たった一つの謎が大きくて

 ガルシア将軍が一生懸命働いているラッセルを見て感心したようにオレに言う。


「自分で傍に置いてくれと言っただけあって、かなり頑張ってるじゃねーか。しかも能力も悪くない」


「そりゃ……オレと同じ、あの先生の私塾に行っていたからな」


「あの先生のところか!間違いないな!あの私塾に3年通える根性ありゃ、どこでもやっていける!」


 アッハハ!と笑って行ってしまう。


 リアンはリアンで……。


「ラッセル、頑張ってるんですって?良いわねぇ」


 ……相変わらず、ちょっと羨ましそうだ。私塾でトップだったリアンならラッセル越えの政務官になれていただろう。それでもオレの傍にいることを選んだからか、それ以上、彼女は何も言わなかった。


 ラッセルのことは皆が能力を認め始めていたが、セオドアだけはいつまでも不審な目を隠さなかった。


 ラッセルがいるときは、影のようにいつも通り、傍で静かに潜んでいたが、気を許さない雰囲気を漂わせていた。


「ラッセルに警戒してるのか?」


「それが仕事ですので……」


 セオドアはただそう言って、傍にいる。


「まだラッセル仕事してんのかー?一緒に飲みに行こうぜー!」


 三騎士の一人、フルトンは、こうして、ラッセルの真面目な働きぶりと人情味のあるところに心を許して、飲みに行く仲間になってるらしい……。


「後、この仕事だけ終えたら、行きますので、いつもの酒場で待っててください」


 ニコニコと人当たりの良い笑顔でラッセルは答える。


「もう大丈夫だから帰っていい。たまにゆっくりと休息をとるといい」


「いえ……しかし……」


 拒否するラッセルにオレは笑いかける。


「ラッセルはよくやってくれている。一つ、聞きたかったんだが、なぜラッセルは昔からリアンが気に入らないんだ?リアンはラッセルのこと、少し羨ましいといっていた。こんなに一生懸命働いていて、きっと仕事のやりがいを感じていて、リアンも本当は政務官になって働きたかったと思う……ん?」


 ラッセルがグッと下唇を噛み、悔しげな顔をした。


「リアン様のほうが俺にしたら羨ましい。リアン様は自分が幸せな立場にあると気づいたほうがいいです。どれほど願ってもその位置に行けぬ者もいる……いえ、なにも……し、しつれいします!」


 バッと踵を返して、部屋から出ていく。


 リアンが羨ましいだって……?な、なんだ?今の??


「あー、それは彼はきっと、なにか違うことを伝えたかったんじゃないでしょうか?」


 クスクスとコンラッドは意味ありげに笑った。


 今度、エイルシア、ユクドール、シザリア、ハイロンの4カ国で会談をすることになっていて、コンラッドはその打ち合わせに来ているのだった。


 休憩中にオレは臣下が謎すぎるという話をコンラッドにしたのだが……。


「どういうことだ?」


「ウィルバートもリアン様も鋭く賢いのに、何故か、こういうことには疎いんですよねぇ。なぜでしょうか?でも第三者が口を挟むことではないので、静かにしています」


 意味ありげにオレに言うだけ言って、肝心なことは教えてくれないのだった。なんなんだ!?

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