11章
王宮政務官
王宮勤めの政務官というのは優秀な者が多い。オレとリアンが通っていた私塾は、国でも優秀な者が集まっていた。
だから、この状況は必然的かもしれない。いつかはやってくる状況だったんだ。
「……陛下、なぜ突然、その大きな花瓶に隠れたんですか?」
セオドアが特に敵の気配しないですけど?と、言う。オレはキョロキョロ周囲を見回し、花瓶の影から出てくる。
「え、いや……見慣れた顔が見えたから、つい隠れてしまった。私塾の時の仲間なんだけどな。王という身分を明かしていないんだ」
「いや、もういいんじゃないですか?別に隠さなくても……」
「ラッセルという名だったかな?」
「挨拶したらどうですか?」
「今更!?どうやって!?」
やあ!実は王様だったんだ!って登場しろって!?絶対に騙していただろとかなぜ黙っていたとか言われて、もう前にみたいに話はできなくなってしまう。私塾へ行くこともできなくなるかもしれない。
セオドアにはオレの心境は、よくわからないらしく、首を傾げている。
リアンにラッセルがいたことを話すと顔をしかめた。
「げー……ラッセル?」
「リアンお嬢さまっ!王妃様とあろう方がげーなんて言葉遣いしてはいけません!しかも陛下の前で!」
「あ、大丈夫だよ。リアンとは私塾の時からの付き合いだから、ラッセルにそんな反応するだろうとわかってた」
アナベルが、陛下はお優しすぎますっ!甘やかさないでくださいっ!と言うものの、ラッセルの名を聞いて『えー!ラッセル!?会いたーい!』っていう反応されるほうが嫌かもしれない。そんなセリフ吐かれたら嫉妬だ。ラッセルを首にするかも。
「だって、ラッセル、なぜか私に嫌がらせしてきたんだもの」
そういえばそうだった。あいつ、何故かリアンに幼い頃から嫌がらせしてた気がする。リアンのテスト用紙を紙飛行機にして飛ばしたり、首席をとったときはカンニングしていると難癖をつけたり、女だから贔屓されてるとか大声で言ったり、リアンの頭に消しゴムを講義中にぶつけたりしていたよな。
でもリアンにだけだった。他のやつに対しては、むしろ親切で良いやつだったから変だと……まさか!!!オレは小さい男の子の恋心あるあるか!?好きな子をいじめるタイプなのか!?リアンのこと、好きだとか!?
「思うんだが、ラッセルはリアンのことが、好きなんじゃないか?気に留めてほしくて嫌がらせしていたっていう……あ、いや、ごめん」
リアンがオレの名推理にものすごく不機嫌で不愉快な顔をした。
「だとしたら、相当変よ!思い出しても腹が立つわ」
「倍返ししてただろ」
消しゴム投げられたら、掃除時間に汚れた雑巾をラッセルの頭に投げてたし、女だからと嘲られたら、実力でねじ伏せてから「あなたが馬鹿にしてる女に勝てないなんてね」と嘲り笑い、足を引っ掛けられて転びかけた時はラッセルの服を掴んで一緒に転ばせていたなど……そんな腹が立つほど大人しかったか?全部やり返してたよな?とオレは思い出して首を傾げる。そのうち、ラッセルはリアンに手を出すとろくなことにならないとわかり、フンッ!と嫌な態度で示すだけになっていった。
「……そうだった?」
まだやり返し足りないというようなリアンにオレの頬に一筋の汗が流れる。リアンには手を出すべきじゃなかったぞ……ラッセル。
「とりあえず、居たことだけ伝えとこうと思っていた」
「わかったわ。心してかかるわね!」
「いや、違う。そんな気合いいれるところじゃない」
嫌な予感がするぞ?とオレはこの時、思ったが、貴重なリアンとの時間をラッセルの話題で潰したくなかったから、話は終わっておいた。
まあ、政務官とは会う機会はめったに無いだろうと思ったのだった。
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