第14話
「へいへーいっ材料一丁お待ち――っ!」
そしてその毒液で満たされた大皿を、まるでフリスビー投げでもするかの如く投げ――ウンディーネが放出する水流の中に投げ込んだ。
――え?
「そのままだ! 良いって言うまでそのまま続けてくれ!」
――う、うむっ、わかったのじゃ!
戸惑いながらもサイクロプスの眼を狙った水流を放出し続けるウンディーネ。
すると、サイクロプスが大きな苦悶の表情と呻き声を上げて眼を押さえた。
「っしゃあ! 目に毒だぜ作戦大成功っ! そんなでっけぇ眼ギラギラさせてっからだ、どスケベ!――っうし、次だサラマンダー!」
バンッと地面に手を突き、砂利と岩を山盛りに集める。魔力も籠められており、バチバチと音を立てている。
「こいつを思いっきり熱してくれ! とろっとろになるぐらいにな!」
――う、うむ!
サラマンダーが放つ業火に、クズの錬成術が合わさり――目の前に積み上げられていた砂利の山はドロドロのマグマに変質した。
「できたぁあッ! いくぞぉッ!――ほわたぁあッ! オラオラオラオラオラオラオラァアッ!」
錬成した巨大なシャベルで、次々とマグマを水流に放り込んでいく。
水より数百万倍近く高い粘性を持つマグマが起こす強い衝撃に、サイクロプスの防ぐ腕が弾き飛ばされた後――眼球にまでマグマが届いた。
投げ入れられたマグマは次々サイクロプスの眼に入り――その眼を容赦なく溶かして溶かして――遂には体内まで溶かしていった。
サイクロプスは苦痛に暴れて藻掻いていたものの、水流を完全に避けることは難しい。
為す術もなく大きな音を立て大地に倒れ――絶命した。
「はっはぁ! これでのぞき魔もできねぇなぁ。血走った目をギラギラさせてるからだぶぁかッ! あー焦げた匂いがくせぇ。服に染み付いたらどうしてくれんだよ変質者が!――うし、一匹仕留めたぞぉッ! お前等、どんなもんじゃいっ!」
「汚いっ! 相変わらずクズ団長のやりくちが汚いっ!」
「義兄様……。絡め手ばっかり……口も悪い」
「クズ君は戦い方も喋ることも、やはりクズだよねぇ」
観戦していた外野から、心ないブーイングがクズへ飛ぶ。
――ぶーぶー。
「うっせぇぞ外野ども! 世の中勝てば官軍! 勝ちゃあいいんだよっ負けた奴の正論なんか聞いても貰えねえんだよっ!!――はっはぁッ!!」
――クズじゃな。
――人間として恥ずかしくないのか、お前は?
精霊に『人間として』とか言われても……とクズは開き直った。
「俺は負けて何もかも失う方がよっぽど恥ずかしいね。勝たなきゃ黙って失うしかねぇ世の中が悪い! 次はあの奇怪生物の処分だ!――うぉっ!?」
自分の吐いた毒を利用されたことに怒ったのか警戒したのか。
滑空していたキマイラは、急降下してライオンの大きく開いた口から巨大な炎のブレスを吐いて攻撃しては、即座に上空へ逃げていった。
ギリギリのところで避けたものの、服が少し燃えているのをバンバンと叩いて必死に消火する。
「あちちっ、ちっくしょう! 空飛ぶとか、卑怯だぞっ! 卑怯なことして恥ずかしくねぇのかっ!」
「「「クズが言うなぁっ!」」」
至る所からクズの過去行った所業を責めるアンチの声が響いてきた気がするが、気にしない。
クズは過去を振り返らない男だ。
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