11話
「そうだ! 油断している今は好機! 少数でも乗り込み、一矢報いる! 領主の首さえ取れば、あとはヘイムス王国の庇護を受けて存続できる! 一騎当千にして、ヘイムス王家の血も引くクラウスがいれば可能なことだ! アレクサンドラ王女の弔いも正式にできるぞ!」
「アナを……正式に弔える? アナの墓前で、約束の場所に帰って……。きちんと謝罪できる……」
――クラウス、しっかりせよ!
――悪魔の囁きに惑わされるな! 己をしっかり持て!
戦いの行方を邪魔できず、行方を見守っていたウンディーネとサラマンダーが思わず鼓舞する。
その時、風が吹いた。
山肌を撫でながら、二人へ強く吹き当たり、周囲の音も風の音で遮られる。
そんな中で、風の音に混じって――アナの声が聞こえた。
『クラウス、復讐に生きないで』
幻聴かもしれないが、クズの耳には確かに聞こえた。
――泣きそうなアナの声が。
「……幻聴に励まして貰うってか。俺の心も、ぶっ壊れる所まで壊れたな。アナも復讐を望んでる筈なのに」
『自分が幸せだと思う道を旅して……ッ』
「旅して、何になる。幸せだ?……俺の幸せは家族と、アナと一緒に自由に生きる事だ。でも、それはもう叶わない。なら、せめて大切な物を奪った帝国に一泡吹かせて散るのも――」
『生きて。クラウスだけでも、自由に生きて欲しいんだよ』
「はっ……。自由ってなんだよ。俺はずっと仮初めの自由を旅してきた。でも、結局は――」
『難しい顔して、役目に生きないで。誰かを救う為に人生があるんじゃない、よ」
「役目、か。確かにな。指示通りアナに敬語を使ってきた。戦功を残せば依存され、救ってくれと縋ってくる奴が増えた。それは、旅をしても一緒だ。無償で救えば、また救ってくれの連鎖だ。俺は自分すら救えねぇ。人様の人生を救うなんて、大それた人間じゃねぇ。俺は、クズだってのによ……」
『クラウスの人生は、クラウスのもの。敬語も使わず、子供の頃みたく無邪気。自由に笑ってくれる。――それが、私の望み、だよ。御願い。私を――信じてっ。また、昔みたいに笑ってよ……っ』
主の、最愛の人の望み。
それは脳内でクラウスに怨嗟を垂れ流していた声よりも、若干落ち着いているアナの声だった。
だが、憎しみも怨嗟も感じない。
平坦な物言いこそが――限りなくリアルな彼女の声に聞こえた。
「――そうかよ。主の望みなら、俺は……っ!」
「ぬっ!?」
先程までの不抜けた様子が嘘のように、剣に力が込められ――一気呵成にランドルフを押し返す。
「クラウス! 無駄な抵抗はやめろ! 私とともにいこうではないか!」
「わりぃな。俺はもう、主命を受けちまったんだ。――あんた事、過去を断ち斬るッ!」
クズは即席のバスタード・ソードを放り捨てると――左腰に帯びた剣を勢いよく抜剣した。
煌びやかな装飾が施された見事な造りの剣が、月光を反射し夜闇に輝く。
「なんだ、その剣は……?」
「――これは、ルーカス王から俺に拝領された――恩賜の剣だ」
「――兄の……っ!」
柄を握るランドルフの手が強まり、ぎりっと音を立てた。
自分の思い出したくない思い出を、名前を出された事に対する心情を柄にぶつけていた。
「テメェが裏切った兄の剣で――断罪を受け入れろ」
「ふざけるな! 兄が、兄こそが私達を捨て駒にしたのだ! 斬られてなるものかァアアアアアア!」
「捨て駒じゃねぇ、信じて任せたんだ! 信頼を裏切ったなら、詫びるのが筋だろうがァアアアアア!」
再び、親子による斬り合いが始まる。
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