第15話
「さてはてめぇらアンチだなっ!――だが、もう勝ち方は見つけたぜ!」
――本当か?
――嘘ではなかろうな?
「君たちまで俺を疑わないでくれるっ!? 自分で召喚した精霊にぐらい信じて頂きたかった!」
――日頃の行いじゃろうなぁ?
――ああ。自業自得というやつだ。
「そうだな、俺が悪かったよ! そんで謝りついでに、サラマンダー! 先に謝っておくからな!」
――む? なんだ?
「ほい。俺の剣を持っててくれ」
――お前の剣を?
訝しく思いながらも、手渡された錬金術で作った剣を握るサラマンダー。
「うん、そうそう似合うね、格好良いよ。何があってもそのまま上に向けて持っててくれよっと」
そんなサラマンダ―を、クズは片手で掴んだ。
――え?
何が起きているか分からないサラマンダー。
「――来るぞッ!」
そんな中を上昇していたキマイラが滑空し急降下、口を大きく開き炎のブレスを吐こうとしてきた――。
「――唸れ、サラマンダー! 君に決めたぁああああああああああああああああああッ!」
――はぁああああああああああああああああああああああああああッ!?
キマイラの吐き出す炎のブレス――その中を、火の精霊であるサラマンダーが一直線にキマイラに向かって吹っ飛んでいく。
クズがキマイラの口に向かってサラマンダーを全力投球したのだ。
――ドズッという鈍い音が響くと同時に、キマイラの吐く炎が止んだ。
キマイラの口腔内に入り込んだサラマンダーの持つ真っ赤に染まり曲がった剣。
高温を掻い潜った代償に剣の体を成さなくなった塊がライオンの口腔から脳天を貫いていた。
あらゆるものを融解させる超高温度の炎に溶かされず口腔内に潜り込めるものなど、火の大精霊であるサラマンダーぐらいだ。
そのままキマイラは痛みに藻掻き苦しみながら、大地に墜落した。
「あちいいいいいいいいいいいいいいっ! ウンディーネ! 水水水水水水水水みずぅッ!」
――も、もう! そなたはあぶなっかしいっ!
一方、キマイラの吐いた炎のブレスの中にサラマンダーをぶん投げた張本人であるクズは投げた直後に回避行動を取ったものの、吐かれた炎の一部を身に受けていた。
ウンディーネに水をかけてもらい急速に温度を冷やすことで大火傷を避ける。クズの身体から水蒸気が立ちこめた。
ウンディーネが即座に消火してくれなければ、熱中症や体液損耗によるショック死を起こすほど深い火傷を負っていた可能性がある。
「――ぶはぁっ……! 助かったぁあっ! サンキューな、ウンディーネ」
――サンキューな、じゃねぇ馬鹿ヤロこのヤロっ!
水に濡れた髪を掻き上げながら、爽やかな笑顔で礼を言うクズを、キマイラの口腔内から文字通り飛んで帰ってきたサラマンダーが――思いっきりぶん殴った。
「いってぇな! ちゃんと先に謝っただろうが、謝れコラ!!」
――謝れば何でも許されると思うなよクズがっ!
「おおッ!? なんだやんのかぁっ!? 言っとくけど、俺が魔力供給止めればお前なんかイチコロだかんな! すぐ消えるんだかんな! いつでも俺が逃げられるの覚えてて喧嘩売ってんのか、あぁんッ!?」
なおも文句が尽きないサラマンダーと言い合いをしていると、キマイラが呻き声を上げて必死に立ち上がろうとしているのが視界に飛び込んできた。
「――やべ、こんな子供みてぇなことに付き合ってる場合じゃねぇっ!」
――誰が子供だクソガキめがっ!
クズは怒りに炎を立ち上らせるサラマンダーを尻目に、地面に手を突き錬成術を発動させた。
「錬成っ! 捕らえろぉおッ!」
バチバチと魔力が放出されていき――キマイラの手足を岩が覆い、大地と繋げ身動きが出来ないように拘束した。
動転しているキマイラは、必死に手足の拘束を解いて逃げようとするが――がっちりと岩で固定されて逃げられずあがき続ける。
――のしッ、のしッ、のしッ。
暴れるキマイラの視界に、何処かで岩から錬成したのか――巨大で凶悪なメイスを肩に担ぎ、邪悪な笑みを浮かべたクズが姿を現した。
「――やあどうもどうも。見下ろしてた人間にさ、逆に上から見下ろされるのってどんな気持ち? ねぇ、今どんな気持ちなのかなぁ? ちなみに俺は――とっっっても、いい気分です」
濡れた髪をかき上げ、オールバックにしながらメイスを担ぐクズは――どこからどう見ても悪役側であった。
その後起きた事の子細は、とてもではないが説明出来ない。
あえて言葉で簡単に説明するならば、そう――挽肉。
その言葉が最も簡潔だろう。
「あれぇ、どうしたのかな? ねぇ、さっきまで毒吐いてた蛇さんが取れちゃった、ねぇ取れちゃったよ!? ああ、恐怖に顔なんて歪めて、可哀想に。いいんだよ抵抗したければしてさぁ……。あ、この口が俺に火を吐いたんだよね。そんじゃあ、十倍返しだ゛オ゛ラ゛ァ゛ァ゛ア゛アッ! 楽に死ねると思うなよ!?」
火傷するほど熱い思いをしたことへの怒りを文字通り叩き付けるような口撃、そして攻撃!
――正真正銘、外道の所業である。
あまりに卑劣でグロテスク、常識破り。
自由にも程があるめちゃくちゃな戦闘方法に傭兵団一同ですら若干引いていた。
それでも、最大級に危険なS級モンスター二体を、結果的に一人で倒したクズへ胸中で賞賛していた。
『まさに一騎当千のクズだ』と。
まともにぶつかって敵わない相手なら、まともにぶつからなければ良い。
ルール無用故の勝利。
自由な戦い方を体現したような団長を、苦笑で見つめるしかなかった。
集団の中で唯一人、貴族令嬢だけがキラキラと英雄を見るような目をクズに向けていた――。
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