第17話
「そうだな。敵は確かに強かった。だが、俺とこの大精霊二体が協力すれば、それこそ調理を待つ家畜同然だったな」
キャアキャアと更に黄色い声を張り上げる女性陣。
嘘は言っていない。
だが――。
「もっともっと話を聞かせて下さいっ!」
「楽しい話を聞かせて下さい! 凄い、筋肉が引き締まってる~!」
距離をガンガン詰めてくる女性陣の圧に、クズの脳内はもうパンク寸前だ。
女性相手のクズのパーソナルスペースは極めて広い。
警戒心の塊といっても過言では無い。新しい刺激に飢えた女性陣の興味と圧は凄まじかった。
日頃は厳格な家に暮らして勤勉に生活しているため、冒険譚など聞く機会がない。
狼狽するクズは助けを求めてキョロキョロすると――愛すべき失落の飛燕団幹部四名が遠巻きにこちらを見ているではないか!
――精霊の皆様、助けをプリーズ!
――やれやれ。
――仕方ないのう。
強く心に願うと、言葉に出さなくとも精霊には意思が伝わる。
クズが仲間に助けを求める強い情念を聞き届けた精霊達は、酒を片手に傭兵団四名の前にふらふら飛んで行くと――それぞれ水と火で『SOS』と文字を書いてやった。
精霊は召喚者以外と会話できないから、文字で書くのは仕方が無い。
クズが示す必死の救難信号を見た愛すべき仲間達は――。
「いやぁ、綺麗な文字ッすね。ちょっと酔ったのかな。意味はわからないけど、綺麗だなぁ」
「私達の為に綺麗な演出をしてくれるなんて。これは堪能しないとだね!」
「……義兄様。ちょっと反省、すべき。逃げ場のない中でもう少し焦って冷や汗かいて」
「僕は行くよ。僕には全ての女性達を楽しませる義務が――むぐっ!」
「……義兄様の、浮気癖を矯正する必要がある。協力、してくれると確信している」
「――……ヒュィ」
助けに向かおうとしていたナルシストは、義兄を想う義妹に口と鼻を抑えられて止められた。
「ナルシストさん、顔やばいッすよ! めっちゃ不細工! 死ぬ寸前のオークよりやべぇッっす!」
女性に乱暴など出来ないナルシストが強く振り払うことなんて出来ず、酸素不足で不細工な顔になっていた。
――同時に息の根も止められそうになっていた。
「あはははっ。そ、そうだねそうだよね。はははは。え、俺、すすす凄い? はははっありがとありがとハハハハハハァーンッ!」
自分が一体、誰と何を会話しているのかも分からない。
テンパった男の乾いた笑い声が宴の会場に響いた。
「……そこの貴女」
「え? 私ですか?」
クズを囲んでいたメイドの一人がマタに呼ばれて振り返る。
見ると肘には応急処置として止血が施してある。
「義兄様から聞いた、カス貴族に突き飛ばされたメイドとは貴女?」
「え、ああ……そう、です」
「これ、使って」
マタは懐から瓶を取り出し、メイドに渡した。
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