第11話
「こんな化け物二体をこの人数で相手にするなんて、無茶っす! 最低でも兵五百人が必要な相手が二体同時っすよ!?」
サイクロブスとキマイラ相手に大苦戦していた。
元々、まともに戦えば一体につき最低五百以上の兵がいないと安全に撃退できないような相手。
そんな脅威が同時に二体現れれば――千名の兵でもとても足りないだろう。
手練れの二名の幹部が指揮しているとはいえども、足止めが精一杯であった。
一般団員は攻撃の余波で負傷してはマタの回復魔術や薬で回復してを繰り返していた。
「……サイクロブスとキマイラを争わせて、逃げるしかない」
「……いいかい、本当に危なくなったら、僕が殿を務める。団員のみんなを逃がしてくれ。それが、行き場のない僕を救ってくれたみんなへの恩返しだ」
「そんな事いったら、私達もです! どん底の深い暗闇の中で……。死にかけてた私に救いの手を差し伸べてくれたのはクズ団長です!」
「ああ、俺もだ! 過ちを犯して行き場の無かった俺に居場所をくれたのはクズ団長だ!」
一般団員の差警備を聞いて、ナルシストが思い出すのは、入団に至った経緯。
ナルシストは元々、貴族の出身であったが個性的すぎる性格が故に疎まれ、放逐された。
クズは彼の人生を肯定してくれた。――自分らしさを発揮でき、幸せな人生だった。
始めて出会った時に見せたクズの寂しそうな瞳と、差し伸べてくれた手の暖かみは忘れられない。
今、感情のままに笑える幸せを享受できるのは、全てクズが救ってくれたお陰だ。
それからナルシストは己の個性を存分に発揮して能力に開花し、今では幹部として生きている。
かつての暗澹とした日々を忘れるように、毎日笑いと刺激に溢れ幸せに生きている。
それもこれも、クズのおかげだ。あの不器用でスケベで、でも本当は優しい男のお陰だ。
「ああ、そうだね。僕達はみんなクズ君に借りがある。それも、人生レベルであのクズなクズ君にね。僕もそうだし、君たちもそうだった。すまない、自分ばかり特別だと自己犠牲の精神に浸ってしまっていたよ。さあ、みんなでともにいこう!」
受けた恩は返す。
気の良い大切な仲間。
『失楽の飛燕団』と大恩あるクズの為ならば、命をなげうつ覚悟はある。
笑って殿を受け持ち――死のう。
団員は常にそんな気持ちでいた。
「――別に討伐なんてしなくていい。二千万ゼニーが安全圏へ撤退するまで耐えればいい。義兄様がその手引きをしていたから、信じよう」
「クズ団長を……」
「クズ君を……」
「義兄様を……」
――信じる?
言い出しっぺのマタも含め、団員達の頭に疑問符が浮かび一斉に小首を傾げた。
七割方は信じても良い。――でも、奔放過ぎて期待通り動くとは信じられないよなぁ。
それが全員の総意であった。
「だ、大丈夫です! 今回は、きっと――」
「――はぁあああああああああああああああああああああああああああああっ!」
「「「「――え?」」」」
後方からクズの雄叫びが響いてきたのは、そんな会話をしている時だった。
「に、義兄様!?」
「俺が来るまでよく耐えたなっ! 全く、頼りになる子猫ちゃん達だっ!――俺が来たからには、もう安心だぜ!」
「え?」
「……あ」
「これは……あれだね」
クズのこの現象――妙に格好つけてしまうモード。
この現象に、団員一同は心当たりがあった。
――女当たり。
多くの女性から急激に強い刺激を受け、冷静でいられなくなったクズがキザな事を口走る。
免疫が無いのに『女性に近づかなければ』という謎の使命感に駆られるクズ。
普段から男ばかりの傭兵団で性欲を無理矢理抑圧されている、そんな彼がいざ女性を感じると極端にテンパってしまう。
その状態を勝手にこう呼んでいる。
男なら大なり小なりある、異性に対して格好つけたい現象がある。
クズはそれが、極端に色濃く表にまで出てしまうのだ。
女当たり現象が起きているということは、つまりである。
――クズは沢山の女性に囲まれ、興奮するあれこれをしていたということに他ならない!
――自分たちが命をかけて戦っている間に!!
「……義兄様?」
義妹から、瘴気のようなオーラが立ちこめ大気に揺らめいているように感じた。
「――ギルバート様っ!」
はあはあと息を切らした貴族令嬢がクズの名を叫びながら走ってくる
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