6話
「あぁ、うるせぇうるせぇっ囀るなっ。勝てば官軍、負ければ賊軍っ! 負けないこと逃げ出さないこと安全に勝てること、それが一番大事! 戦い方の歴史なんて後でいくらでも自由に捏造出来るんだよっ! 卑劣下劣上等だ好きに言ってろっ!」
――妾達が見ておるわ! この外道っ!
――そうだ、俺達は証言するぞ! この悪漢がッ!
「――はっ! 上っ等っ。外道邪道鬼道悪道だろうと道は道だ! 正道を進んで馬鹿を見るぐらいなら、俺はスキップして邪道を行くね!」
――極悪男っ!
――詭弁は止めろ小心者っ!
「大精霊の割に細けぇことばっか気にする奴らだな! ケツの穴は小精霊のオーブですか!?」
――セクハラはやめい!
――そんなもんが関係あるかアホめっ!
「――よし、こんだけ時間経ちゃ十分だろう! 錬成――っ!!」
――あ、この! まだ話は……っ!
――てめぇっ! 逃げんなっ!
悪態をつき文句を言っている精霊達を尻目に、クズの手から大量に放出された魔力が洞窟に走る。
そして洞窟に充分に行き渡った頃に――。
「よく眠れよォオオオオオオオオオオオオッ! はい、さようならァアアアアアアアアアアアッ!!」
洞窟を作り出している山が――崩れた。
洞窟は見る影も無く崩落に巻き込まれ、落盤――ぺしゃんこに潰された。
中に人が居たとしたら、完全に埋葬されたような状態だ。
「……………」
――……。
――……。
あまりの惨劇に沈黙が場を支配した。
「……いやぁ。死闘だったな」
――何が死闘か! もはや言葉もないわ!
――もっと格好良く戦えんのかっ!
「うるっさいんだよお前らは! アンチですか!? アンチなんですか!? これが戦略だっ!」
クズが胸を張って言い切ったとき――埋め潰された洞窟がモコモコと蠢きだし、人が飛び出してきた。
「――ちっ。やっぱ静かには死んでくれねぇか。……できれば、見たくなかったんだがな」
生きていた敵の頭目らしき影を見つめながらクズが呟く。
クズは無意識に両腰に帯びた二本の刀を擦っていた。
特に左腰に帯びた剣には強い力を込めて擦っていた。
強く鞘の装飾に指が当たり、ハッと己をとり戻す。意識を影に戻した。
影はそのまま勢いよく山を下り、クズの傍に降りてきた。
「なんてことをするのだ外道がっ! 錬金術で地形を上書きして防護していなければ、どんな凄惨な最期となっていたかっ! 貴様には人として越えてはならぬ一線というものが――……ッ!?」
激憤しながら飛び出てきた敵の頭目は、クズの姿を視認した瞬間に動きを止めた。
捲し立てていた文句を止め、驚愕に目を剥いた――。
「……やっぱ、あんただったかよ。確かに、俺は外道邪道鬼道を喜んで進む。でも、非道を選んだあんたに人としての道をどうこう言われたくねぇな。」
「――ク、クラウス……っ!?」
――出てきた敵の頭目は、旧アナント王国公爵。
ランドルフ・ヴィンセント。
クズの実の父親であった。
いかに野盗に身を落とし汚れた身形だろうとも――クラウス・ヴィンセントがその姿を見間違えよう筈もない。
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