜に囲まれ「俺が何したって言うんだ」、「生き残る為には……」、「そうだ、時間が止まればいいんだ」などとぶつぶつ呟いている。
一緒に荷馬車へ乗ったアナは心配そうに見つめ、手を握っている。
無情にも、時の流れというのは人の思いなどでは止まらない。
一行は翌日の昼前には、王都へと入ることになった――。
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