第20話
「な、何か俺は可笑しな事を言ったか?」
「いやあ、クズ団長が格好いいとか! 最高のギャグだよ、エドっち!」
「――なっ」
「いやはや、エド君はどうやら、これだけ話したのにまだ勘違いしているようだね」
「勘違い……だと?」
「そう。エド兄さんは、ずっと勘違いしている。義兄様はこうに違いないと決めつけている」
「俺が、一体何を決めつけて勘違いしているって言うんだ……?」
「つまり、クズ君は格好良くなんかない。ましてや、英雄なんかではないって事さ」
「そう。――義兄様は、誰よりも臆病。大切な人を失いたくないし、増やすのが怖い。疑心暗鬼に陥りやすいから、人を信じたくない。人に裏切られたって思われたくないから信じて欲しくもない。王侯貴族のように飾って見せるのを止めた半端物。ずっと迷い続けながら生きている、誰よりも人間らしい悩みを抱く人」
「言っちゃえば、誰よりもダサいんだよ。自分に正直だから、英雄みたいに周りの目なんて気にしないしね。僕とは正反対だけど、だからこそ人間味があっていい」
「人間味……だと?」
「そうだね。クズ君は――実力があるのに誰よりも振る舞いが格好悪く醜悪だ。英雄なんて高みの存在じゃあない。戦闘力が異常に高いだけで、それこそどこにでもいるような普通の悩みを抱く唯の人間。そして、誰よりもさみしがり屋で弱い性格をした、年相応な可愛い男の子なんだよ」
「義兄様は、昔から心が弱かった。周りの期待に応えようと弱音をはけず、逃げられなかった。気が付けば周りの期待のまま、自分の望むものから遠ざかっていた。追い込まれて自由を無くしていたことにも気が付けなかった」
「た、確かに。話を聞いていて、その気があるとは思ったが……」
「弱い義兄様を受け入れてくれて、心から安らいで本音でいられたのは――王女様の前だけだったと思われる。武力はあっても、心根が弱い。誰か支えが居なければ、導いてくれる人がいなければ、歪んでしまう。歪んだ結果、残った本能で女遊びをしたがる。でも、王女様の言葉で迷ってしまう程に心が弱い。例え娼館に行くと決意しても、私はそんな一時凌ぎの享楽は許さない。今度は、私が弱い義兄様を永続的に救う」
「クズ君は彷徨う僕達を救った武力を持つ恩人であって、互いに支え合う弱い存在さ。僕達団員と一緒に救い出し、放り出した人々に呪詛を吐かれたりした夜もそうだった。私刑を行った日もそう。いつもクズ君は精霊達相手に汗だくになって鍛錬していた。周りに汗なのか涙なのか解らないようごちゃ混ぜにして、顔を苦痛に歪めて。誰にも涙を見せないように、強がっていたんだよ」
「な……」
「そんな泣き虫なクズ君なら、誰の目もなく一人になれた今頃はきっと――」
そう言って、ナルシストは微笑みながら空の星に向かって筋骨隆々とした腕を伸ばし――同じ空の下にいるであろうさみしがり屋な男の子に思いをはせた。
「――よっ、と」
クラウスは、キャンプから離れた見晴らしの良い岩に登ると――腰をゆっくり下ろして片膝を立て座る。
遙か遠くに小さく見えるアナント城を眺めて酒瓶を呷った。
酒瓶の中身は――アナント特産のリンゴで作った果実酒。
「――……アナ。俺には、ないよ。翼なんて……生えてなかったよ」
月光に照らされたクズがどのような表情をしていたのか。
雨でも無いのに、何故土に水滴が吸い込まれていくのか。
その顔を誰も見ていなかった。
月にすら見られたくないとでも言うかのように、顔を沈めて蹲っていた――。
―――――――――――
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