7話
「ちょ、ダメですからね!? 私的な理由で傭兵団同士が争えば、ギルドから罰則がありますからね!? 賠償金も大変な額に……!」
「ちっくしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
「僕を不細工と呼んだ奴らは――人じゃない。ギルドから特例は出ないのかな?」
「……罰金は辛い。でも、バレないように苦しめるなら……いける!」
「とりあえず、マタちゃんが作ってくれた薬だけでも売って、食糧を確保しなきゃじゃないかな? 大きな町に行けば何か依頼も残ってる……かも?」
唯一の冷静で建設的な提案だ。失落の飛燕団に、どんな時も冷静な参謀――皆に認められる新たな幹部が誕生した瞬間だった。
一行は物々交換などで食糧を確保しながら、ヘイムス王国を目指し街道を進まざるを得なかった。
そうして、いくつかの村や町を巡ったが……いずれも空振り。進行している道が黄金の鎖と被っていたのか、依頼はほぼ残っていなかった。
金銭は得られない。代わりに住人達と交換した食糧や、マタが作った薬の在庫で傭兵団の荷馬車は一杯になってきた。
朝露に草木が塗れ、朝陽で大地が輝く時間。
街道沿いにキャンプをしていた傭兵団は、誰一人口を開くこと無く黙々と行軍の準備を整えていく。
人に踏まれた草や土が濃厚な臭いを漂わせる中――馬に女性と二人乗りしたクズが出発の号令のため口を開いた。
「……この街道では、次の町が一番デカい。そこでも奴らが依頼を独占しているようなら――全員、分かってるな?」
ドスの利いた声で馬に乗るクズは、遙か先にいるであろう金色の敵を睨んでいた。誰もクズとは目線を合わせない。
アナント城下街を出て以来、給金すら得られずまともに娯楽もできない。ふかふかのベッドで休息も取れていない団員達は――クズと同じ未来を見ていた。
血祭りだ、と。
クズの言葉に続き、口々に呪詛を吐きゆらゆらと道を進む一行は――傭兵団と言うより、死霊系魔物の群れに近かった。
彼等の通った後には、獣はおろか……薬草の一本すら残らない。
彼等とすれ違った人々は言う。
「なんて濃密な死の匂いを漂わせた集団なんだ」
「常に殺気を漂わせて、緊張感で息もできなかった……視線をくぐり抜けてきた上級傭兵団は違う」
よく『腹が減っては戦はできぬ』というが、それは逆だとクズは考えている。
(腹が減るから……欲求に対して飢えるから、人は争う。全て満たされていれば、争う必要なんてない。覚えてろよ……この恨み、空腹。忘れねぇかんなぁッ……)
そうして失落の飛燕団は最期の希望――ヘイムス王国との国境にも近くなってきた、大きな宿場町へヨタヨタと入っていった――。
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