クマの王妃

 毛皮が重い。ずっしりと体にのしかかってくる。


「ううっ……暖かさ最強の上質なコートをって思う気持ちは嬉しいのよ。でもウィルの思いやりと愛の塊の毛皮は重いわ」


 毛皮のコートだけじゃない。帽子もマフも手袋も……さらに羽織るためのものがあり、何枚も重ねている。ブーツもモコモコしてしいて、とにかく全身包まれている。

 

「やりすぎではと思ったのですが、リアン様が風邪をひかないように用意したから頼む!と陛下のお言葉でしたので……」


 アナベルが困ったようにそう言う。


「こんな緊迫した場面に、立ち上がったクマみたいな私って……」


 相手は美女。こっちはクマさんとか……どんな比較対象よっ。

 

「いやぁ!楽しみだね。僕なんて美しい女性を見れるかなぁとワクワクしてるよ!」


 周囲の景色は真っ白で吐く息すら凍りそうなのに、エリックは楽しそうである。

 

「エリック元気ねぇ」


「寒さには自信あるんですよ。この地域出身なんですよ」


 えっ!?と私とアナベルが驚くとエリックは肩を竦める。


「陛下に言ったことはないんだけどなぁ。……でもあの方は鋭いところがあるから、バレていたのかもなぁ。だから今回のお供は僕だったんだと思いますよ」


 エリックは遠くを見る目をしてから目を細め、懐かしいと呟く。


「花が1輪春に咲くでしょう?この地域では本当に嬉しいものなんですよ。春の訪れを皆が家の中にいて心待ちにしてます。子どもも大人も雪解けのあとの緑の短い草を裸足で踏みます」


「確かに、ここの冬は厳しそうだから、春は格別嬉しいでしょうね」


 そうなんですよといつもふざけた感じのエリックなのだが、珍しくしみじみと語っている。ウィルはエリックの出身地をなんとなく察していて、この地域に詳しい人をつけてくれたらしい。ありがたいわ。


 私達は雪に埋もれそうな城の中へ案内されていく。暖かい一室に入れてもらえ、ホッとした。


 案内してくれた人たちの中にいた、落ち着いた感じの老人が遠慮がちに私に尋ねる。


「あの……その……うかがうことが失礼かと思いますが……その……えーと……そのような……クマのようなスタイルで女王陛下にお会いになりますか?」


 やっぱりクマのようなと思われていたー!


「まさか!きちんと身なりを整えて、用意させてもらうわ。着替えたいから、このお部屋を借りてもいいかしら?」


「もっ、もちろんでございます!では!一旦、我々は失礼させてもらいます!」

 

 慌てて出て行く人たち。誰もいなくなる。


「さて、作戦会議しましょうか?」


 エリックがおいおいとツッコむ。


「もしかしてだけど……人払いし、時間を稼ぐために、嫌がらず、クマのような格好をしたのかな?」


「せっかくウィルが贈ってくれたから、袖を通したってことにしないと悪いじゃない?ついでに着替えることを理由に女王陛下に会うための対策の時間もとれるし、一石二鳥よ!」


「やれやれ……この王妃様はやっぱり侮れないや」


 エリックが上を向いて両手を広げた。アナベルは通常運転ですねーと笑っている。


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