双子の姉弟は正反対
「母様、少しよろしいですか?」
そう私に呼びかける者がいた。良いわよと返事をすると扉が開いた。まだ幼さが残る顔をし、金の髪と私によく似た緑の目をした少年が現れた。丁寧な物言いは教育されたものだ。
「ウィリアム、お母様と2人だけの時はもっとくだけた言い方しても良いのよ?それにまだ幼いのだから、甘えてもかまわないのに……」
私が近寄り、甘やかそうとした時、リアン様?と厳しい声がした。三騎士の1人で、真面目が服を着ているようなトラスがピッタリと横に張り付いている。
「リアン様、いけません。ウィリアム殿下は王になるべく教育中です。それを阻むようなことはしてはいけません。普通の子どもとは違うんですよ」
「愛することに普通も何もないわよ。ねー?ウィリアム?」
ウィリアムは私の伸ばした手をスルリと避けた。人前では甘えないようにと言われているため、近頃では近寄ってすらこない。無理に我慢させることないのに!私の空を切った所在なさげな手をどうするのよ!?私は余計なことを言う真面目なトラスを八つ当たり気味に、睨みかける。
「トラスの言う通りだと僕は思います。そんな甘えるような年齢ではありませんから。母様、それよりまたクロエがクラーク伯爵家のお祖父様のところへ行ってます。クロエはお祖父様にまた何か教えてもらってるんです。大丈夫でしょうか?」
そう言った瞬間だった。バーン!とドアが勢いよく開いた。ウィリアムとよく似ている金色の髪に緑の目をした少女が現れた。
「ちょっと!ウィリアムっ!お母様に告げ口するんじゃないわよ。私がお祖父様のところへ行こうがどうしようが勝手でしょーっ!」
ウィリアムの双子の姉のクロエは声を張り上げてウィリアムに食ってかかる。クロエも王女としての教育はしっかり受けているんだけど……今日も元気いっぱいね。
ウィルいわく『クロエはリアンの性格、そっくりだよ』と言うことだった。
「お祖父様から教えてもらうことって嫌な予感しかしないんだけど、王女としての教育は怠っているって話はきかないから別に良いんじゃないかしらとは思うわ」
「甘いですね。リアン様がそんな甘いことでは殿下達の教育に影響を及ぼしますよ」
トラスが私に注意するように言った。しかし私は肩をすくめてみせた。
「興味のあることに夢中になる楽しさは知っているもの。ウィリアムもまだまだ好きなことをしてもいいのよ?クロエはやりすぎだけどね」
私にそう言われたウィリアムが少しだけ不貞腐れた顔をした。クロエは自由なのだが、ウィリアムは王になるための教育を受けているのだ。その頑張りを褒めてほしいのかもしれない……複雑な胸中を察するのも難しいわね。
「お母様は今日も怠惰に過ごしていたの?」
クロエは私がフカフカクッションに囲まれ、いい香りのお茶を飲むスタイルを見て、眉をひそめて尋ねる。
「まぁ、そうね。いつもどおりすごさせてもらってるわね」
ニッコリ微笑むと、呆れたようにクロエは口を開けた。
「お父様が優しいからって甘えすぎだわ……それともお母様は怠惰に過ごしてるようにみえるだけなの?」
私はその一言に驚いてクロエを見返した。長年の完璧とも言える怠惰スタイルを見破れた!?
ウィリアムはトラスにそろそろ勉学の時間ですよと言われ、連れて行かれた。お茶でも一緒にしようと思ったのにもう行ってしまうなんて寂しいものだわ。
わたしもそろそろ行こーっと、とクロエはウーンと背伸びをした。
「クロエはこれからなにするの?」
「私は図書室へ行きたいのよ。後は港にも用事があるの」
「港へ?そう……護衛は絶対につけていきなさいよ」
クロエは私の返事に一瞬だけ無言になってから口を開く。
「お母様はやはり只者じゃないわ。『王女なのに何しに行くの?大人しくしてなさい!』なんて叱らないのね」
私によく似たクロエは止めれば、逆効果だもの。よくわかるわ。
「好きなことを学ぶのも許してくれてるし……ウィリアムなんてひどいこというんだから。王女なんて他国か貴族に嫁ぐことになるのに、勉強して何になるの?って言うのよ」
「まあ!?嫁ぐ気持ちがあったの?」
クロエがお嫁に行く覚悟してるって聞いたら、すっごく子どもたちを可愛がってるウィルが涙目になりそうだけど?クロエは大人しくお嫁にいってくれるタイプには見えないけど?
「ぜんぜーん!そんな気ゼロ!」
……そうでしょうね。
時間がもったいないわ!エリックと港へ行ってくるわ!と言ってクロエが行ってしまう。
クロエはお転婆すぎるけど才能に溢れてる。だけど王女ゆえ、双子の弟のウィリアムが王になるべく最高の教育をされている羨ましさがある。
真面目で少し気弱で優しいところがあるウィリアムは王になるべく教育されているが、その性格に合わないこともあるのだろう。我慢をしている。だからクロエが好きなものを選び、わりと気ままに行動をしていることが羨ましい。
お互いに無いものねだりね。どちらにも同じように与えてやりたいけど、難しいものねと私は嘆息した。どんな兵法、内政、外交より子育てが一番難しいかも……。
そして二人がいなくなったことを確認し、ゴソゴソとクッションの下の紙を取り出した。慌てて隠したため、シワシワになってしまった紙を手で伸ばす。中断した世界の穀物の値段のチェックを続けることにした。お昼寝クッションのソファの下にはたくさんの書類が隠されていることをクロエとウィリアムはまだ知らないのだった。
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