特別な女性へ特別な物を贈る

 迷うことなく、淀みなく。光が指す方を向いてウィルは言った。


「選ぶのはオレではない。選ぶ権利なんてないよ。愛する女性がオレを選んで自分の意思で傍にいてくれるんだ。それは、この上なく幸せで、そして感謝している。共に国を想ってくれる彼女にオレは救われている。王は孤独だ。時に残忍にならねばならないときもある。だけど闇にとらわれないように生きることはできる」


「そんな言葉は綺麗事で、王に好きだ嫌いだという感情は許されぬ。おまえたちのような存在は稀だ」


 ハリムは吐き捨てるように言って、下を向こうとした時だった。私のクスッと笑った声に顔をあげた。


「そんなことを言うけど、心の奥底では愛を諦めていないんじゃないかしら?あなたには後宮に密かに気に入りの女性がいるでしょ?花のように愛らしい笑うとふわっとした感じの……」


「なっ!?なにを言う!?」


 ハリムが動揺する。


「私、あなたにお願いしたわよね?素敵な頭の被り物を10枚用意して、他の方に差し上げてって……その中に一枚だけ、桁違いに美しく上質な生地を混ぜておいたの。それを被ってる女性がいたわ」


「あの贈り物はおまえがしろと言って……なんなんだ!それすらも策のうちだったと!?どこからどこまでが策だったんだ!?」


「あらあら?動揺し過ぎじゃないかしら?」


 私は楽しげに顎に指をやる。コンラッドがハイロン王よ……かわいそうにとポツリと呟く。


 え!?なぜかわいそうなのよ!?私は彼にむしろ幸せになってほしいのよ!?


「5部族以外の娘を寵愛してはならない。後宮の中で争いがおきる」


「だから好きな人とは結ばれなくても構わないって考え方なの?」


「国内外のことだけでも、大変なのに、めんどくさいことを持ち込みたくない。だから慣例として後宮に美しい女性は集めるが、そこから妃にすることはない!わかってるのか?愛していても妃にできないということだ」


 ハリムはどこか必死になってそう言う。それは自分に言い聞かせているようにもみえた。


「まぁ、利に叶ってますよね。争いごとを一つでも減らしたほうが、王としては楽ですしね」


「おまえがそれを言うか?人の王妃を奪おうとしていただろうが……」


 コンラッドの言葉にウィルが聞き捨てならないと半眼になる。


「ハイロン王、贈り物をする時に、垣間見えた自分の気持ちをどうするのか。彼女を後宮に入れたまま自分の手元に置いておくだけでいいのか……それはあなたの気持ち次第だもの。余計なことして悪かったわ。本当に好きな人がいるのかいないのか?気になったのよ」


 愛を知らない王は慈悲の心を持てない。そんな王が国を治めるのは民に不幸が訪れる。だが慈悲ばかりでなく、ウィルの言う通り、残忍な時も必要だと思う。裏と表。闇と光の狭間で決断し国を作ることの責任の重さは王である彼らにしかわからないだろう。


 だからハリムに好きな人がいて良かったと私は思った。


「おまえは後宮でもふてぶてしくて、たくましいから、やっていけそうだと思った。だから5部族以外の娘だが、リアンのことも好きになりかけていたかもな。ここの後宮にいてくれるといいんだがな」


「へっ?」


 ハリムがフッと優しく笑う。私が目を丸くすると、ウィルが間に割り込むように入ってきて、私を隠す。


 そのとき、ドアがノックされた。控えていた兵が頭を垂れて報告した。


「も、申しわけございません。客人がいるなか、緊急性があると思い、陛下に伝えたいことがありまして……」


「なんだ?」


 ハリムと伝令が戸惑うなか、私は最後の策が成ったことがわかった。扉の向こうには……。

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