夏日しろ

さっしゅ

夏日しろ


クソ暑い道をだらだらと歩きながら、目的の場所へ向かう。右手の手汗がすごく、じっとりと拳の中を濡らしている。蝉のやかましい声、土のにおい、草のにおいが入り混じっていて・・・気持ち悪い。夏のにおいだ。


「何でこんなときにスーパーに行かなきゃいけないんだよ・・・。」


さっきからこういう感じで、俺をスーパーへ駆り出した母に愚痴を言っている。こんなときに、しかもこんな真昼間のクソ暑い時間に、歩いてスーパーへ行けだと・・・あほか。


「あれ・・・ここどこだっけ。」


しまった、ぼんやり歩いていたら道を間違えていた。さっきの通りで右に行かなきゃいけないんだった。それにしても、相変わらず道がややこしいな。久しぶりに来たから道があいまいだ。


「戻ろ・・・。」


正しい道に戻り、まただらだらと歩き出す。そんなに遠くないスーパーのはずだが、とても遠く感じる。


「あ、ついた。」


いつの間にか目の前には、周りに雑草が茂っているスーパーがあった。最後に見たときよりも看板が錆びていて古ぼけている。入り口にある自動販売機は『故障中』という張り紙が貼られていて、看板よりも錆びている。言い方が悪いかもしれないが、いかにも田舎のスーパーという感じだ。ノロノロと入り口まで行き、反応の悪い自動ドアが開くのを待つ。


「・・・・」


ドアが開いた瞬間に冷たい冷気が頬を冷やした。店内に入ると、ガンガン冷房が効いていて寒いくらいだった。


「さて・・・」


ジーンズの後ろポケットからメモを取り出し、何を買いに来たのか確かめる。クシャクシャになった二つ折りされているメモを開くと、『米十キロ』『缶コーヒー』『ネギ』とある。缶コーヒーとかネギなら、まあ、別に買っていくのに抵抗はない。だけど・・・『米十キロ』って!?歩きで、しかもこんなクソ暑い中に買いにいけって・・・。ブツブツ言いながら、いつの間にか足は米のコーナーへ向かっていた。確実に一歩一歩、レジ前の米コーナーへ近づいていく。コーナーにたどり着くと小さな場所だが、たくさんの米がつまった透明なビニール袋が積んであった。ビニール袋のデザインはどれを見ても白が基本で、つまらない。その積み方もきちんとしていて、積んだ人物の細かい性格がわかる。米袋をひとつ持ち上げると、とても重たい。よろめきそうになりながらも、しっかりと身体を支えて、胸のところまで持ち上げて他のコーナーへ移動した。


リストにあったものの会計を済ませ、スーパーの出入り口から出ると蒸し暑い空気が全身にまとわりつく。俺は右に米袋を抱え、左手に缶コーヒーとネギが入ったビニール袋を持っていたがそれを落としそうになる。それでも足を前に出し、家を目指す。不思議なことに歩き出すと行きのときよりも足取りが軽かった。家にはすぐに着いた。


家の玄関のドアを開け、ゆっくりと米袋とビニール袋をおろす。履いていたサンダルを雑に脱ぎ捨て、中へ進んだ。この家は玄関と一番近い部屋は仏間になっていて、少し歩き右を見るとすぐに仏壇が見える。だが、いま見えているのは白い衣装をきて、黙って横になっている母だった。

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夏日しろ さっしゅ @sashiyu-000

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