第10話
一人の女性が抱きついただけでも胸がドキドキしてテンパるのだ。
女性と接する経験の少ないクズが、こんな多人数の女性に一斉に言い寄られて冷静に物事を判断できるハズがない。
人間の意識は同時にいくつもの事に集中することは出来ない。
クズの集中力は女性に触れている部分に集中しているのだ。
考えなんて纏まらない。纏まるはずがない!
――うわぁ身体が柔らかい。でも危ないし逃げおっぱいが身体に危険でキマイラとか腕に吸い付いてきて包み込んで戦うとか死人が良い香りの髪だし息が当たるんですけど!
錯乱する思考に高鳴る胸の鼓動。手足を中心に緊張に震えている。
クズとはいえど、女性の期待には応えたい。
とはいえ、キマイラとサイクロブスを同時に退治なんて――。
「ギルバート様、信じております……っ!」
――ぎゅ、むにゅう。
「――――――――……」
通称クズ。
意識した女性経験は――幼い頃に従兄妹の手を握ったところまで。
普段から傭兵団に足りない物は――大きなおっぱいと清楚な色香だ。
不意打ち気味に押しつけられた清楚な女性の大きな胸部の感触は――まさに会心の一撃!
「――すいませんね、お嬢様方」
「……ギルバート様?」
すっと女性達を引き剥がし、悠然と歩きながら自らの愛馬に跨がった。
女性達は見捨てられるのではないか、願いは届かなかったのかと不安気な眼差しを浮かべる。
手を前に合わせてきゅっと握りながらクズを不安げに見つめる。
「――そんな目をすんなよ、子猫ちゃん達? 野蛮なことは俺に任せて、花のような君たちはここで咲き誇りながら見物してな?――俺という太陽が、あの化け物を倒すところをよ?」
「「「ギルバート様っ!」」」
女性達が興奮する黄色い声が響く。
見た目だけはイケメンなのだ。見た目だけは。
そんな彼が窮地で頼もしさを出せばこんなもんである。
「――また後でなっ! いくぜっ!」
「ああ、ギルバート様! わたくしも……っ!」
昂然と馬を駆けさせながらモンスターへ駆けるクズを、貴族令嬢はスカートを持ち上げながらたたっと追いかけた――。
――一方その頃、先に戦闘へ向かった失楽の飛燕団はといえば。
「――ああ、もう! こいつのぶっとくて硬いよっ! 痛い!」
「脚の事を卑猥っぽく言うな! お前は素手でサイクロプスの脚に攻撃すんなって! 拳が壊れんぞ!? ここは剣で――俺の剣が曲がった!?」
「……弓矢もダメだね。サイクロブスの目を狙っても、硬い腕で防がれてしまう。武器が僕の腕に追いついてない。さすが、『破壊の象徴』と言われる怪物名だけはある」
「鋼の剣も、生半可な魔術も通じない。本当、厄介な皮膚。攻撃力はえげつないし、打つ手無し」
鋼の刃でも傷つかず魔法耐性も高い皮膚に、大人四人分の太さはありそうな巨大な棍棒を操る膂力。
攻撃が当たれば騎士鎧も紙屑のようにひしゃげ肉片を撒き散らす攻撃力。
そして堅牢な防御力を兼ね備えた一つ目の巨大な怪物。
移動速度は遅いため、逃げれば大きな脅威にはならないが、まともにぶつかれば壊滅必至である『破壊の象徴』と言われる存在だ。
「色々混ざったキモいのは空飛んでるしっ! 腹立つ!」
「……早くて、弾幕張っても魔術が当たらない」
「滑空して攻撃しては逃げて……。獅子の牙や爪もだけど、口から吐く炎が厄介だね。避けても火傷するほど温度が高い。とにかく、蛇の尾から即死の毒だけは避けないとだね」
素早く空中を滑空する悪魔の翼、獅子の胴体と頭から生える牙や爪は鋼より硬い。
猛毒の蛇の尾から放たれる毒は超即効性であり、強い酸性を持つ特殊な神経毒。
表皮から触れただけで神経の伝達を阻害し筋肉の収縮や呼吸筋を止め死に至らせる。
解毒薬などないし、使っている暇などない。
触れれば即死だ。
胴の物理攻撃耐性は比較的低いと言われるが、そもそも空も地も高速で動き回る相手に攻撃を当てるのは至難だ。
剣で斬ろうにも動きについていけず刃は寝て斬れないし、弓矢より早く動くから空一面に数百という弓矢が被わない限り簡単に避けられる。
人気のない森や山岳を根城としており、その高い機動力を前に逃げ果せるのも至難であることから『息を殺す幻獣』と恐れられる怪物だ。
「これがS級モンスター……。さすがに手強い。うちの貧相な一般装備では太刀打ちできない」
「貧相で粗悪品なのは、マタ副団長の胸じゃ……。うわっ毒が!? じょじょじょ、冗談ですって!」
そもそも、モンスターにランクがあるように武器や防具にも品質や付与能力により鍛冶ギルドが認めるランクがある。
下から『粗悪品』、『一般品』、『良品』、『一級品』、『特級品』、『伝説級』、『神話級』だ。
一般的な店売り品が一般品で、鍛治士を天職に持つ者が修行して良品から特級品までを産み出す事ができる。
当然、高価だ。
貧乏傭兵団に配備できる訳もなく、一般品を身に着けている。
そんな一般品でSランクのモンスターにダメージは通せない。
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