3話
「――うわぁ……大きいしすごい賑わいだね。クラ……ギルバート?」
「まだ公の場でギルバートって呼ぶのになれねぇのか。仮にも三大国の一つ、その王都だからな」
「城壁、すっごい大きかった」
「美しく清潔な街並み。立ち並ぶ商店に賑わう人々……そして遠くから聞こえる歓声。僕のためにあるような都市だ」
「すっごいよ、クズ団長! あっちから闘志を感じるのです……ッ!」
「お気に召しましたか? 王との面会予定は夕方となっております。それまで僭越ながら、私が皆様をご案内するよう仰せつかっております」
王城を中心に広がる清潔で大きな建物が広がるヘイムス王国の王都。
美しい街並みに傭兵団一同が視線をキョロキョロと彷徨わせていると――。
「この人数では、行動に制限が出てしまいますね。ご案内しますので、いくつかのグループに別れて頂きます。私はギルバート殿たちは私といきましょう」
微笑みながら近衛騎士団の代表がクズを中心とした五人の案内役を名乗りでる。
それに対し、クズは笑顔で――。
「――結構だ」
「「「「え?」」」」
クズの傍に着いている傭兵団四名がキョトンとした声をあげた。
「怪しいんだよ。コイツは。わざわざうちの傭兵団をいくつかに分けやがったしな。それにコイツ、俺がヘイムス王国に土地勘があるって知ってたじゃねぇか。わざわざ案内するって言い出すのは、おかしくねぇか?」
笑顔を一転、訝しげな表情に変えたクズが近衛騎士を睨む。
困ったような表情をした近衛騎士は――。
「申しわけありませんが、それが王の指示なのです。……我らが王は血の繋がりを何よりも重んじ、信用されているのをご存じですよね?」
「……ヘイムス王国の国是、『血は水よりも濃い』って奴か」
「その通りです。私にも、王家との縁があります。十分な身分確認が取れていない傭兵の方がこの王都で私共から離れると……」
「……王国兵が押し寄せるってことか。ありそうな話だ」
「しかし、大勢で移動しては往来の迷惑となり、はぐれやすくもなります。そこで人数を分けさせていただいたのみです」
「はん。……筋は通ってるが、あんたの言う通りの場所に行くのは嫌だね」
一応、近衛騎士の言っている言葉にクズは納得した。
極端な思想を持つヘイムス王国の現国王ならやりそうだと。
だが、クズは隙を見て逃げる術を探っている。
近衛騎士に監視されていたら、動きにくくて仕方ない。
なおも抵抗する姿勢を見せるクズに、近衛騎士が耳打ちして囁く。
男の耳打ちなんて気持ち悪いと身を捩ってよけようとするクズだが――。
「――隠し地下道を通って、素敵な場所へとご案内します。VIPは……昼からでもプロからの特別なサービスを受けられる、上流階級限定の場です」
「――それは本当か? 嘘じゃねぇよな?」
近衛騎士の肩をガッと掴んで、他の団員には聞こえないよう小声で交渉を始めた。
「ええ、勿論。ただ、さすがに出入り口は見張らせていただきますが……。所属するプロの腕前は、それはもう一流です。導いて下さることでしょう」
「……一流、導いてくれる」
近衛騎士という立場があるからか、具体的な言葉は伏せている。
だがこれは――『大人のお店で接待しますよ』という事だ。
仮にもクズはヘイムス王国王の妹――ディアマンテの一人息子。
王からすれば、甥っ子という事になる。
血を重んじるヘイムス王国に仕える者なら、接待して心象をよくするのは当然というべき立場だ。
「――経験を積めば、余裕が出るよな」
そう、クズは――アナと初めてを迎えられるかもしれなかった夜のことを、深く悔いていた。
行為自体を出来なかった事がではない。
勿論、それもある。
だが、誘惑で理性を保てず獣のようになったことが何より許せない。
もしそんな、乱暴で技術も何もない状態で行為に及び、最愛のアナに嫌われたら――。
「……なぁ、プロ相手って浮気になるのか?」
「浮ついた心があれば、浮気になるでしょう。しかし――特定のパートナーを喜ばせる為に学ぶ経験。それを浮気とは呼ばないのでは?」
「――あんた、天才か」
クズは身体に電流が流れるような衝撃を覚えた。
(そうか、浮気じゃない。俺は勉強をするんだ。学ぶことは良い事、二人の幸せのためだもんな。うん、仕方ねぇよな)
完全なる自己正当化である。
(……こんな白昼で、騎士から逃げ出すのは容易じゃない。まして団員たちは分断されちまった。逃げるのは全員が合流する夕方になってからの方がいい。それまで時間を潰す必要がある――あれ、完璧じゃね?)
クズの脳内で、全ての言い訳が繋がった。
「――仕方ねぇなぁ、少しの間だけ付き合ってやるよ!」
「おお、さすがはクラ……ギルバート殿! では、こちらへ。少々、路地裏へ入りますよ」
突如として乗り気になったクズと喜ぶ近衛騎士に対し、今度は他の四名が訝しげな視線を向ける。
しかし先日クズの決定に逆らって一大事になっただけに、大きな理由もなく反対はできない。
一同は路地裏にある一軒家の隠し扉から地下道へ入っていった――。
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