13話
「ああ。水の精霊と火の精霊の力が相まって、こんな色になった」
ランドルフは剣から揺らめく炎に目を瞠った。
「なんと幻想的で美しい光景だ……」
瀟洒な装飾の施された恩賜の剣が纏う緋炎に対し、ランドルフはついそう思ってしまった。
「――しかし、剣が炎を纏ったところで何だというのだ! 結果、貴様の視覚が一つになっただけではないかっ!」
「なら、試してみろよ。――どうせ結末は同じなんだ。亡霊のあんたは、もうとっくに終わってる」
「――……っ! クラウス――――――ッ!」
「家族を捨て姿を消すことを蒸発すると言うらしい。――キッチリ蒸発させてやるから、安心しろ」
もはや我が子である事など、関係ない。
自らの命を脅かす怪物に対し、ランドルフは渾身の突き技を繰り出し――。
――ギンッという金属同士が衝突する音を立て、軽々と受け止められた。
「――なんっだとぉおおお!?」
「ただ剣が炎を纏うだけな訳、ねぇだろうが。――精霊二体分の身体能力向上。刀身を纏う炎は、その結果として生まれた副次効果だ。……俺でさえ、なんで剣に炎が纏うかわかってねぇんだよ」
ランドルフの剣を軽々と受け止めながら、クズは応える。
「それに、この炎はな――」
「ぐっ、なんだ!? 剣を伝って炎が私にっ!?――ぐああああっ熱いっ!?」
クズの剣に纏う緋炎は、接触している剣を伝ってランドルフを燃え上がらせる。
ランドルフは炎の中で苦しみに踊り狂った。
「この炎は変幻自在。接触している相手に纏わり付くこともあれば、規模をでかくして一気に大量の敵を消し炭にすることもできる。――そして、その炎は俺が願わない限り決して消えない」
「そんな、馬鹿な話が……っ!――ならばっ!」
纏わり付く炎の熱さ。
そして呼吸する度に肺を焼かれる苦しさに身を捩りながら、ランドルフは剣を構えて突進してくる。
確かに、術者であるクズを殺せば炎は消えるかも知れない。
「クラウス――――ッ!」
「――断罪の刃と業火の中で、罪を詫びろ」
――一閃。
精霊の力で増幅された身体能力を前に、ランドルフの目では何が起きたのか追えなかった。
自分は切られた。
自然と崩れ落ちる自分の身体から吹き出ていく血液を見て――それだけは分かった。
「悪いが、あんたと俺じゃ――既に格が違いすぎる」
身体を纏う炎の外から聞こえる、息子の無慈悲な程に冷徹な声。
単独でサイクロブスとキマイラを葬り去るクズは、正しく一騎当千の兵。
強く精神が動揺し技が乱れきっている時ならまだしも、今は落ち着き正常な状態だ。
そんな常人離れしたクラウスに、有り触れた小国で少し剣技に優れた将兵であるランドルフなど、相手になるはずも無かった。
「お……おぉ……っ」
生へ執着する感情と同時に――自分の身体からドクドクと流れ出ていく血液を力なく見つめ、ランドルフは思った。
――やっと、終わるのか……。
いざ最期に思い返せば、全く喜劇のような人生だ。
兄に王位を取られ、いいように使われる人生。
愛した者を失い、後妻も自らの不始末で死なせる夫。
家族を護ろうと縋れば、縋った先で裏切られ家族を――宝を失った。
生き恥をさらし、クレイベルグ帝国への復讐心を抱きながら彷徨っているところを――実の息子に斬られる。
三流喜劇のように愚かな己が人生を嗤ったところで――傷口が燃えるように熱くなった。
出血面に炎が集まり身を焦がすと――不滅の筈の炎が燃え尽きた。
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