第2話

「――さて、待たせたなお前等。キャンプに戻るか」


「うん。義兄様。見張りの食糧は買った? あったかいの」


「ちゃんと買ってきたっつの。今日の見張り役に渡したら、みんなで町に戻ってこようぜ。夕飯だ」


「うん。……美味しいお酒も飲みたい」


「僕は久しぶりにオシャレな店に入りたいね。一流のワインには一流の美男子が最高の組み合わせだ」


 団員達はクズの変化を問いたださない。


 自ら理由を話してくれる、あるいは説明してくれる時が来たら自由に言ってくれ。


 脛に傷を持つ者が多い傭兵という職業柄、その程度に思っていた――。


 キャンプにいる見張り当番に、町で買ってきた温かい食事を手土産として渡した後、失楽の飛燕団一行は町へ移動し自由行動とした。


 ある者は共同浴場へ。ある者は食事へ。またある者は娼館へ。

 誰が何をしようと、人に迷惑をかけない限りはそれを咎めることはない。


 クズと幹部二名、そして幾人の団員は酒場へ来ていた。


 楽しく食事をしながら好きな麦酒を呷っていく。


 資金は充分にあるし、クエストをこなした達成感もある。


 酒が進むのは当然の話であった。クズはみるみるうちに酒を飲み干していった。


 ガランガランと酒場の扉が開かれると、クレイベルグ帝国騎士の甲冑に身を包んだ男が酒場に入ってきた。

 大衆酒場には不似合いな身形である。


「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」


「…………」


 女性従業員の声に眼を合わせることもなく、男はキョロキョロと酒場を見回し――。


「――――――――っ!!」


 とある一角で酒盛りしている男の姿を見た瞬間、驚愕に眼を見開き拳を震わせながら握った。


「あ、あの……?」


 従業員の尋ねる声に反応することなく、甲冑の男はガシャガシャと歩調を早めながら店の奥に歩みを進め――。


 クズの座る席の横に立った。


「……あぁ? なんだあんた? 俺は帝国騎士様に知り合いなんていねぇぞ?」


 その言葉にグッと拳を握った男は、震える手で被っていたヘルムを外した。


 ヘルムを外し男の外見が顕わになる。


 そこにいたのは爽やかな短髪が良く映える秀麗な面持ちの若者だった。


 その男の顔が顕わになった瞬間――。


「――お、お前っ!?」


 クズは信じられない者を見た表情で、驚愕に眼を見開いた。


「……私を覚えていたか」


 剣呑な表情と声で、男性は握り込んだ拳を震わせている。

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